運搬するのにロープを使う


 辺境伯を確認するとロイドの拘束から逃れようと藻掻いていた。

 これはもしかして元王子が堀の下に落ちたことに気付いていない? それとも気付いていながらどうでもいいと無視しているのかしら?


「今、元王子が堀に落ちたのですが気付いていますか?」

「ああ? 別にあれがどうなろうと構わんわ! それよりもこの拘束を解け!」


 なるほど、自分に被害が無ければ仲間であってもがどうなろうと気にしないと。元王子もアイリも手駒の一つでしかないと言う認識なのか。

 いくら、アイリや元王子が使えない存在だったからと言って、一緒に行動していたのならもう少し気に掛けるくらいはあっても良いと思うのだけど。

 

 自分さえよければ、と言う考えのやつって殆どの場合周りに害しかもたらさないのよね。しかも先のことなんて一切考えていないから、後々不利益を受けることも多いのだけど、それも他人のせいにするし。本当に近くに居て欲しくない存在よね。


「ふーん。そう」


 もうこいつの話を聞く必要は無いわね。おそらく今回のスタンピードの元凶はこいつだろうし、話せば話すだけ不愉快になるから、これ以上話したくはない。


 さっさとギルドに持っていこう。そう判断して空間魔法でしまっていたロープを2本取り出し、ロイドが拘束している内に取り出したロープで辺境伯の両脚だけを縛った。そして脚を縛ったロープにもう一本のロープを括りつける。


「おい! 何をする!? 何故脚を縛るのだ!?」

「これで良いかしらね。とりあえずロイドはこっちのロープを持って」

「え? ああわかった」


 ロイドは私に言われるままにロープを持った。何でロープを持たされているのかわからない様子だけれど、特別なことはしないので特に説明はしない。


「それじゃあ、行きましょうか」

「え? あ…え? も、もしかして引き摺って行けってことなのか」

「そうよ。自分のことしか考えられないような奴の運搬方法はそれで十分でしょう?」


 国王からは関係者が居た場合はそれの排除するように言われている。当然それは生死問わずなだから、殺さないだけましと言う感じね。まあ、その後のことを考えればここで排除してあげた方が良いのかもしれないけれど。


 と言うことで、ロイドにロープを引っ張ってもらいギルドに向かうことにしよう。


「このっ! そう易々と行くと思うな!」


 両脚を縛られて引きずられている状態でそう言うのは滑稽の一言でしかない。


「このロープさえ切れれば、っくぬ! む!? 何故魔法が使えぬ!?」


 当然魔法を使えるのだからその対処はしてある。と言うか、むしろしていない訳がないでしょうに。


 辺境伯の脚を縛っているのは、そのロープに触れている者の魔法を封じる特別な魔法が込められた物だ。本来は、魔物を生きたまま捕獲するために使われる物だけれど、こういった場合にも使われることのある物。


 ロイドはロープが切られないか時々心配そうに振り返っていたけれど、そんな心配はいらない。ただ、辺境伯にその辺りの説明をしたくはないので、そっとロイドにそのことを説明した。


 そうして私たちは辺境伯を引き摺りながらギルドに戻って行った。

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