本登録のための模擬戦の前
「あの、仮登録と言うのは?」
「ああ、その辺りの説明はまだだったな。仮登録は誰でも登録できるものだ。仮登録状態でも依頼を受けることは出来るぞ? まあ、受けられるのは手伝い何かの雑用系だけだが。その先の本登録をするにはうちの職員と一度模擬戦をして、問題なしとなれば登録できる形になっている」
なるほど。仮契約は貧困層…と言うか真面な職に就けないような人とかに対する救済措置みたいなものかな。
「本登録は今できますか?」
「ん? まあ、出来るが、大丈夫か? その恰好で戦えるとは思えないのだが」
恰好? あ、そう言えば契約で貴族では無くなったのだけど、平民が着るような服を持って無かったから、適当に平民としてギリギリ見えるような服をその中から見繕ったんだっけ。
まあ、貴族の令嬢が着るような服はどれもスカートだから戦えるようには見えないか。って、もしかしてあの受付嬢が私に対して最初から喧嘩腰だったのってこれの所為?
「ああ、大丈夫です。元より私は魔力が多…」
「あっ! ロイド、おかえりなさい! 今日のやつはもう終わったの?」
あの受付嬢から私の声が遮られるほどの大きな声が発せられた。一瞬、その声の主が誰だかわからず周りを窺ってしまったけど、他に声を上げたような人はいなかったから間違いはないだろう。
と言うかあの受付嬢、ロイドとか言うのがギルドに入って来てから以上に機嫌がよくなっているわ。意中の人とかそんな感じかしらね。少し前の態度を知っているとただ呆れるだけなのだけど。
「っと、とりあえず私は魔力主体で戦うのでこの格好でも問題はないです」
「…ぁあ、そうか。そういうタイプか」
ギルド長も受付嬢がいきなり大声を上げたことに気を取られていたようだ。さすがに雑用がしたくて登録したわけではないのだから、さっさと本登録をしたいところだ。
「じゃあ、模擬戦をすることになるが今からでも大丈夫か? 多少なら時間の調節は出来るが」
「今からでも大丈夫です」
「そうか、なら。シーア、私は今から裏のギルド訓練場で本登録の模擬戦をしてくるから、私に用があると言う人が来た場合は裏に誘導するように」
「は? 何故私がそんなことをする必要がある…、模擬戦ってそい、その方のですか?」
あ、言い直したわ。今まで話していたのに意中の相手が目の前に居るのを忘れていたのかしら。もう既にギルド長に毒を吐いている段階で無意味だと思うけど。条件反射的な物かしらね?
「そうだ」
「ふふ。ならその相手は私にやらせてください」
「駄目だ。加減のできない奴にこれは任せることは出来ない。前に、相手にやったことを忘れたのか?」
「あれは相手が弱すぎたのがいけないんですよ。私のせいではありません」
「本当にそう思っているなら、尚更シーアには任せることは出来ない」
「何でですか! いいじゃないの! 私がやってあげるって言っているのよ!」
「だがな…」
「私は別にその方でも構わないですよ?」
くだらない押し問答を見せつけられているくらいなら相手は受付嬢でも構わない。そもそもどっちでも結果は変わらないし。
「ほら! そい…その方も良いと言っているじゃありませんか!」
「いや、だが…」
「構いませんよ。相手がギルド長であろうと、頭が軽い貴方であろうと結果は変わりませんし」
「ほら! ん? あんた今私のこと馬鹿にしなかった?」
「いえ」
「そう?」
このシーアとか言うの、最初の一言、と言うか自分にとって都合のいい事しか聞いていないのかも? 都合がいいから構わないけど。
「はぁ、わかった。君がそう言うならいいが、何かあった時は自己責任で頼む。一応私も監視役として同行するが、こちらでは責任は取れないからな」
「わかったわ」
前に受付嬢がやらかしたことはギルド長にここまで危惧されるほどなのか。半殺しとかそのくらいは平然とやってそう。いや、そう言うのを何回もやっているのかも? それならギルド長の対応も納得できる。
「よし! ロイド、今から私は模擬戦してくるわ! 華麗にあいつを倒すから見に来てよ! そしてそんな私に惚れても良いのよ?」
うーん。模擬戦の相手がここに居るのによくそんなことが言えるわ。それにそんなことを言った上で勝ったとして、それで惚れるような相手って普通居ないでしょうに。いたとしても、相当な変わり者でしょうよ。
それに顔は見えないけど、明らかにロイドとか言う騎士っぽい傭兵が引いているのに気付かないのかしら。さっきからこの場から離れたそうに周りを窺っているのに。たまたま用事があって来ただけなのに気の毒だわ。
この受付嬢、頭空っぽと言うか、もう本当に馬鹿の一言よね。
でも、なるほど。
普通に倒すつもりだったけど、見学者が居るならついでにお仕置きするのも手かもしれないわね。
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