何でもいいなら、貴方が欲しい
「あの?」
「おい、どうした?」
おっと、ロイドの顔を見過ぎたわね。
「ごめんなさい。何でもないわ」
「そうかい?」
「ええ、じゃあさっさとやってしまいましょうか」
いつの間にかロイドは鎧を脱ぎ終わっているし、私はどれくらいロイドの顔を注視していたのかしら? まあ、たぶんそんなに長くはないと思うけど。
「とりあえず、何処か座れるところでやった方が良いと思うわ。まあ、椅子をここに持ってくればいいのだけど」
「君が座るのかい?」
「いえ、座るのは貴方よ。おそらく痛みで立っていられなくなると思うし、途中で倒れられたら中途半端な状態になってもう一度ってことになる可能性があるわね」
「ああ、なるほど。いや、別に地面に座ってでもいいのではないか?」
「……まあ、それでも良いけど」
それだと、私がロイドの背中を堪能できないのよね。いえ、これは個人的な事だから私がどうこうするのもおかしいけど、無償でやる以上何か褒美かないかは欲しいじゃない?
「まあいい。椅子は私が持って来よう」
私が少し不満げだったことに気付いたのか、ギルド長が受付の方に走って行った。気が利くじゃないの、あのギルド長。…そう言えば、名前知らないけれど、別に知らなくても問題はないかしらね。
とりあえず、ギルド長が戻って来るまではロイドの体を眺めて時間を潰しましょう。
ふむ、しっかりした体つき、筋肉も程よく細マッチョ? やっぱり顔だけじゃなくて体も好みね。欲しい。
今は何処に居るかもわからないあの元王子はひょろ男だったから、好みとは真逆だったのよねぇ。本当に婚約破棄を宣言してくれありがたかったわ。
「君は」
「…何でしょう?」
ロイドを眺めていたら、声を掛けられた。何で声を掛けて来たのかがわからなかったので首を傾げながら聞き返す。
「どうして、傭兵になろうと思ったのかな?」
「あぁ、それですか。まあ、単純に直ぐにお金が稼げて、自分が辞めたいと思った時にすぐ辞められると判断したからですね。そもそも長く続けるつもりはありませんし」
「どう言うことだい? お金を稼ぐと言うのはわかるけど、直ぐに辞めるなんて」
「うーん、何て言えばいいのか。とりあえず自由になったから、色々やってみようと思ったのよ。何かをやるにもお金は必要でしょう? ただ、ずっと自由にふらふらし続けることは出来ないし、飽きたらすぐに辞められるような仕事を選んだ結果かしらね」
「自由になった?」
「ああ、別にそこはあまり気にしなくていいわよ。もう、どうでもいいことだしね」
「…そうか」
あー、何か重くとらえられている感じだわ。本当に気にしなくていいのに。優しいのねぇ、うーん性格も好みだわ。あ、いえ、まだ性格に関してはまだ会ったばかりだから正確な判断は出来ないのだけど。
そうしている内にギルド長が椅子を持って戻って来た。
「ほら、持ってきたぞ。置くのはここで良いか?」
「そこで大丈夫よ。ほら、貴方は座りなさい」
「え、あ、ああ、わかったから引っ張らないでくれ」
ロイドが少しもたついていたから私は手首をつかんで椅子の元へ誘導した。
少し強引だったかしら? でも、直接ロイドに触った感じあまり女慣れはしていないようね。腕掴んだだけで顔を赤くしているし、と言うかそう言う反応されるとこっちも恥ずかしくなるし興奮する。
やばいわね。もろに好みど真ん中だわ。
「あの、座ったが、この後はそうするんだ?」
「これからやるのは、私の魔力を使って貴方の魔力を無理やり動かすだけだから、後は全部こっちでやることになるわ」
「そ、そうか」
「じゃあ、始めるわね? 準備は良いかしら」
「ああ、問題はない…って、え!?」
ロイドが問題ないと言った瞬間に私はロイドの背中に抱き着いた。
これはあれよ。痛みで暴れて手が離れない様にするためのものよ。別に私の趣味じゃないのだからね? あ、汗を含んだシャツがひんやりして気持ちいわね。
「ちょっと何をしぐっ!? ぐうぉっ!?」
ロイドが慌てている隙に私は魔力を使ってロイドの魔力を無理やり制御する。その影響でロイドには激痛が走っているため、多少我慢しているようだけど体が暴れる。私はロイドの体を離さない様により強く抱き着いた。
「ぐはっ!」
とりあえず、ロイドの魔力放出障害の治療を終えた。ロイドは数秒とは言え体が強く強張っていた影響で息も絶え絶えの状況だ。
うーん、エロイわ。
「お疲れ様。今の魔力はどんな感じかしら? 多分、今までよりスムーズに動かせるようになっていると思うのだけど」
「ちょ、ちょっと待って…くれ。さすがにこれだと直ぐ確認は出来ない」
「そうだったわね」
今の私って注意力散漫、と言うか周りが見えなくなっているわね。まさかここまで好みの男性に会えると思っていなかったし、今までため込んでいた分反動が大きいのかしら? いつもだったらもう少し配慮できていたとは思うのだけど。
「ふぅ。ああ、なるほど。確かに今までよりも引っかかりと言うか、抵抗なく魔力を動かせる。まさかこんなに変わるとはね」
ロイドは何か感慨深いと言うか、今までいろいろあったのかしらね。何かを思い出すかのような感じで言葉を出していた。
「それは良かったわ」
「ああ、ありがとう。しかし、これはどうお礼をしたものだろうか」
いや、別にもういらない、と言うかとりあえずは堪能したから、私の中では既に貰った感じなのよね。
「終わったようだから、一旦ギルドの方へ戻らないか? 私はさすがにずっとここに居る訳にはいかないのだが」
治療が終わったことを見届けたギルド長がそう言ってきた。確かに本来ならこんなことはしないで直ぐに本登録の手続きをしているはず。そもそも、ここまでギルド長が付き合っているのがおかしいのだけどね。
「そうですね。戻りましょうか」
「あ、すまない。俺のせいで余計な時間を使ってしまったのだったな」
「そんなことは無いですよ。気付いていたら何れやっていたと思うので、早いか遅いかの違いでしょう?」
「そうかもしれないが、それに礼も碌に用意することは出来ないし、何だったら俺に出来ることなら何だってしよう。それが君に対する礼になるかはわからないけど」
何でもする? 何でも? 本当に何でもいいのかしら? それだったらあれでも良いのよね?
「何でもですか?」
「ん? ああ、そうだな」
「だったら」
「うん?」
「だったら、私は貴方が欲しい」
「へ? えっと……は!?」
私がロイドが欲しいと言ったところ、どうやらロイドの脳では処理しきれなくなったのか、驚いたと言うよりは理解できないと言った表情で固まってしまった。なので、今度は理解しやすいように言葉を区切って発言する。
「私は、貴方が、欲しい」
もう一度そう言った時にロイドの表情がより理解不能と言った感じになったことが、私の脳裏に強く残った。
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