長期の今後の予定

 

 嬉しさに任せてロイドの体を堪能する。これは最近、障壁系の魔法も使えるようになったから今まで着ていた鎧を着なくなって、ダイレクトに触れるようになったから出来ることね。


 最初の頃は鎧を常に着ていたから、不意にロイドに触れようとしても鎧に阻まれて悲しい思いをしていた。それが嫌だったから真っ先に障壁系の魔法を教えたのよ。

 その結果が今に繋がるのだから、その時の私はよくやったと思うわ。


「すまないが、そろそろ話を進めさせてもらって良いか?」


 む、もう少しロイドの体を堪能していたかったのだけれど、確かにこのままずっと抱き着いていると日が暮れるわね。


「ごめんなさい。一旦やめるわ」

「一旦…」


 何か少し複雑な表情で私を見て来たロイドがそう呟いた。まあ、身内にこう言った場面を見られるのは恥ずかしいから、ここでは止めて欲しいってことなのだと思う。まあ、そう思われていても隙があればやるけど。


「まあ、これで予定が狂わなくてよかったと言うことだな。ってことで、本題ってことでもう一度聞くが、2人とも今後はどうするんだ? まあ、さっき付き合い始めたばかりだからそこまで予定は決まっていないだろうけどな。あくまで今まで考えていた今後の予定で良いから教えてくれると助かる」


 今後の予定ねぇ。まあ、当分は今までと同じように過ごすことになると思うのだけれどね?


「予定、と言っても碌に決めていないな。そもそも、今の生活を安定させたいから今まで通りその資金集めになると思う」

「私も同じ感じですね。まあ、私の場合はロイドとは違ってその場しのぎが出来ればいいから、資金集めはそこまで積極的にするつもりはないのだけど」

「あぁ、まあ、そうなるよな。少なくとも今は宿に泊まっているんだったか?」

「安宿だけど」

「同じく」


 資金集めをする以上、このままあの宿に泊まり続けることになる……あ。今はもうロイドと付き合っているのだから別々の部屋を借りる必要は無いのではないわよね?


「ん? と言うことは、2人は同じ宿屋で別の部屋を借りているのか?」

「そうだな」

「そうです。でも、いっそこれを機に別の宿で2人部屋を借りた方が安く済むのではないかしら? ロイド」

「え? あーまぁ…そうだね」


 ロイドのお兄さんが笑顔で首を縦に振っているのが見える。そしてロイドはさすがに付き合いだして直ぐに同じ部屋で寝泊まりするのを躊躇っているようだ。まあ、今までのことを考えればすぐにわかることだけど。


「まあ、その辺りは2人で決めてくれ。それよりもレイアさんは長期的な予定はないのかな?」


 そうよね。さすがにそれは聞いてくるわよね。たぶん印章を見せていなかったらこんなことは聞いてこない、と言うかこの話し合いもなかったと思うし。


 あの印章って、結局こいつは私の国の重要人物だから手を出すなよって意味合いが強いのよね。だから、その印象を持っている私はどうやってもこの国に定住することは無い。だから今後のことを聞きたいのだろうから。


「とりあえず、何もなければ当分はこの国に居ますよ。ただ、時期が来れば国に戻る事になると思いますけど」


 その時にはロイドも連れていくけれど、そう言えばロイドの家的には大丈夫なのかしら?


「具体的にはどのくらいの期間かな?」

「長くて私が20になるまでね」

「そうか、長くて4年かぁ。思いの外、期間が短いな。それで、最短だとどのくらい?」

「今すぐですね。あの国王との契約上、指示があった場合それに従わなければならないので。まあ、少なくとも数カ月は何もないと思いますけどね」


 私が自由に出来る期間は決まっている。これは私も納得した上での契約なので嫌はない。


 これについては、そもそも、私のように保有魔力が膨大な人間がそこらを自由に動いていると問題があると言うことに由来する。簡単に言えば兵器が国に関係なく自由に動き回っていたらそれの取り合いになる、と言う話。

 そして、その取り合いによる争いで被害が出ない様に、この兵器はこの国の者だと示す目的で印章が与えられたと言う訳ね。


 私が兵器扱いされているのはいささか不愉快ではあるのだけれど、実際に争いなり戦いになった場合のポジションがそうなのだから完全に否定することも出来ない。


 これがもし、私の存在が国に知られていなければこんなことをしなくても良かったのだけれど、既に見つかってしまっている以上、対処する必要があると言うことだ。


「なるほど、わかった。これについて家の方に話すことになるが問題はないか?」

「うぅん、たぶん大丈夫だと思うわ。別に口止めはされていないし、話したところでどうしようもないだろうから」

「わかった。…で、ロイドは今の話を聞いて話すことはあるか?」


 話は終わり、と思ったところでロイドのお兄さんが今の話に入って来られなかったロイドに声を掛けた。


「あぁ、そうだなぁ。…レイアが国に帰るって話なんだけど、もしかして俺も一緒に行くことになるのか?」

「レイアさんと別れなかったらそうなるな。なんだ? さすがにそれは嫌だと言うことか?」


 む? 嫌なの? 本当に嫌なら、無理やり連れては…無理やりは、いえ、無理やり連れていくけど。

 でも嫌々連れて行くのは嫌だわ。そうだったとしたらしっかり説得しないといけないわね。


「いや、そうじゃなくて俺はまだ貴族籍に居るんだろう? このまま別の国に行く、と言うか婚約なり結婚なりをすると問題にならないか? 現状だとレイアは平民扱いなのだろう?」

「あ、そうだったな。いや、でも印章を持っていると言うことは貴族扱いにはなるだろうから、問題はない…か?」

「ああ、それについても私が国に戻る際に貴族籍に入る事になっているわ。たぶん、何事もなければ侯爵になるらしいって国王が言っていたから」


 私は貴族にはなりたくなかった。でも、これもさっき言ったように争いを避けるためと言うこと。まあ、印章のやつとは違って国外に対してではなく、国内に対しての牽制。


 いくら貴族第一主義が無くなったところで、貴族は序列を重視している。と言うか、それがないと国を纏めることが出来ない。だから、私と言う兵器を安易に扱えない様に貴族籍に属させると言うことだ。


 本当に国と言うか貴族は面倒なことが多くて嫌になる。


「なるほど、それは我が家にとっては朗報だな」


 ロイドのお兄さんが少し安心したように息を突きながらそう言った。まあ、他国の侯爵家と縁繋ぎができれば、それは朗報でしょうね。


「そうか、それなら良かった」


 私と付き合ったことで、まさか隣国に行くことになるとは予想していなかっただろうけど、それを聞いてロイドが安心しているようだ。その姿を見て少しだけ私も安心することが出来た。


 そうして、色々あったロイドのお兄さんとの話し合いは終わり、ギルドを出たところでロイドのお兄さんと別れた。


 さて、じゃあロイドと2人で泊まる宿を探しに行かないとね? できれば部屋は狭くてもベッドが隣り合っているか、もしくは大き目のベッドが置いてあって2人一緒に寝られるような宿屋が良いのだけれど。


 私はそんなことを考えながらロイドを引き連れて街に出た。

 この後は宿を探しに行くと聞いたロイドが若干、苦笑いを浮かべていたけれど宿の変更は既に決定事項だから諦めなさいね?


 そして私は今後の生活がより楽しく幸せな時間になる事に確信し、ロイドとの恋人生活に期待で胸を膨らませて宿を探しに行った。




 残念ながら、この自由で幸せな時間はそんなに長くは続かなかったのだけれど。

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