17.お月様に行ってまうからや。byユウリ

 こんにちは。遊梨ゆうりユウリです。


 今は2026年です。4月25日です。イルカちゃんの誕生日です。

 イルカちゃんの誕生日に、ワタシは、イルカちゃんと一緒に、船に乗っています。海にクルージング船に乗っています。見渡す限りの大海原に来ています。赤道直下の大海原に来ています。


 別にバカンスをしに来ている訳ではありません。ワタシは、イルカちゃんをお見送りに来ています。お月様に行ってしまうイルカちゃんをお見送りするために、赤道直下の大海原に来ています。


 海にクルージング船に乗って、大海原の軌道エレベータを目指しています。イルカちゃんは、軌道エレベータに乗って、大気圏を抜けて宇宙まで行って、そっから宇宙船に乗ってお月様に行きます。お月様に行ってしまいます・・・知らんけど。


 イルカちゃんは、お月様に行きます。


 ワタシを地球に残して、一年間、お月様に行きます。なんや月の仕事をできるリモートワーク? の仕組みを作るらしいです。自分で説明しとるのに、こんな事言うのもやんやけど、ちょっとなにいってるかわかりません。


 クルージング船が、軌道エレベータの波止場はとばにつきました。

 ワタシは先に降りて、イルカちゃんの手をとります。一人で降りようとして、コケて海に落っこちでもしたら大変やからです。「ぽてりん」と転んで「ぽちゃりん」と海に落ちたら大変やからです。


「えへ、ありがとう」


 イルカちゃんは、ワタシの手を「ぎゅ」と掴んで可愛く笑って、軌道エレベータがある人工島に降り立ちました。

 二年生の進級祝いに買ってあげた、イルカちゃんにお似合いの、淡くて黄色い、あっまあっまのフッリフッリのドレスを着たイルカちゃんが、天使みたいなイルカちゃんが、軌道エレベータがある人工島に降り立ちました。


 可愛い! めっちゃ可愛い! 可愛すぎて死ぬ! 


 軌道エレベータがある人工島に降り立った、可愛い天使のイルカちゃんは、なんや英語で、におっさんと話していました。国連の一番エライ人とお話していました。


 イルカちゃんは、お父さんと、お月様に行きます。なんやめっちゃ有名になったイルカちゃんのお父さんと一緒にお月様行きます。

 イルカちゃんのお父さんは、2025年の4月5日に、いきなり地球が増えることを、予見していたらしいです。もうひとつ地球が増えることを、予見していたらしいです。


 すごい! めっちゃすごい! 凄すぎてヒク!


 そんな訳で、イルカちゃんのお父さんは、めっちゃ有名人です。

 でも実際のところ有名人になったんは、それを予見したからではありません。


 なんや、めっちゃすごい発明をしたから、らしいです。なんでも、月で無人でお仕事できる仕組みを発明したかららしいです。自分で説明しとるのに、こんな事言うのもやんやけど、ちょっとなにいってるかわかりません。


 イルカちゃんは、お父さんのお手伝いで、月に行きます。

 ワタシはイヤです。めっちゃイヤです。でも、なんやイルカちゃんしかお手伝いできんらしいです。


 だから、しゃーない。うん、しゃーない。

 一年間会えんようになるの、我慢するしかない……しゃーない。


 ワタシは、めっちゃ悲しいけど、めっちゃニコニコしています。めっちゃ悲しいけど、イルカちゃんを困らせたくないからです。ワタシは、イルカちゃんを困らせるんが、一番イヤやからです。

 せやから、お月様行くイルカちゃんのこと、ニコニコお見送りする予定です。


 ワタシは、軌道エレベーターを見上げました。雲ひとつない青空に、軌道エレベータは「にゅううう」って生えてました。先っぽは全く見えません。アホみたいに「にゅううう」って生えてます。

 こんなん乗って宇宙行ったら、高低差ありすぎて耳「キーン」ってならん?


「……遊梨ゆうり↓、ねえ、遊梨ゆうり↓


 ワタシがアホみたいに口を開けて軌道エレベーター見とったら、イルカちゃんに話しかけられました。


 イルカちゃんは顔を真っ赤にしました。耳まで真っ赤にしました。

 そして、ちょっとモジモジと口を押さえて考えてから。ポツリと言いました。


「ごめんね」


 尊い! めちゃ尊い! 尊すぎで死ぬ! 悶え死ぬ!


 ワタシは、死にそうに悲しいの我慢して、ニコニコ笑いました。そして、あくまでを装って、のんびりとトーンの高い声でしゃべりました。


「一年なんて、あっとゆうまや!」


 あかん、ダメや、泣く。イヤや、離れとうない! ずっと一緒にいたい!

 イタイやつって思われてもええ。ワタシは、イルカちゃんとずっとずっと一緒にいたい!


 ワタシは、あかん考え振り払うため、いそいそと、でっかいトートバックから、プレゼントを取り出しました。バスケットボールくらいの大きさの、ラッピングされたプレゼントを取り出しました。

 そして、あくまでを装って、のんびりした高いトーンの声で言いました。


「イルカちゃん、これ、誕生日プレゼント! 17歳のお誕生日、おめでとう!!」


 イルカちゃんは、プレゼントのラッピングを開けました。なんやちぃちゃい手で、モタもたモタもたモタしながら開けました。


 可愛い! めっちゃ可愛い! モタもたモタもたモタして可愛すぎて尊すぎて死ぬ! 


 イルカちゃんは、どうにかこうにかプレゼントのラッピングをほどくと、プレゼントを取り出しました。


 イルカちゃんにお似合いの、とっておきの淡くて青い、あっまあっまのフッリフッリのドレスです。の既製品やのうて特別にオーダーメイドしてもらいました。イルカちゃんの横でふわふわ浮いとる、ぬいぐるみの「オルカ」ちゃんを、襟のとこに刺繍してもらいました。


 あと、写真立てもプレゼントしました。写真立てには、ワタシとイルカちゃんが唯一のペアルック(制服は除く)できる、正月んときに着た振袖のペアルックです。

 初詣のとき、記念に写真館で撮影してもらいました。ワタシの宝物です。焼き増ししまくってる宝物です。


「えへへ、ありがとう」


 可愛い! めっちゃ可愛い! 可愛すぎて死ぬ! 


 ワタシが、死にそうになりながら、ニコニコして心臓バクバク言わせてると、イルカちゃんはおもむろに言いました。


「私も、プレゼントあるんだ」


 そう言って、なんや、まな板みたいなん取り出しました。銀色のまな板みたいなん取り出しました。


 なんや? 


「ちょっと時間かかるけど、で、遊梨ゆうり↓にいつでも会えるようにする。ちょっと時間かかるけど、遊梨ゆうり↓の誕生日までには絶対絶対間に合わせる!!」


 なんや? 。ほんまなんや?


 ワタシがパニックになってると、イルカちゃんの横でずっとふわふわ浮いている、ワタシが去年プレゼントした「オルカ」ちゃんに、話しかけました。


「『Hey!オルカ!』」


「ナンデスカ? イルカ」


 ワタシが月に行っている間、遊梨ゆうり↓をお願い!」


「カシコマリマシタ」


 そう言うと、イルカちゃんの横でふわふわ浮いてた「オルカ」ちゃんは、ワタシにふわふわ近づいて、ワタシの横でふわふわ漂い始めました。


「『Hey!』って言ったあとに『オルカ!』って言えば、遊梨ゆうり↓の話し相手になってくれるから。

 今の時刻とか、「今日はなんの日?」とか、電車やバスの時刻表とか、道案内とか、有名人の名前が出ない時とか、カラオケで歌いたい曲ド忘れした時とか・・・困ったことあったら話しかけてみて。

 モチロン、のおしゃべりでもいいよ。話しかければ話しかけるほど、遊梨ゆうり↓の気持ちをわかってくれるようになるから」


 ワタシはうなづくと、大きな声できました。


「『Hey!オルカちゃん!』」


 ぬいぐるみの「オルカ」ちゃんは、返事をしませんでした。


「『Hey!!オルカちゃん!!』」


 ぬいぐるみの「オルカ」ちゃんは、返事をしませんでした。


「『Hey!!!オルカちゃん!!!』」


 ぬいぐるみの「オルカ」ちゃんは、アホみたいに、ふわふわと浮いたまま返事をしませんでした。


 ワタシが、アホみたいに『Hey!!!オルカちゃん!!!』って言ってると、イルカちゃんは顔を真っ赤にしてました。耳まで真っ赤にしてました。

 そして、ちょっとモジモジと口を押さえて考えてから。ポツリと言いました。


「『ちゃん』をつけると認識できない。執事バトラーモードがちゃんと起動しない」


 ワタシは思いました。心の底から思いました。ワタシはアホウなカザミドリや思いました。

 だからきました。大きな声できました。


「『Hey!!!!オルカ!!!!』」


 ぬいぐるみの「オルカ」ちゃんは、に返事をしました。


「ナンデスカ? ユウリ」

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