茶番な式

 

 うーん。これって私はどうすればいいのかしら?

 おそらく国王は王宮内に残っている貴族第一主義派の一掃を目論んでいるのだと思うけれど、結局出て来たのは1人だけね。


 あ、でも、別に1人でもいいのか。今出てこなかった連中に対しての見せしめとして使えるから、今後表立って行動する輩は減るかしらね。

 国王も直ぐに貴族たちの考えが変わることが無理なのは理解しているはずだから、現状表立って発言なり行動しなければいいって考えだろうから。


「ふむ、理由を聞こう」

「理由など、わかり切っている事です。その娘が平民出身だからですよ。貴族の貴の字も知らないような平民に辺境伯の籍は荷が重すぎるでしょうから」

「ふむ、なるほど」


 貴族の貴の字も知らないって、一応私は一時期だけど貴族だったのだけれど、もしかしてそれを知らないのかしら? それとも所詮は養子だからどうあっても貴族ではなかったとでも言うのかしらね?


「それに、今回のスタンピードの収束の件も果たして本当にそのような事をしたのかどうかも怪しいではありませんか。平民がどうやってスタンピードを収束させたと言うのです?」


 え? 国王が認めたことを完全に否定すると? と言うか、これに関しての情報って王宮内で共有されていない? いえ、していない方がおかしいわよね。そもそも、私がスタンピードに関わったのだって国王の指示だし、そうした事を王宮の重鎮が知らない訳ないわよね。だとしたらこの貴族はこのためだけにここに呼ばれたのかもしれないわ。


「それは俺が虚偽報告をした、と言う事か?」

「え?」


 あー、これは完全に知らなかったと。いや、そもそも、ここで反論をするならしっかり調べるくらいは最低限していないと駄目でしょう。

 まあ、話の内容と態度からして、完全に平民だから貴族に劣るのは当たり前。だから出来るはずがないと言う根拠のない理論による発言なのでしょうね。


「スタンピードの件は俺がこの娘に直接命令を下したものだ。そしてその結果を確認したのも俺だ」

「え? いえ、何故国王がこのような小娘に直接関わっているのでしょう?」

「この娘は、元々俺の元息子の婚約者だった。まあ、あいつが馬鹿をやって婚約自体は解消されたがな」

「ま…まさか、あの件にも関わっていると?」


 いやもう本当に情報収集不足としか言えないわ。婚約破棄の話はかなり有名なはずなのに、その当事者である私を知らない…いえ、話自体は知っているようだから私と結びつかなかっただけかしらね。それでも、考えが浅いと言うか、どうして否定する相手のことを少しでも調べようとしなかったのか。


「ああ、そうだ。それで、お前は俺の決定を否定した訳だ。それも碌に調べず、平民だからと言う理由でな」

「ぐっ。ですが、平民は貴族に劣る。それは事実でしょう」

「大半はな。しかし、調べた限り、貴族並みの保有魔力を持つ平民も居ることはわかっている。そして、貴族でも碌に魔力を持たない輩が居るのも事実だ」

「ですがっ」

「もう既に貴族だけでは国は成り立たない。故に平民でも上を目指す事が出来ると言うことを示すためにも、この娘に貴族籍を与えると言うことになった訳だ。まあ、さすがにいきなり辺境伯の籍を与えるのは、この娘が規格外だからだがな」


 なるほど、そう言う意図もあったと。確かに対外的に示すにはちょうどいいか。……いや、私は一度貴族の養子になっているから、微妙なのではないかしら?


「碌に調べていなかったのも問題だが、俺の決定を否定したのも王政的には問題だな。とりあえず、お前は今後王宮に来る必要は無い。その他の部分については追々通達する」

「え、いえ、待ってください!」

「もうよい。連れていけ、邪魔だ」


 国王の呼びかけで、謁見の間の隅に立っていた警備兵が国王に反論した貴族を外に引っ張って行った。たぶん、あの警備兵もこのためだけに配置されたのかもしれない。私に貴族籍を与えるだけの極小の式典の割に警備兵が多かったから間違いないと思うし。


「他に意見のある者は居るか?」


 そう言って国王が周囲を見渡す。まあ、今の後だから意見を言う人は居ないと思うけどね。


「居ないな。では、この授与式はこの場で終了とする。レイアはこの後、貴族籍についての話し合いがあるため、控室で待っていろ」

「わかりました」


 そうして、茶番のような授与式は終了し、私はロイドが待っている控室に戻ることになった。

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