辺境伯領

 

 辺境伯領は他の領地と比べて比較的肥沃な大地が広がっている。それは領地に隣接する魔の森と呼ばれる魔物が多く住まう場所があり、そこから流れる魔力の影響によるものだとされている。


 ただ、魔物が多く住まう場所に隣接しているため、そこに住まう人はそれほど多くはない。何故なら、定期的に森から魔物が出て来ることによる被害が発生しているから。


 大抵の場合は現地の傭兵に討伐依頼が出て討伐されているけれど、そもそも依頼を出すタイミングは被害が発生してからなので、討伐されるからと言って被害が減る訳でもない。

 だから、いくら肥大な土地を有しているにも拘らず、領地の人間が少ないと言うことなのだ。


 って、まあ、色々と辺境伯領の多少の知識はあるのだけど、実際に訪れたのは初めてになる。


「ねえ、ロイド」

「ん? 何だ?」


 目の前に出て来た魔物を魔法で攻撃しながらロイドに話しかける。


 私たちは国境の関所を出てから真直ぐ辺境伯領に向かった。辺境伯領がある場所はあの関所から国の反対側になる。そのため移動に数日を要した。


 その所為なのか、元からこの状態なのか辺境伯領に到着し、大して魔の森に近付いていないにも関わらず、魔物の襲撃と言うか遭遇することが頻繁に起こっている状態だ。


「あっちの国でもこう言った場所ってあるのかしら?」

「うーん、まあ、あるにはあるけど、ここまでじゃあないな」

「じゃあこれは異常ってことかしら? 元の状態がわからないからこれでどのくらい魔物が増えているかわからないのよね」

「いや、スタンピードが起きているから確実に増えているんじゃないか? さすがにこんなに出て来るようだと、人が住めるような土地ではないし」


 まあ、ロイドの言う通りか。さすがにこれだと真面な生活は送れないだろうしね。


 まだ、魔の森がはっきり見えるような場所でもないのに既に50匹以上の魔物を倒している。これでもスタンピードと言うには少ない方だけれど、これでもまだ本格的に起こっていないと言うのなら、これからかなり酷いことになりそうだ。


 本来なら予兆程度ではここまで魔物が出て来ることは無いのだから、これはしっかりと対策をしないと余計な被害が広がりそうね。


 でも、このスタンピードは何かがおかしい。と言うか普通だったら少しずつ魔物が出て来ているのはおかしい。スタンピードは突発的パニック現象と言われるくらいだから、一気に魔物が出て来るはず。でも今回は見る限りそうじゃない。


 と言うことは、やっぱり人為的に引き起こされたスタンピードなのかもしれない。


「とりあえず、これが終わったら一旦近くの街に行って情報収集かしらね」


 そう言いつつ目の前に来ていた犬型の魔物を倒す。強さ的にはそんなに強くはないのだけれど、如何せん数が多い。犬型の魔物は群れを作ることが多いので厄介よね。


「そうだな。このまま倒していても切りがないし、他の所でも同じように対処しているのなら、そことの連携も必要だ。下手なことをすると返って被害を大きくするかもしれない」

「確かにそうね」


 今更な気もするのだけど、ロイドの言うことはもっともね。

 そんなことを考えている内に、近くに居た魔物を全て倒し、その亡骸を空間魔法で収納した。


 これは後で傭兵ギルドなりに運んで換金した方が良いかしら? あ、でも、もしかしたら同じように考えて既に持って言っている人もいるかも? そうなると引き取ってくれない可能性もあるわね。


 まあ、その辺りは付いてから考えればいいかしら。それに今日泊まる宿も探さないといけないし、早めに街に向かいましょうか。


「ロイド。こっちは全部しまったわよ。そっちはどう?」

「こっちも問題はないな」


 さすがに攻撃した際に魔物から出て来た汚物、と言うか、まあその色々を持っていく気は無いので、その処理をロイドに頼んでいたのだけれど、何事もなくそれの処理は終わったようだ。まあ、近くに魔法で穴を掘って埋めただけだから手間以外の問題は起きないと思うけれど。


 そうして私たちは足早にその場を離れ、近くの町へ向かった。

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