08:丁寧にさわったからだ。byイルカ

 遊梨ゆうり↓は、目を閉じて「むむむ」と集中した。

 私の灰汁あくを取り除くために目を閉じて「むむむむ」と集中した。

 私に「たゆんたゆん」を「たゆんたゆん」と握らせて「むむむむむむ」と集中した。


 そして、ゆっくり目を開けた。


「まずは、そうやな。まずはにあっちの地球に行ってもうたイルカちゃんの事教えた方がええな? そうするんが一番早い」


 遊梨ゆうり↓は、目の前に散らばっている裏向きのタロットカードの中から、迷うことなく一枚を選んでひっくり返した。


 ぺしん!


 7。『戦車』の位置。

  −意味キーワードは『勝利』。


 ちょっとしたの漫画好きのオカルト好きなら、タロットのことは知っていると思う。僕も、そのクチだ。霊波紋スタンドで覚えたクチだ。『戦車』の逆位置ってことは……。


葛城かつらぎイルカは戦車。めっちゃ、ちぃちゃい戦車。勝利にこだわる。とことんこだわる。でも、めっちゃ、ちぃちゃい戦車。はバスケには一番むかへん、不良品の戦車。そのままでは勝つ事できん。でも……」


 遊梨ゆうり↓は、おもむろにもう一枚タロットカードをひっくり返した。


 ぺしん!


 8。『力』の正位置

  −意味キーワードは『意思』。


葛城かつらぎイルカの才覚はゴリラ。めっちゃゴリラ。めっちゃ、ちぃちゃい、めちゃゴリラ。ゴリラは進む。とにかく進む。力まかせに進む。

 でも、ゴリラは森の賢者。道にまよたら人に聞く。に人に聞く。一切照れずに躊躇ちゅうちょなく人に聞く。せやから……」


 遊梨ゆうり↓は、おもむろにもう一枚タロットカードをひっくり返した。


 ぺしん!


 10。『運命』の正位置。

  −意味キーワードは『輪廻』。


「ワタシがおる。遊梨ゆうりユウリはコンパス。戦車に道を教えるコンパス。コンパスは四つの歯車見つける。

 葛城かつらぎイルカはひとりでバスケはできん。ちぃちゃい戦車はひとりでバスケができん。そもそもバスケはひとりではできん。は5人おらんとできん。


 せやから歯車集める。赤い戦車は進む。ゴリゴリ進んで歯車集める。地水火風、黄青紫緑の歯車集める。すなわち五光ごこうを集める。

 五光ごこうが揃えばもう無敵や! どこまでも進む! てっぺんまで突き進む!!」


 遊梨ゆうり↓は、一切悩むことなくにカードを選び、にスラスラとよどみなく話した。

 僕は、ただただ息を飲んで、遊梨ゆうり↓の「たゆんたゆん」を触りながら、黙って話を聞いていた。


 スゴイ……のかどうかは正直わからない。何せ僕は、あっちの地球に行った葛城かつらぎイルカのことは一切知らないのだ。

 ただ、少なくともタロットカードには仕掛けがあるようには見えなかった。のタロットカードに見えた。


「あっちのイルカちゃんは、に毎日おっぱい触っとった。大事な試合の時は入念に丁寧ていねいに触っとった。せやから、灰汁あくはひとつもない。出るカードも毎回同じや。でもって……」


 遊梨ゆうり↓は、口を「しゅるん」とぬぐった。


「ワタシは、君の事がりたい。イルカちゃんになった君の事が、めっちゃりたい……」


 遊梨ゆうり↓は、口を「しゅるん」とぬぐった手を、畳間に散らばったタロットカードの上で、ウロウロと動かした。

 遊梨ゆうり↓は真剣だった。そしてとても楽しそうだった。


 その瞳は、まるで、美味しい料理を見るかのように、まるで、幼い子供がお子様ランチでも見るかのように、キラキラと混じり気なく輝いている。

 そしてその手は、迷い箸をする子供のように、畳間に散らばったタロットカードの上をウロウロとさまよった。


「これやろか? ……知らんけど」


 ぺしん!


 9。『隠者』の位置。

  −意味キーワードは『探究』。


「こっちの地球に来た、新しい葛城かつらぎイルカは隠者。めっちゃクライインキャ。頭隠アタマかくしてお尻隠シリかくさんインキャ。君の本当の才覚は、お尻のようにはみ出しとる。ぶっちゃけちょっと気持ちが悪い。

 好きな事ほど早口でしゃべる。やないことほど早口でしゃべる。ぶっちゃけちょっと気持ちが悪い」


 ……あってる。ぶっちゃけちょっと気持ちが悪いくらい合ってる。


「でもって」


 そう言うと、

 遊梨ゆうり↓は、目を閉じて「むむむ」と集中した。

 遊梨ゆうり↓は、眉間にシワを寄せて「むむむむ」と集中した。

 遊梨ゆうり↓は、首をかしげて「むむむむむ」と集中した。


 そして一言、


「わからん!」


と叫んだ。目を閉じたまま叫んだ。


「わからん! イルカちゃんの五行ごぎょうが足らん!

 ワタシもっと五行ごぎょう貸さなあかん!

 ワタシもっと『ひのと』貸したげなあかん!」


そして、目を閉じたままもっと大きな声で叫んだ。


「イルカちゃん、両手で触りぃ!

 両手でおっぱい触りぃ!!

 両手で丁寧ていねいに触りぃ!!!」


「え……でも……」


 僕はひるんだ。おびえた。自分から女子の「たゆんたゆん」を触るなんてとんでもない。 僕は、とてもてとも怖かった。


「ワタシは今、忙しいんや!

 集中するのに忙しいんや!

 目を閉じるのに忙しいんや!

 つべこべ言わんと、グチグチ言わんと自分で触りぃ!!」


 僕は、ゴクリと唾を飲み込んだ。

 「たゆんたゆん」を自分から触りにいく覚悟を決めた。


 僕は、遊梨ゆうり↓の制服の下に手を忍び込ませて、そっと触った。

 「たゆんたゆん」を触った。

 「たゆんたゆん」は、ほんのちょっぴり湿っていた。

 「たゆんたゆん」は、汗ばんで、ほんのちょっぴり湿っていた。


 遊梨ゆうり↓は、「にへら」と笑った。

 目を閉じたまま、「にへら」と笑った。


「はぁ、ようわかる。君のことようわかる。

 イルカちゃんになった、君のことがようわかる。

 やっぱり、に両手でおっぱい触ってもらわんと、丁寧ていねいに、おっぱい握ってもらわんと。

 イルカちゃんにりん五行ごぎょうを、ワタシが貸さなあかん……」


 そう言うと、おもむろに目を見開いて、おもむろにタロットカードを一枚ひっくり返した。


 ぺしん!


 1。『魔術師』の正位置

  −意味キーワードは『想像』。


「決まりや……こっちの地球に来た、新しい葛城かつらぎイルカの才覚は魔術師!」


 そう言うと、遊梨ゆうり↓は小刻みに震えた。

 顔は「にへら」と笑い続けていた。「にへらにへら」笑い続けていた。

 「にへらにへら」笑いながら、遊梨ゆうり↓は小刻みに震えた。

 僕が両手でにぎった「たゆんたゆん」も、その振動で「ぷるんぷるん」と震えた。


 そして「にへらたゆんぷるん」させながら、遊梨ゆうり↓は一気に早口でまくしたてた。


葛城かつらぎイルカの才覚は魔術師!

 めっちゃ可愛い魔術師! めっちゃ尊い魔術師!! 可愛い可愛い魔術師!!! 可愛いいいいいいいいいいいいいいい! イルカちゃん可愛いいいいいいいいいいいいいいい!」


 ・

 ・

 ・


 ちょっとなにいってるか、わからない。 


 ちょっとなにいってるか、わからなかった。ちょっとなにいってるか、わからないから、そのまま聞いた。


「ちょっとなにいってるか、わからない」


「いやー、やって可愛いんやもん。

 可愛い! 可愛い!! ボーッとしていて、オドオドしていて、でもめっちゃ可愛い顔困らせて、めっちゃムズいこと考えとる。めっちゃスゴイこと考えとる……なんや知らんけど可愛い!! めっちゃ可愛い!!」


「ちょっとなにいってるか、わからない」


葛城かつらぎイルカはめっちゃ可愛い顔して考えとる、めっちゃムズいめっちゃスゴイこと考えとる……知らんけど。

 なんや知らんけど、こっちの地球にないモン、や考えられへんもん創り出す……知らんけど。

 ふーん……なんや知らんけど、こっちの方が、可愛いより重要らしい。イルカちゃんは女の子なんやから、は可愛いが一番重要やないん??

 知らんけど……知らんけど……知らんけど……知らんけど」


 遊梨ゆうり↓は「知らんけど」と、繰り返し呟きながら、タロットカードを一枚ひっくり返した。自分カードをひっくり返した。


  ぺしん!


 10。『運命』の位置

  −意味キーワードは『輪廻』。


「新しい遊梨ゆうりユウリはアホウなカザミドリ。なんやわからん声でくカザミドリ。なんやわからんけど、なんや大事な事ことくカザミドリ。カザミドリいたら魔術師動く・・・驚異的な速さで動く。

 月まで一瞬ですっ飛んで、飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで回って回って回って解決する。魔術師が、なんでもかんでも解決する・・・知らんけど・・・知らんけど・・・知らんけど」

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