うれしい

 

「え? いや、それは本当ですか? 兄さん」

「ああ、そうだ。だから、お前がさっき言った年齢差の部分は気にすることは無い。と言うか別に平民でもそのくらいの歳の差でも問題はないだろう?」

「そうですね。私の実親もそれなりに差はありますし」

「だそうだぞ? それにレイアさんが言ったように魔力の方も今なら問題はないだろうに。少なくともその王子に関しては聞きかじった話、今のお前の魔力量とそう変わらないはずだ」

「え? い…や、まあ、そうなの…か?」


 さすがに気にしていた問題が埋められていく状況に戸惑い、どうしていいのかわからずロイドがあたふたしている。かわいい…じゃない。

 ロイドのお兄さんも別に私とロイドが付き合うこと自体反対している感じはないから、これで後は押し込めばどうにかなりそうね。


「まあいい。しかし、付き合っている前提で話をしに来たんだが、これだと予定が狂うな」


 え、ちょっと待って! もう少しこの話続けてよ。話の流れが変わったら、押し込み辛くなるでしょう?


「予定?」

「ああ、ロイドの魔力が少なかった原因もわかり、それも解消した。そしてロイドの相手が見つかったようだったから、今後どうするかを聞きたかったんだ。レイアさんは隣国の国王と繋がりがあるようだし、その辺りはしっかり聞かなければと思ってね」


 私の気持ちとは裏腹に話は進んでしまった。


 ああ、でも確かに。ロイドがまだ貴族席に居るならその辺りの擦り合わせ、と言うか確認は必要ね。勝手に別の国に行かれたら家としても国としても問題だろうから。


「しかし、付き合っていないと言うならこの話をする意味がなぁ…」


 そう言ってロイドのお兄さんが私の方を一瞬だけ見た。

 む? これはもしかして今ここでロイドを攻め落とせと?

 むむむ。まあ、ロイドの家からしたら隣国の王と繋がりがある私を逃がしたくはないと言うことなのかしらね? 


 ……いいわ。その意図に乗ってあげましょう! って、まあ、願ったりかなったりだから拒否するつもりは元よりないのだけどね。


「ねぇ、ロイド」

「んえ? な、何かなレイア」


 むぅ、さすがに話の流れ的に少し警戒されている感じがするわ。まあ、そんなことは気にしないで続けるけれど。


「好きよロイド。結婚を前提に私と付き合ってください」

「ぶほっ!?」

「ぅぐっ!」

 

 まさかここまでストレートに言われると思っていなかったのか、私の言葉を聞いた瞬間にロイドが咽た。そして何故かお兄さんの方も同じような反応をしている。


 こう言うのって相手の虚をどこまで突けるかが大事だと思うのよ。

 いや、そうじゃないって言う人もいるだろうけれど、ロイドみたいに毎回受け流すような人には効果的だと思うのよね。


 毎回受け流されているから、逃げられない状況で受け流せないようなことをしないとまた同じ結果になると思う。だから正面から当たらないとね。


「え…あの」

「ロイド。何度も言っているけれど、私は貴方が好きよ。だから結婚して?」

「え? 結婚?」


 あ、間違えたわ。何言っているのかしら。確かに結婚は何れするけれど、先に付き合わないと駄目じゃない。ん? いえ、別に付き合わなくても良いのかしら? 貴族だとお見合いをして直ぐに婚約、と言うか結婚ってのは良くあるし問題はない?かしらね。


「くく、結婚を前提にと言うのも驚いたが、いきなり結婚とは」


 ロイドのお兄さんがおかしそうに笑っている。いや、私にとっては笑い事ではないのだからもう少し黙っていて欲しい。


「ねぇ、ロイド」


 隣に座っているロイドの手を両手で包む。

 ロイドの沈黙が長い。ロイドが何も言わないから緊張して来たわ。たぶん今回ロイドに断られたら、次は難しい。お兄さんの前で、しかも逃げ道を塞いだ上で受け流されたら、もうどうしていいのかわからない。


 だから、お願い。いつもみたいに流さないで欲しい。


 緊張からロイドの手を包んでいた私の手に無意識の内に力を入れてしまった。それに気づいた私は直ぐに力を抜いたのだけれど、それに気づいたロイドがようやく口を開いた。


「レイアは…」

「何?」

「本当に俺なんかで良いのか?」

「私はロイドが良い。と言うか、ロイドでないと嫌」

「…そうか」


 また、次の言葉が出る前にロイドは黙ってしまった。


 でも、たぶん…答えは出してくれると思う。だからロイドが次の言葉を発するまで私はこれ以上の言葉を掛けることはしない。


「そっか。うん。そうだな」


 時間にしてたぶん30秒くらいだったけどようやくロイドの口が動いた。


「レイア。毎回はぐらかしていてごめんな。本来ならこんな状況で言うのは良くない気がするけど、こんな俺でよければ」

「うん」

「付き合ってくれ、レイア」


 そう言ってロイドは片手を包んでいた私の手の上にもう片方の手を載せた。ロイドのその言葉を聞いて涙が溢れてきてしまうわ。


「うん。喜んで!」


 そう言葉にしつつ、感情のままにロイドの手をより強く包んだ。

 嬉しい、うれしい! ああ、やっと、やっと。そう考えるとさらに涙が溢れる。ああ、今日の私は泣きすぎね。


 ああ、駄目よ。そう思うよりも早く、私はロイドの体に抱き着いていた。

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