地球が2つになりました。

02:身体が変わってしまったからだ。byイルカ

 2025年4月5日。

 いきなり地球がもうひとつ増えた。

 月を挟んで反対側に、いきなり地球がもうひとつ増えた。


 でも、そんなことは割とどうでも良かったりする。

 個人的には、優先度は低かったりする。

 僕の身体に起こったことに比べれば、優先度が低かったりする。

 僕の身体に起こった、衝撃的な身体的変化に比べれば、地球がもうひとつ増えたことなんて、なんてことない事だったする。


 なぜなら。


 身体が変わってしまったからだ。なら、ちょっとありえない事だったからだ。


 僕は、女の子になってしまったからだ。

 小学生のような見た目の女の子になってしまったからだ。

 小学生のような見た目だけど、今年から高校生になる女の子になってしまったからだ。

 僕の理想に、もう限りなく近い、背が低くて、ベラボーに可愛い女の子になってしまったからだ。


 華奢で、ショートカットで、大きなまつ毛で、とろんとした奥二重おくぶたえで、ちょっと下膨れな、あまり主張をしない鼻とくちびるの、僕の理想の、理想の、理想の、理想の、理想の、理想の、女の子になってしまったからだ。

 

 唯一、理想と違っていたのは、絶望的に、もう絶望的に身体がストンとしていることっだった。ではちょっと考えられないくらい、胸囲がなかったことだった。驚異的に胸囲がなかったからだ。ブラジャーすら必要がないくらいだったことだ。


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 でも、今は、結果的にラッキーだったんじゃないかな? って思っている。

 入学式で、校長先生の話を聞きながらそう思っている。


 私のことを、具体的には、私の顔のことを、私の可愛らしい顔のことを、いろめきだって見る男子の目が、ほんのちょっと下を向くだけで「ふいッ」とそっぽを向いてしまうからだ。

 私のを見て「ふいッ」とそっぽを向いてしまうからだ。

 私の可愛らしい顔をいろめきだって見ていた男子が、私の驚異的に胸囲のない胸を見て「ふいッ」とそっぽを向いてしまうからだ。


 おかげさまで私は、入学式で、私のことを知っている(らしい)女友達と、おしゃべりしながら、無事に家に帰る事ができたからだ。男子に言い寄られる事なく、家に帰る事ができたからだ。


 家に帰って、僕は反省した。

 自分の部屋に入って、机について一人称を、私僕に変えた僕は反省した。


 僕は、今までずっと、女の子のことを、あんな目で見ていたのか。

 あんな目で、女の子のことを……僕は、あんな目で女の子の顔と身体しか見ていなかったのか。

 僕は今まで、女の子を見る目が今までじゃなかった。にキモいやつだった。


「あーあ」


 僕は、声を出した。可愛らしい女の子の声を出した。そして、机に置かれてあった、鏡を手にとった。


 鏡の中には、ショートカットで、大きなまつ毛で、とろんとした奥二重おくぶたえで、ちょっと下膨れな、あまり主張をしない鼻とくちびるの、僕の理想の、理想の、理想の、理想の、理想の、女の子が写っていた。


 僕は、椅子を立って、姿見の前に立った。


 鏡の中には、華奢で、ショートカットで、大きなまつ毛で、とろんとした奥二重おくぶたえで、ちょっと下膨れな、あまり主張をしない鼻とくちびるので、驚異的に胸囲のない、僕の理想の、理想の、理想の、理想の、理想の、理想の、でもちょっとだけ残念な女の子が写っていた。


「あーあ」


 僕は、これから一生恋人ができないんだろうな。一生童貞? あ、処女か……。まあ、どうでもいいや、とにかく恋愛とは縁がない一生を送るのだ。


 僕は僕だから。でも、こんなに可愛い(でもちょっとだけ残念な)女の子だから。僕は、女の子にしか興味ないんだから。だって僕は、男だから。

 身体は、こんなに可愛い(でもちょっとだけ残念な)女の子だけど、心はに男だから。


「あーあ」


 僕は、早々に、高校一年生で、早々に、生涯独り身を決定づけられた。

 こんなに可愛い(でもちょっとだけ残念な)のに、一生恋人ができない運命であることを決定づけられてしまったことに、大きなため息をついた。


 恋愛を未来永劫、封じられた僕は、この高校三年間、何をモチベーションに生きればいいんだろうか。


 ……勉強? 悪くないだろう。


 僕は、教科書を手にとった。

 「国語総合」「現代文」「古典」「世界史」「日本史」「地理」「現代社会」「政治」「経済」「数学Ⅰ」「秘学・神秘」……ん?


 聞いたことがない科目があった。


秘学ひがく神秘しんぴ


 聞いたことがない科目だった。ならありえない科目があった。


 僕は、聞いた事がない科目の教科書をペラペタとめくった。


 学校で、一番最初に習うであろうページには、このように書かれていた。


 「精霊せいれいとの交信方法こうしんほうほう


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 僕は、教科書を一気に読み進めてしまった。ならありえない、「秘学ひがく神秘しんぴ」の教科書を一晩で読み切ってしまった。

 そして僕は、父さん(多分)の部屋に忍び込んで、父さん(多分)の論文を読んでしまった。

 秘学物理ひがくぶつり学者の父さん(多分)が提唱した論文をこっそりと読んでしまった。


 そして、僕はいきなり知ってしまった。

 2025年に地球が2つになる事実を、父さん(多分)はに知っていることを知ってしまった。既に立証済みであったことを知ってしまった。


 こっちの地球のアインシュタインはじゃなかった。


 1905年、アルベルト・アインシュタインにより提唱された、【特殊相対性理論とくしゅそうたいせいりろん】で、並行世界へいこうせかいの可能性が提唱されてあった、その立証を、僕の父さん(多分)が完璧に行っていたことを知ってしまった。


 臨界点りんかいてんは2025年4月5日。その日に、もうひとつの地球が発露はつろすることを、完璧に立証していることを知ってしまった。


 そして僕は強く強く思った……勉強? 悪くないだろう。


 あ、今更だけど自己紹介をします。


 僕の名前は、蘇我そがテンジ。背が高い高校一年生。本の虫のオカルト少年だった。

 今の名前は、葛城かつらぎイルカ。小学生みたいな見たの目の高校一年生の女の子。僕は(多分)今、もといた地球の反対側の地球にいる。

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