受け渡し完了


 日が落ちる直前に私たちはギルドがある町に戻ることが出来た。


 さすがに辺境伯を引き摺ったままだと町に着くまでに日が暮れてしまうので、途中から辺境伯を魔法で浮かせて運んだ。まあ、その段階で辺境伯は痛みやら疲れでぐったりしていたから、それ以上引き摺る必要もないと判断したのもあるけれどね。


 そして、そのまま町の中に入ってからギルドに着くまでに色々あった。まあ、辺境伯はこの辺りの領主であるわけだから、それが引きずられて来たら事情を知らない人は驚くだろうし、何事かと思うのは理解できる。


 町に入る前に衛兵が即座に私たちを止めたのも、理解できる範囲ね。ただ、事情を聴いて直ぐに開放されたことは理解できなかった。だって、この土地の権力者を引き摺り回しているのって、事情を聞いたくらいで受け入れられるようなものではないでしょうよ。

 まあ、色々聞かれるよりは断然楽だから良いのだけれど、どうも釈然としない。


 そうして、今はギルドの中に入った所なのだけれど、さすがに目の前にある光景を一切予想していなかった状況に私は少し戸惑いと驚きを隠せない。


 いや、だって、ギルドに入ったら国王が仁王立ちしているなんて状況、誰が想像できる? どう考えてもおかしい以外ない光景よね?


「……何で貴方がここに居るのです?」


 驚きで思考が定まらない中でどうにかその一言を捻り出す。


「そろそろ対処が済んでいると思ったからだ。現にその報告をするためにここに来たのだろう?」

「ええ、まぁそうですけど」


 ああ、そう言えば国王って、予知の魔法なり能力を持っているのではないかと思う程、勘が良かったわね。それも第六感が優れているとかのレベルではないくらいに。


 それと、さっき衛兵がすんなり私たちを解放した理由は、ここに国王が居ることで大体察することが出来る。おそらく、事前に国王が話を通していたからだろう。


「まあ、いいです。とりあえずこれを受け取ってください」

「ああ、まさかこれが今回のスタンピードを引き起こしていたとはな」


 言葉とは裏腹に国王の表情は一切驚いた感じはない。これはどう見ても元から辺境伯が犯人であると確信していたのだろう。まあ、国境の関所の段階で凡そ察していたことではあるのだけどね。


「何故、私がこんな目に合わねばならんのだ」

「いや、自業自得だろう」

「うぐっ」


 ギルドの床に横たわっていた辺境伯が譫言のようにそうつぶやくと、国王はこれ以上辺境伯の口を閉ざさせるためなのか、割かし強めに蹴りを入れた。


「これで私の役目は終わりですよね?」

「ああ、後日褒賞与える。それと、契約に関しても後日だな。さすがにここで手続きは出来ん」

「わかりました」


 今の段階で契約を履行するのが出来ないのは理解できるので了承する。まだ、辺境伯の籍は開いていないし、私が貴族籍に入るにしても手続きがあるから仕方がない。


「では、俺はこれで戻ることにしよう」


 国王はそう言って付き人やその他諸々を連れてギルドを出て行った。当然私たちが引きずって来た辺境伯も外に運び出されて行く。


 そうして、私が国王から契約によってやらされた事態は幕を閉じた。

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