32.Round2−2 Side「かぐや姫」

 宙に浮いたシャチのロボットが、無機質な声で戦闘開始までのカウントダウンを行う。


「……3……2……1……ゲームスタート!」


 現在の年月日及び時刻は、2027年7月1日。日本時間、午後8時00分。

 月面戦争「Round2」が開戦した。



 シャチが戦闘の開始を告げるとともに、遊梨ゆうりユウリはおもむろにタロットカードを1枚めくった。


 ぺしん!


 〜  『ソードの6』 正位置  〜


「イルカちゃん! ミサイル? が軒並み飛んで来る! でも防御できる!」


「了解!

 Hey!オルカ! 

 ソーサリーを起動! 火精霊三角形フィフスドーター

 6箇所に展開!

 シリアルはマニュアルで指定!」


「カシコマリマシタ ショリヲ ジッコウ シマス」


 Side「かぐや姫」の「開発エリア」内の、全18機のビット機関が光輝いた。

 6つある「開発エリア」で、それぞれ3機のずつのビット機関が光輝いた。

 「おひつじ」「しし」「いて」の、紫系統の正四面体のビット機関が光輝いた。

 Side「かぐや姫」が所有する全6箇所の「開発エリア」が、紫に光り輝く正四面体に包まれた。


 Side「アルテミス」のロケットランチャーを搭載した車両型兵器6機からは、戦闘開始早々、ミサイルが発射されていた。全弾発射されていた。

 ミサイルは、紫に光り輝く正四面体に触れると、たちどころに爆発した。


 いや、爆発した途端に吸収された。


 爆発は、紫に光り輝く正四面体にたちどころに吸い込まれた。

 火精霊三角形フィフスドーターは、熱を吸収する防御壁を展開する。そして熱量を吸収するほど、光が弱まっていき、許容量をオーバーすると消滅する。

 現在、全6箇所の月面開発エリアの火精霊三角形フィフスドーターは、うっすらと紫に光り輝いている。

 つまり、火精霊三角形フィフスドーターの熱量吸収は、車両型兵器1機が放つ、ロケットランチャーの攻撃力をわずかに上回っていた。


 遊梨ゆうりユウリは、おもむろにもうタロットカードを2枚めくった。


 ぺしん!


 〜  『ワンズの7』 《逆》位置  〜

 〜  『聖杯カップの4』 《逆》位置  〜


「イルカちゃん! 今度は犬? が来る! 軒並みワンワンやっていくる! あとバスケットボールもやってくる! 困惑したら負けや! 躊躇ちゅうちょしとったら負ける! 全力や!! ぱっかーんと割れて、全力や!」


「了解!

 Hey!オルカ! 

 ソーサリーを起動! 風精霊三角形サードドーターを6箇所に展開!

 シリアルはマニュアルで指定!」


「カシコマリマシタ ショリヲ ジッコウ シマス」


 Side「かぐや姫」が「月面開発権」を有すエリア全21機のビット機関が光輝いた。

 「ふたご」「てんびん」「みずがめ」の、緑系統の正八面体のビット機関が光輝いた。

 光輝くビット機関は、月面上に正八面体を描いた。Side「かぐや姫」が所有する、全6箇所の月面開発エリア緑に光り輝く正八面体を描いた。


 風精霊三角形サードドーターは、通信伝達システムだ。

 風精霊三角形サードドーターの範囲内であれば、範囲内の敵機を正確に把握でき、かつ本来であればロボット……オルカMarcIIIを解さないと行えない、ビット機関に内蔵されたレーザー攻撃を、スーパーコンピューター、オルカMarcIIのAI制御下で行う事ができる。


 そう、今回もSide「かぐや姫」は、戦闘のほとんどを、スーパーコンピューター、オルカMarcIIのAI制御でカバーしていた。


 理由はただひとつ。

 月面基地を、Side「アルテミス」の秘密兵器『バスケットボール』を、全力で阻止するためだ。


 今回、ロボット……オルカMarcIIIは、最初から4体に分離していた。そして、全てのロボットが、12機のビット機関を携えていた。

 何としてでもバスケットボールを止めるため、オルカMarcIIIを、対『バスケットボール』用にカスタマイズしているのだ。


 Side「かぐや姫」の前方200キロメートルに配備されてある車両型兵器からは、すでに、バスケットボールが射出されてある。

 Side「かぐや姫」は、バスケットボールの攻撃から、月面基地を護る必要がある。月面基地に設置された、軌道エレベーターを、何としてもでも護る必要がある。


 地球からの定期船から、物資を受け取る事ができる月面の起動エレベーターは一基のみ。すなわち月面のエレベーターを破壊されることは、自動的にSide「かぐや姫」の敗北を意味していた。


 Side「かぐや姫」のは、何としてでも、半径2キロ以上の距離を離して、バスケットボールを捕獲、破壊する必要がある。

 だが、それはとてつもなく困難なことだった。

 

 遊梨ユウリユウリは、タロットを1枚めくった。先ほどとは違う束の、先ほどとは半分くらいしかない、タロットカードの束から、一切の迷いもなく、タロットカードを1枚めくった。


 ぺしん!


  〜  9『戦車せんしゃ』 の位置  〜


 遊梨ユウリユウリは、叫んだ!


「やっぱりイルカちゃんや! 軌道エレベーターにダンクシュートかまそうとしとるんは、あっちの地球にいってもうたイルカちゃんや!!」


「了解!

 Hey!オルカ!

 インスタスタント発動! 流動宮四角形ファーストドーター

 対象はノーム、ウンディーネ、サラマンダー、シルフィード!!」


「カシコマリマシタ ショリヲ ジッコウ シマス」


 巨大なタブレットに映し出された4体のロボット……ノーム、ウンディーネ、サラマンダー、シルフィードは、甘くて淡いパステルカラーの黄・青・紫・緑色の、4体ビット機関を分離した。


 そしてその4体のビット機関は、ロボットの目の前に移動して四角形を描いた。ロボットがちょうど通り抜けられるくらいの、一辺20メートルの四角形を描いた。

 四角形の中に、複雑な魔法陣が描かれた。


 4体のロボットがそこを通り抜けると、機体は瞬時に消えた。いや消えた様にカモフラージュされた。視覚ステルス機能をまとまったのだ。


 視覚ステルス機能をまとった4体のロボットは、残り8体のビット機関を駆使して、バスケットボールを全力で狙撃する。

 すべて、月面のスーパーコンピューター、オルカMarcIIの制御下のもとに執り行われる。


「ふぅ……」


 葛城かつらぎはため息をついた。これで理論上はバスケットボールを狙撃できる。

 核弾頭を搭載したバスケットボールが、月面基地の射程範囲に入るまで最短で40分。

 オルカMarcIIIは、月面基地12キロメートルまで引き付けて……つまり、車両兵器からのカタパルト射出の推進力が切れ『バスケットボール』が、マニュアル操作に切り替わった後に攻撃を開始する。

 攻撃機会は23回。一回の攻撃につき、撃墜成功率は平均99.2%。


 いくら超人的なドローン操作能力を有する蘇我そがテンジ言えども、見えない敵の四方同時攻撃を、23回連続で避けることは不可能だ。流石に不可能なはずだ。


 だが、

 葛城かつらぎイルカは絶対を信じない。

 葛城かつらぎイルカは常識を信じない。

 葛城かつらぎイルカは完全を信じない。

 葛城かつらぎイルカはを信じない。


 葛城かつらぎイルカは何か大事なことを見落としている気がしてならなかった。に見落としてしまっている気がしてならなかった。


 ・

 ・

 ・


 32分後。

 全6箇所の「開発エリア」に侵入した四足歩行ロボットの全滅を確認した時、宙に浮いたシャチのロボットが、おもむろにつぶやいた。

 

「オルカMarcIIIヨリツウシン

 コウゲキ ダイイッパ カイヒ サレマシタ」


 これは、まあ、予想範囲内。

 葛城かつらぎイルカは、巨大なタブレット上で、7分割された戦況を確認していた。

 葛城かつらぎイルカは、早くも「Round3」の戦略を練っていた。

 もう、こんなプレッシャーのある戦いはしたくないからだ。月面基地、つまりは起動エレベーターを危険に晒す戦いはしたくない。

 神経がすり減らされる。


「オルカMarcIIIヨリツウシン

 コウゲキ ダイニハ カイヒ サレマシタ」


 これも、まあまあ、予想範囲内。

 蘇我そがテンジは「Round1」で、勝率99.2%の奇襲攻撃を阻止したのだ。99.2%を2回潜り抜けることくらい、造作もないはずだ。


「オルカMarcIIIヨリツウシン

 コウゲキ ダイ サンパ カイヒ サレマシタ」


 これも、まあまあまあ、予想範囲内。


 ・

 ・

 ・


 5分後。


「オルカMarcIIIヨリツウシン

 コウゲキ ダイ ジュウサンパ カイヒ サレマシタ」


 葛城かつらぎイルカは緊張を隠せなかた。

 いくらなんでもではない事象に混乱を隠せなかった。

 いくら超人的なドローン操作能力を有する蘇我そがテンジ言えども、見えない敵の四方同時攻撃を、13回連続で避けることは不可能だ。流石に不可能なはずだ。


「オルカMarcIIIヨリツウシン

 コウゲキ ダイ ジュウヨンパ カイヒ サレマシタ」


 ロボットは、視覚ステルスに覆われている。しかし残念ながら、砲撃にはステルス機能は備わっていない。

 とは言え砲撃がバスケットボールに到達するまでの時間は平均2秒。は目視による回避は不可能なはずだ。


 なぜなら、時差があるからだ。


 地球で砲撃を目視できるまで約1.3秒。

 目視の後、パイロットの操作フィードバックがさらに約1.3秒。

 つまり時差は約2.6秒

 つまりどう考えてもは、目視回避はできないのだ。


「オルカMarcIIIヨリツウシン

 コウゲキ ダイ ジュウゴハ カイヒ サレマシタ」


「(ひょっとして目視じゃ……ない!?) 遊梨ゆうり↓!!」


「なんやぁ? イルカちゃんそんなに慌てて……知らんけど」


 遊梨ゆうりユウリは、のんび〜りとしたトーンの関西弁で返事をした。


「オルカMarcIIIヨリツウシン」

「お願い! 今すぐ卜術ぼくじゅつやって!」

「コウゲキ ダイ ジュウゴハ カイヒ サレマシタ」


「わからん。イルカちゃんとオルカちゃんがかぶってわからん。もう一回言って?」


「お願い! 今すぐ卜術ぼくじゅつやって!

 あのバスケットボールに、もうひとり、!!」


「イルカちゃんの他にだれかおるかればええんね?」


「そう!」


「オルカMarcIIIヨリツウシン

 コウゲキ ダイ ジュウロクハ カイヒ サレマシタ」


 遊梨ゆうりユウリは、タロットを見つめた。

 その瞳は、まるで、しっぶ〜〜〜い料理を見るかのように、まるで、幼い子供が精進料理しょうじんりょうりでも見るかのように、輝きが失われている。

 そしてその手は、迷い箸をする子供のように、巨大なタブレット上にばらまかれたタロットカードの上をウロウロとさまよった。


「オルカMarcIIIヨリツウシン」

「わからん!」

「コウゲキ ダイ ジュウナナハ カイヒ サレマシタ」


「わからん! イルカちゃんの五行ごぎょうが足らん!

 ワタシもっと五行ごぎょう貸さなあかん!

 ワタシもっと『ひのと』貸したげなあかん!


 イルカちゃん、両手で触りぃ!

 両手でおっぱい触りぃ!!

 両手で丁寧ていねいに触りぃ!!!」


「オルカMarcIIIヨリツウシン

 コウゲキ ダイ ジュウハチハ カイヒ サレマシタ」


 葛城かつらぎイルカは駆け出した。慌ててうっかり駆け込んでしまった。


 ていん……ごちん!


 葛城かつらぎイルカは、あまりに急いだものだから、うっかり転んで机の角におでこをしたたかぶつけた。

 葛城かつらぎイルカは、おでこをさすりながら急いで歩きこんだ。


「オルカMarcIIIヨリツウシン

 コウゲキ ダイ ジュウキュウハ カイヒ サレマシタ」


 葛城かつらぎイルカは、おでこをさすりながら急いで歩きこんだ。

 そして遊梨ユウリの目の前までくると、おもむろにゆったりとしたブラウスの中に、下から両手を突っ込んだ。

 そして、おもむろにブラジャーを引っ張りあげた。


 ブラウスの中が「たゆん」と揺れた。

 ブラウスの中のおっぱいが「たゆんたゆん」と揺れた。

 ブラジャーによって、必死に重力にあらがっていたおっぱいが「たゆんたゆんたゆん」と揺れた。


「オルカMarcIIIヨリツウシン

 コウゲキ ダイ ニジュッパ カイヒ サレマシタ」


 葛城かつらぎイルカは、両手で真剣に「たゆんたゆん」を優しく握った。


 ぺしん!


 葛城かつらぎイルカがおっぱいを握ったとたん、遊梨ゆうりユウリは迷わずタロットを1枚めくった。


  〜  15『悪魔あくま』 の正位置  〜

    −意味キーワードは『呪縛』。


 遊梨ユウリユウリは、叫んだ!


「悪魔や! 悪魔みたいに性格悪いヤツがおる!

 あっちの地球に行ったイルカちゃんは、悪魔と一緒にバスケットボール動かしとる! 

 悪魔と一緒に、なんやズルイこと! めっちゃコスイ事しとる!」


「オルカMarcIIIヨリツウシン

 コウゲキ ダイ ニジュウイッパ カイヒ サレマシタ」


 葛城かつらぎイルカは気づいた。悪魔の正体に気づいた。

 自分に勝つために、期末テストで1位なるためだけに、ズルイことをした人間がいたことに気づいた。

 たった2、3点ぽっちのテストの点の為だけに、学校のサーバーに不正アクセスして答案用紙を盗んだコスイやつを思い出した。


十流九とるくだ! 十流九とるくトルクが、オルカMarcIIにハッキングして、砲撃位置を盗んでいるんだ!!」


「オルカMarcIIIヨリツウシン

 コウゲキ ダイ ニジュウニハ カイヒ サレマシタ」

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