閑話 国王
会食が終わり、国王は自身の執務室に戻っていた。
「良かったのですか国王様」
いつも国王の執務の補佐をしている男が国王に声を掛けた。どうやら、今まで人目のある所で国王に反論するようなことは避けていたようだ。
「何がだ? レイアのことか?」
「いえ、王子のことです。いくら国王様が纏めた婚約だとしても王族から追放するのは、やり過ぎではありませんか? 相手はただの平民ですよ?」
その発言を聞いて国王は補佐役の男を少しの間、観察していた。
「なるほど」
「何か?」
「いや、気にするな。あいつに関しては元より捨て駒みたいなものだ。俺の子であるにもかかわらず碌に魔力を持たず頭も悪い。よもや俺の子ではないのではと何度考えたことか」
「そうですか」
補佐役の男は何か思うところがあるのか少し重い雰囲気で国王に短く言葉を返した。
「とりあえず、あの令嬢が居る公爵家は降爵しておけ。公爵家であるにもかかわらず、あのような考えを持っているのは問題だ。国力を考えるとさすがに奪爵する訳にもいかない故、少なくとも伯爵まで落とす」
「え? いえ、さすがにあのようなことでそれは拙いのでは?」
「ふん。まあ、お前もあの考えを持っているようだからな。下手に事例を作りたくないのだろう?」
「い…いえ、そのような事は…」
「そもそもこの国の貴族の在り方は歪み過ぎだ。そろそろその辺りは正さなければならない」
この国王は貴族第一主義に否定的な意見を持っている。いや、正確には、レイアを見るまでは貴族第一主義だった。
今では魔力を多く保有する者が多いことがその国の国力と言われている。そんな中で貴族第一主義を掲げていては、平民の中でも稀に生まれる魔力を多く保有する人材を確保する妨げになりかねない。
そう判断してからは魔力第一主義になった。
何やらあまり変わった感じはしないが、少なくとも貴族でなくとも魔力を持っていれば優遇すると言うこと。それによりこれは、いままで平民でありながら貴族並みの魔力を保有していることで、貴族に虐げられていた人たちにとっては朗報に違いない。
要はこの国王は国のためなら考えを替える、国益を優先する者だったと言うこと。だから、平民でありながらもレイアは国王と契約を通して賭けをすることが出来たと言うことだ。
「………了解しました」
「ああ、それとあの令嬢は国外追放しておけ。あの場で魔法を使ったのもあれだが、それを俺に向けたのはどうしようもない」
「そうですね。さすがにあれは庇いようがない。しかし、死刑にしても良いと思うのですが、何故そのようになさらないので?」
「多少は魔力があるようなのでな。少し勿体無いと思っただけだ。ああ、そうだ。そいつとあいつは同時に追放しよう。その方が面白いことになりそうだしな」
「あいつとは、王子のことですか? 何故そのような事を」
「何、ただの気まぐれだ。それにただ追放しただけでは直ぐ野垂れ死ぬだけだ。だったら、2人で追放した方が良かろう? 2人でいる分長く苦しみそうではないか」
「悪趣味ですな。……ですが、まあ、了解しました」
そう言って補佐役の男は国王の執務室から出て行った。
「……あ奴もそろそろ切り時か」
翌日、補佐役の男が国王の執務室に現れることは無かった。
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