貴方が欲しい
傭兵の『登録をお願いします』
自由になった翌日、私はあの国を出ていた。
直ぐに実家に戻っても良かったのだけれど、実家は辺鄙なところにあるし今更戻るのも何か恥ずかしかったから、知り合いも居なさそうな隣の国に来てみたのだ。
しかし、どうやって生活費を稼ごうか。
契約によって多少国王から金銭は受け取っているのだけれど、長期間生活できるような金額ではないのよね。元より、仕事に就くまでのその場しのぎが出来る程度の金銭しか要求していなかったし。
まあ、とりあえず大き目の街に行けば何とかなるでしょう。魔力があればなんだって出来るしね。
で、とりあえず道を進んで街に着いた。
さて、何処で仕事を探そうか。まあ、息抜き目的だから長期間仕事をするつもりはない。何れ実家に戻るつもりだし、その辺りも考えて探そう。
しばらく街の中を探索して働けそうなところを探した。
そして、幾つか働けそうな職業を見つけた中で、私が選んだのは……傭兵!
魔力があればどうとでもできそうだし、辞めるのも自由だ。何て私向きの職業なのだろうか。
傭兵業を纏めているらしい傭兵ギルドと看板を掲げている建物の中に入る。
うん、人はまばらだ。時間的に今はあまりいない感じかな? 見た感じ結構な人が使っているのがわかるからそうなんだと思う。もしかしたら、ただ建物が古いだけかもしれないけれど。
うーん。これは最初何処に行けばいいのやら。
受付に行けばいいのかしら? まあ、他に話が聞けそうなところはないし受付に行こう。何やら機嫌が悪そうな受付嬢が座っているけど、今はそこにしか人が居ないし。
「すいません。傭兵の仕事を受けたいのだけど、その場合どうしたらいいので…」
「あ? 何言ってんのよあんた。あんたみたいな女が傭兵なんて勤まる訳ないでしょうが。馬鹿じゃないの?」
おーん? 話しかけただけで喧嘩腰とは、大分態度が悪いなこの受付嬢。まあ、とりあえず初めてだから受け流そう。
と言うか、女だからダメって感じじゃなくて、明らかに見下している感じね。この子、受付に居て大丈夫なのかしら? 何かしら問題を起こしていそうなのだけど。
「貴方にそれは関係ないですよね? 傭兵の仕事を受けるためにはどうしたらいいかを聞いているだけですよ?」
「はんっ! そうですか! ここで、仕事を受けるには傭兵としてこのギルドに登録する必要があります! ほら! 答えたんだからもういいでしょう!」
余程、私の対応をしたくないのか受付嬢は簡単に説明した後、追い払うように手を動かした。
「わかりました。では、登録をお願いします」
「は? いや、あんたじゃ無理って言っているでしょう。さっさと帰ってください」
「登録をお願いします」
「だから、無理だって! 帰りなさいよ!」
「登録をお願いします」
「いや! だから」
「登録をお願いします」
「ちっ!」
「登録をお願いします」
「あんたねぇ!」
「登録をお願いします」
あからさまに私を受け入れるつもりはない、すぐに帰れ! と言ったスタンスの受付嬢に対し、私は何度も同じことを言い続ける。
私は、これは受付嬢が折れるまで続けるつもりだ、と受付嬢のやり取りを見ていた傭兵たちにそう思わせるくらい、淡々と同じことを言い続ける。
「さっさと帰りなさい!」
「登録をお願いします」
「帰れよ!!」
受付嬢はそう言って受付に備えてあった木札を投げつけてきた。
まあ、動作は遅いし投げて来た物はそんなに大きくはないから、動作を見ていれば躱すのはそんなに難しくない。
「登録をお願いします」
「ああああああ!!」
何度も同じやり取りをし続けることが出来なかったのか、耐えきれなかった受付嬢がそう声を上げた。
「何の騒ぎだ。これは」
さすがに、この騒ぎと言うかやり取りが受け付けの中にも聞こえていたのか、奥から大柄な男が出て来た。
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