自由にさせていただきます!!

貴族だから偉いのだ! ← こいつ大丈夫?

 

 この世界には魔力がある。


 そのため、それを有する生物が多く存在していた。


 その中には人も含まれていたが魔力を持っている生物の中では、持っている魔力は多いとは言えない量だった。


 故に、昔から人は魔力を多く持っている他の生物に日夜、生活を脅かされていた。


 その生物に対抗するには、同じように多くの魔力を保有する必要があった。

 そのため、その生物に対抗し得る存在は、貴族や平民などの立場に関わらず、保有する魔力の量が多いほど偉いと言う環境が出来上がっていった。  


 しかし、長い時間が流れ魔力を使わずに対抗するすべを生み出し、環境を作り上げるとその認識は徐々に薄れて行った。


 今はただ、魔力を多く保有していると偉いという風潮はかろうじてあるものの、魔力を多く保有しているのは貴族に多く、そのため魔力を多く保有していると言うよりも貴族であるからこそ偉い、と言う認識が広がっている国が大半を占めるようになっていた。 


 そんな世界に平民でありながら、保有する魔力が異常な程多く生まれ持っていたレイアは、国の意向で無理やり王子と婚約させられていた。


 本音を言えば拒否したかったレイアではあるが、いくら魔力を多く保有しているとはいえ平民の出である以上、貴族主義の国の意向に逆らうことは出来ない。

 そのため、国王と話し合った上で渋々その婚約を受け入れていた。


「ちっ! レイア、何でお前までここに居るんだよ」


 会食の場。今回は国王が出席しているので多くの貴族が出席している中、声を上げた人物は周りの視線を一切気にせず悪態を着いている。


「王子。私は貴方の婚約者として国王に呼ばれているのでここに居るのです。好きでここに居る訳ではありませんよ」

「だったら、隅に行けよ! 平民が目立つような場所に立っているな!」

「はぁ、そう言われましても婚約者である以上、王子の近くに居るようにと国王に言われていますから」


 何度も同じようなやり取りをしているため、呆れたようにレイヤは慣れた態度で対応していた。

 それが気に食わなかったのかさらに大きな声を上げ始めた。


「はっ! だったらお前が俺の婚約者で無くなれば俺の前からいなくなるってことだよな!」

「まあ、そうなりますね」

「だったらこうすればいいんだよな!」


 周りが騒めきに包まれている中、王子はレイアを見下しながら一人の令嬢を自身の隣に招く。そして何故か濁った瞳を大きく開いて宣言した。


「お前との婚約を破棄し、俺はこのアイリと婚約する!」


 レイアはそれを聞いて内心では歓喜していた。しかし、まだその感情を外に出さない様に心掛けながら王子に問いかける。


「それは本気で言っているのですか?」

「ああ! 平民ごときが王族である俺と婚約なんておかしいだろう!」

「そうよ! 何で私じゃなくて貴方が王子の婚約者に選ばれているのよ! いくら貴方が我が家の養子だとしてもおかしいじゃない!」


 王子に招かれた令嬢も王子と同じようにレイアを捲し立てた。

 

 この令嬢はこの国の公爵家の子であり、レイアの義理の妹に当たる存在だ。

 ただ、平民でありながら高い魔力を有するレイアが気に食わないのか、常に嫌味を言って来ていた。まあ、いわゆる悪役令嬢と言った感じの子である。


 おそらくこの騒動の首謀者はこの子だろうと、レイアは当りを付けた。


「養子の件は私も好きでした訳ではないのでこちらに言われても困ります。それと王子。この件を国王は知っているのでしょうか?」

「何故父上に知らせる必要がある。平民との婚約破棄など俺の独断でどうとでもなるだろう!」


 こいつ本当に王族なの? 相手が誰であろうと王子との婚約は国王が関わっているから、どんな理由があろうと王子の独断でどうにかなるものではないのですけど。


「まあ、その辺りは私がどうこう言う物ではありませんね。婚約破棄、いいでしょう!」

「言ったな! 周りの者たちも聞いていたな」

「ええ! 聞いていたわ! ようやく、これで私も王族の仲間入りね!」

「ああそうだ。これで何も気にせず、アイリと愛し合うことが出来るんだ!」


 本当にお気楽な2人だ。王族である以上そう簡単に婚約は出来ないし、そもそもこの場に国王が居ることを忘れていているんじゃないかしらね。


 周りの困惑を知らずに2人はまだその場でイチャついている。

 まあ、その気分を味わえるのは少しだけだから、このまま放置しても問題ないわね。


 そんな中、2人の向こう側から少しずつざわめきが近づいて来ていた。おそらくこの場に居る中で立場の上の人物がこの場を収めるために出てきたのだろう。

 喜び合っている2人はそのことに一切気付いては居ないようだ。


 そんな人目を気にせずに大声で喜び合う2人を無視して、レイアはその向こうから近付いて来た人物に向かって口を開いた。


「おい国王! 聞いていましたね! 契約通り私は自由にさせてもらいます!!」

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