馬鹿と話をすると疲れる
魔物が堀に落ちていく。中には堀を飛び越えようとしている魔物も居るけれど、後続で渋滞が起きている所為で碌に助走も出来ないため、こちら側に届きそうな魔物は今の所居ない。
堀の底に魔物が溜まっていく。中にはまだ生きている魔物も居るけど後から落ちて来た魔物に押しつぶされているのも居る様子。
あの子はもう見えなくなっている。さすがにもう駄目なのはわかっているのだけれど、この後、ことが終わったら引き上げて上げるべきかしらね。さすがにこのまま埋め立てるのは可哀そうすぎるし。
魔物が暴走し始めて30分程が経った。堀に落ちた魔物の数は優に千は超えており、目の前の堀は底が見えなくなるほどの魔物で埋め尽くされている。
ただ、魔物の森側に居る魔物の数が少しずつだけど減り始めているらしく、堀に向かって来る魔物の数も減っているように感じる。
さすがに後から落ちていった魔物の一部は、既に落ちていた魔物がクッションの役割をしたらしく、大してダメージを追っていない個体もいる。まあ、そういった奴は上から私が魔法で倒すのだけど。
辺りを見渡す。見る限りこの堀を越えた魔物は見られない。さすがに堀全体を一度に見張ることは出来ないので、定期的に別の場所で魔物が堀を越えていないか目視で確認しているのだ。
ついでにそろそろ戻って来るだろうけど、ロイドも見回りに出ている。
「あ、ロイド。見回りは終わったの?」
「ああ、見た限り堀を越えた魔物は居ないと思う」
「そう、それは良かったわ」
魔物が堀を越えられないのであれば、このまま放置しても大丈夫かしらね。
「何やら魔物が森から離れるのが遅いと見に来てみれば、何だこれは?」
ロイドと状況の確認をしていると、また堀の向こう側から声が聞こえた。アイリの時と同じパターンね。と言うことは辺境伯かしら?
声がした方を確認すると初老の男ともう一人、初老の男の影に入ってしまっているので確認は出来ないけれど背丈的におそらく男が立っていた。
「む? おい! そこのお前! これは何だ!」
え? 今気付いたの? アイリの時もそうだったけど、注意力が散漫すぎると思うのだけど。
「堀以外の何に見えるのですか?」
初老の男の問いに返すならこれ以外ないと思う。まあ、何が聞きたいのかはわかっているのだけどね。
「そんなことを聞いているのではないわ! 何故ここにこれがあるのかを聞いているのだ!」
「あぁ、それなら魔物の侵攻を食い止める以外にないじゃないですか。貴方は他に思い当たる物でもあるのですか?」
あからさまに相手を馬鹿にするような口調で言葉を返す。アイリと同じようなタイプなら、煽って怒らせれば多少口が滑ると思うのよね。
たぶん辺境伯が今回のスタンピードの大本だろうし、出来るだけ情報と言うか証拠が欲しい。ついでに捕まえられれば良いのだけれど、さっきのアイリみたいに自滅しそうなのよね。
「辺境伯である私を馬鹿にしているのか!?」
「少し考えればわかることを聞いて来ているのですから、多少は馬鹿にしますよ」
私の言葉を聞いて初老の男は怒りで顔を赤くしている。いや、煽り耐性無さすぎじゃないかしら。と言うか、勝手に自分が辺境伯であることを話したのだけど。
煽り耐性が無いのも口が軽いのも、貴族としては致命的じゃないかしらね。これでよく国王の補佐的なことが出来ていたわね。
「ちょっと待て! 何でお前がここに居るんだよ!」
辺境伯が私に向けて怒りを顕にしていると、その後ろから2人目の男が出て来て私に向かってそう言い放った。
「おや、元王子ではないですか。もしかして辺境伯の手伝いでもしていたのですか?」
何となくアイリが居たからもしかしてとは思っていたけれど、やっぱり辺境伯の後ろに居たのは、アイリと一緒に追放されたはずの元婚約者の元王子だった。
「何でお前がここにるんだよ!」
あーうん。2度目ね。アイリも同じことを聞いて来たし、2度も同じことを言いたくはないから適当に無視でもしましょうか。あ、でも、この手の輩って無視すると却ってうるさくなるのよね。面倒だわ。
「あー、まあ、貴方が気にすることではないわ」
「何でだよ!」
面倒だわ。本当に。
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