不自然さ
翌日直ぐに街を出発し、スタンピードの被害を多く受けている村、要するに魔の森に最も近い村に到着した。
既に村の人たちは避難していて誰一人村には居なかった。
「ロイド、そっちの魔物は倒せた?」
人が居なくなったせいなのか、別の要因があったのかはわからないけれど、村の中には多くの魔物が居座っていた。たぶん、放置されていた食べ物とか家畜を狙った魔物の群れが来て、そのまま居付いたとかそんな感じだと思う。
「倒せたよ。特別強い魔物が居る訳じゃなかったし」
なるほど、別に群れの長が居るという訳ではないのか。まあ、居たらもっと被害が大きくなっているだろうし、当たり前か。でも、そうなると群れの長は何処に行ったのか。
スタンピードは本来住んでいた場所に何らかの問題が起きて、その住処を追われた魔物が大移動なり逃げだすことで起きる物だ。だから群れ何かが移動するにしても長が引き連れて移動するのが普通だ。
長が居なくなったからばらばらで移動する場合がある、なんてことを言われたりもするけれど、大きな群れだと長が居なくなったら直ぐに新しい長が生まれるものなのでそんなことは無い。
そう言ったことが起きるのは群れが小さい、長以外の順位付けが曖昧な群れだけだ。だから、ばらばらに移動したところで大して被害は出ない。
ただ、この村に居た魔物は少なく見積もっても30匹は居たし、今もここに戻ってきている、もしくは新しく移動してきている魔物が居るので小さな群れなんてことは在り得ない。
だから村の中に群れの長が居ると思っていたのだけれど居ないとは。別の所に狩りに出ているだけの可能性もあるけれど、これだけの魔物が残っているのに長が出張ることは無いはずだからそれもなさそう。
むぅ。どう言うことなのかしら。
「そんな顔をして考えるのは後にして、問題を片付けた方が良いんじゃないかな?」
「むみゅ?」
いつの間にか私の目の前まで来ていたロイドが、そう言って私の頬を両手で揉みほぐすように優しく包んできた。頬をほぐすようにされたせいで変な声が出てしまったけれど、ロイドの手の暖かさを感じて、とりあえず考えるのは止めてそれに神経を集中させた。
頬が暖かい。これはロイドの手の暖かさなのか、私の頬の暖かさなのか、…両方? そして視線を少し上に向ける。するとロイドと目が合った。
「嫌だった?」
半年で大分、ロイドの私に対する態度と言うか接し方が変わった。最初は私から触れることすらどうして良いかわからないと言った風だったのに、今ではこうやって自ら触れて来るくらいにまでになった。実に良い事。ええ、本当に私の努力が実を結んだと言うことね。
「嫌じゃないわ」
頬に触れているロイドの手に私の手も重ねる。ずっとこうして居たい。そう思うけれど、さすがに魔物がうろついているような状況で、そんなことは言っていられないわね。
「ロイドの言う通り、先にこれ以上魔物が人の生活圏に入って来られない様に、堀でも作ろうと思う」
「え? そんなこと出来るの?」
「可能な範囲ね。さすがに深さ10メートルとかになると一度では出来ないけれど」
現状でも主に魔物の森のどこから魔物が出て来ているかは判明している。だからそこから移動できる範囲を覆うように堀を作れば、余程のジャンプ力がある魔物以外はこちら側に来られないようにすることは出来ると思う。
「どれだけ魔力を使うのか想像できないけれど、確かにそれが出来ればこれ以上の被害は減らせるな」
「ええ」
それに何か問題があるようなら国王に丸投げすればいいわよね? そもそも私の立場はまだ平民なのだから、責任云々に関しては関係ないはずだから。
と言うことで、もっと森に近付いてさっさと終わりにしましょう。
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