愚かな義妹

 場のざわめきが大きくなる。


 当たり前だ。仮に王子の婚約者だったとしても、国王に対して「おい!」と呼びかけるのは不敬以外の何者でもない。


 しかし、そんなことを言われたにも関わらず国王は顔を顰めることもなかった。


「ああ、聞いていた。が、少し待て。それで、この騒動の原因は何だ」


 国王がそう問いかけると、騒がしかったその場が、しんっと静かになった。


「父上! レイアが平民であることが原因です」

「ええそうです! 王子の婚約者に平民が選ばれているのがいけないのです!」


 本当にこいつらの頭は大丈夫なの? もしかして中身が入っていないのかしら?

 そもそも王子の婚約者を決めたのは国王であることを知らないの? 普通に考えてもそんなことを言ったら反逆罪に問われてもおかしくないと思えないのかしらね?


 「なるほど理解した。して、この令嬢は何処の家の者だ?」


 国王のその発言に自分の主張が認められたと思った王子は歓喜に震えていた。


「アイゼンリスト公爵家の令嬢になります。今後ともよろしくお願いします」

「いや、その必要は無い」

「え? それは、どう言うことでしょうか?」


 よろしくする必要は無い、そう言われてアイリの表情が固まった。直ぐに理解できないと言った表情になって、国王から不穏な気配を察知したようだけど今更ね。


「父上?」


 王子もさすがに話の流れからおかしいと感じたのか、国王の顔色を窺うように問いかけた。


「お前とレイアの婚約を纏めたのは私だ。故にお前が独断で婚約を破棄する権利は一切ない」

「ですが父上! 私も王族だ! ならその権利は…」

「そんなものはない。国王が決めたことを国王以外が変更することがあってはならない。そう簡単に国王が決めたことを覆せるようになってしまえば、国としての形を保てなくなってしまうわ!」


 アイリは怖いもの知らず、と言うか今まで自分の意見が否定されたことが無いらしいから、国王の発言が気に食わなかったようで国王に食って掛かった。


「ですが国王! 王族とそこの平民が婚約していると言うのは対面が悪いのではないのですか?」

「だから何だ? それよりもお前はアイゼンリスト公爵家の者だろう? レイアは同じ家の者なのは知っているだろうに、何故そのような発言をする」

「同じ家の者なんかではありません! あいつは所詮平民なのです。いくら我が家の養子になっていたとしてもそれは変わらないでしょう!」

「レイアがアイゼンリスト家の養子になったのは私の意向だ。故にお前の発言は国王への反逆として取るが良いか?」

「え? い、いえ…そんなことは」


 さすがに反逆と取られたら拙いと理解はしているのか、アイリは直ぐに言い返すことは出来なかったようだ。


「が、お前とレイアの婚約は破棄することになる」

「父上! 良いのですか!?」


 話の流れから出来ないと思っていたところに破棄すると言われて、王子は驚きながらも嬉しそうな表情で国王を見つめた。


 しかし、国王の発言をしっかり聞いていなかったのかしらね?

 なる、と言うことは国王の意思ではないと気付かないのかしら。


「そして、お前の王族としての権利を全て剥奪する。王宮からも出て行け」

「え? は?」


 婚約破棄を認めてもらった喜びから、直ぐに落とされた王子は訳が分からないと言った表情をした。


「国王! 何故そのような事を言うのですか! 今すぐその発言を撤回してください!」


 王族になりたい。権力が欲しいと常々言っていたアイリはようやく婚約できそうな王子が王族で無くなる、その事実を認めたくないその一心で国王に食って掛かる。

 そして話しかけると同時に出した左手から何やら靄のようなものが国王へと伸びて行った。


 ああ、これが王子の目が濁っていた原因かとレイアは理解した。


「なるほどな。ふんっ!」


 靄が国王に触れる、その直前でアイリが国王に何をしようとしていたのか気付いた国王は腰に携えていた剣を振るった。


「え?」


 そして誰かが声を出したと同時にアイリの左腕が宙を舞った。

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