33.Round2−3 Side「アルテミス」

 現在の年月日及び時刻は、2027年7月1日、USAフロリダ時間、午前6時59分。開戦1分前だ。


 この段階で、Side「アルテミス」の秘密兵器『バスケットボール』のサブパイロットである十流九とるくトルクは勝利を確信している。

 なぜなら、Side「かぐや姫」のスーパーコンピュータへの潜入が成功し、攻撃パターンを完全にシミュレートできていたからだ。


 葛城かつらぎイルカは、この事態を全く予想できていなかった。

 なぜなら、Side「かぐや姫」では、いまだ途上の段階だったプログラミングの高級言語化を、葛城かつらぎイルカが完全に一から構築したためだった。


 いや、この説明は正しくない。


 正確には、情報処理を口語によって操ると言う、父の「思想」に共感した葛城かつらぎイルカが、父親と一緒に二人三脚で、秘学ひがくを駆使して口語ベースのプログラミング言語を一から構築したためだった。

 これにより、Side「かぐや姫」のプログラム高級言語は、Side「アルテミス」でプロプラミング高級言語とは、似ても似つかぬ構造になっていたからだ。


 葛城かつらぎイルカは、Side「アルテミス」のテクノロジーで、スーパーコンピューター、オルカMarkIIのハッキングできる訳がないと、タカを括ってしまったのだ。完全に油断してしまっていたのだ。

 オカルトと揶揄やゆされている秘学ひがくと呼ばれるテクノロジーを、Side「アルテミス」の人類が誰も扱えるハズがないと、完全に油断してしまっていたのだ。


 葛城かつらぎイルカはウッカリ忘れてしまっていたのだ。


 そのテクノロジーの格子となる構想を、十流九とるくトルクと熱く語り合っていた事を、完全に忘れていたのだ。

 昭和、そして平成初期のテレビアニメーションをYouTubeで試聴しながら、ふたりで熱く厨二なオカルト談議を熱く語り合っていた事を、完全に忘れていたのだ。


 十流九とるくトルクは、葛城かつらぎイルカの格子となる構想を完全に覚えていた。

 そしてわずか2週間ほどで、オルカマークIIのハッキングに成功した。


 いまや、葛城かつらぎイルカの思惑は、Side「かぐや姫」の作戦情報は、すべて十流九とるくトルクの手中に治っている。

 あとは、オルカMarcIIIの攻撃アルゴリズムから導き出した回避ルートを、蘇我そがテンジが忠実にトレースして『バスケットボール』を操縦すればいいだけだ。


 本来ならば不可能に近い作戦だったが、蘇我そがテンジの驚異的な操縦テクニックが、それを可能にしていた。


 蘇我そがテンジは全く動揺しない。

 蘇我そがテンジは全く混乱しない。

 蘇我そがテンジは全く狼狽ろうばいしない。

 蘇我そがテンジは全く緊張しない。


 合計1024回のフライトシミュレーションのうち失敗はたったの2回。

 成功率は99.8%にのぼる。

 しかも、失敗したのは最初の2回だけだ。それ以降は、フライトシミュレーションを全て成功させている。


「戦闘開始まで……10……9……8……」


 イヤホンから、オペレーターの音声が聞こえてくる。おっさんのオペレータの声は、務めて平静を装って戦闘開始までのカウントダウンを行う。


「……3……2……1……ミッションスタート!」


 オペレーターの声と同時に、車両型兵器に搭載されたカタパルトから、猛スピードで『バスケットボール』を核弾頭として搭載したロケットが発射された。


 ミサイルが『バスケットボール』の分離ポイントに着くまでの約30分の間、蘇我そがテンジと十流九とるくトルクはヒマだった。


 スタンバイは、分離ポイント到着三分前から始めれば充分だった。

 あまりにもヒマだから、蘇我そがテンジは自然派ナチュラルドリンクを飲みながら、十流九とるくトルクは、あまっあまっのミルクコーヒーを飲みながら、のんび〜りと談笑を楽しんでいた。


「残念やけど、絶世の美少女、葛城かつらぎイルカちゃんの考えはすっぽんぽんや!

 大事な部分もぜーんぶ丸見えや!」


 センスのない言葉で下世話にイキリ倒す十流九とるくトルクを見ながら、蘇我そがテンジは、自然派ナチュラルドリンクをひと飲みすると務めて冷静にツッコンだ。


「ちょっとなにいってるか、わからない」


 蘇我そがテンジの冷静なツッコミをスルーして、十流九とるくトルクはイキリ続けた。


「これで勝てる! 

 ようやくあっちの地球行ってもうた蘇我そがに勝てる!

 片手間のお勉強やのうて、ガッツリお勉強しとった、蘇我そががホンマのホンマにお得意のオカルト相手にガッツリ勝利できる!!」


「オカルトじゃなくて、秘学ひがく。専攻は占術せんじゅつ物理。

 情報処理? は、あっちの地球にない教科だから、ちょっとなにいってるか、わからない」


 蘇我そがテンジの冷静なツッコミをスルーして、十流九とるくトルクはイキリ続けた。


「僕はもう一方的に、あっちの地球に行ってもうた蘇我そがをガッツリライバル視しとった。勝手にライバル視しとった。

 あいつは、僕のこと友達や言うとったけど、冗談やない!

 あいつの得意分野で出し抜くために、ずっと見とったんや! 観察しとったんや!」


 十流九とるくトルクはイキリ続けた。


「気持ちええ! めっちゃ気持ちええ!

 僕は今、蘇我そがの事をキレイさっぱりひんいとる!

 僕は今、蘇我そがの大事な大事な恥ずかしい所をスッポンポンにひんいとる!

 僕は今、蘇我そがの事をぜーんぶ知っとる!」


「……それ、ストーカーじゃね?」


「な! んなアホなことあるかい。蘇我そがは男や!

 なんで男に惚れなあなんのや! 気色悪い!

 あんな、いっつも「ぼーっ」としとった男に!」


 蘇我そがテンジの冷静なツッコミに、十流九とるくトルクはイキるのをやめて激しく動揺した。

 蘇我そがテンジは、狼狽ろうばいする十流九とるくトルクに対して、務めて冷静な指摘をした。


「そいつは、もう蘇我そがじゃない。

 蘇我そがテンジはもうオレだ。

 あっちの地球に行った時点で、そいつは女だ。葛城かつらぎイルカだ。

 パーフェクツに可愛すぎる絶世の美少女、葛城かつらぎイルカだ」


 蘇我そがテンジは、冷静に話を続けた。


「なんつったっけ? トルく↑の好きなアニメキャラ。

 聞けば聞くほど、オレの代わりにあっちの地球で葛城かつらぎイルカになったヤツにそっくりだ。

 とにかく性格がアホみたいにソックリだ。押しに弱いドジっな所が、アホみたいにそっくりだ」


 蘇我そがテンジは、冷静に話を続けた。


「でもって、そんなアホみたいに押しに弱いヤツのすぐそばに、アホみたいに押しが強いユウリがいるんだ。

 どうせ、あまっあまっでフリッフリのロリータドレスが似合う、可愛すぎる尊すぎるロリータ少女に鍛え上げられてるに決まっている。

 二次元と三次元、あとおっぱいが「永遠の0」なところ以外は、トルとるく↑の趣味にアホみたいにドストライクだよ」


「はぁあああ!?」


 そう言うと、十流九とるくトルクは、ハッとした顔をして瞬く間に顔が真っ赤になった。耳まで真っ赤になった。

 そして、しばらく無口になると、一言だけつぶやいた。


「……悪くないだろう?」


「ま、どーせ向こう30年は会えないけどな!」


「ダメやないかい!」


 ・

 ・

 ・


 30分後。


 蘇我そがテンジは、VRゴーグルをかけていた。

 十流九とるくは、9面ディスプレイの前でキーボードをガチャガチャ叩いていた。


「ほい! 最新データのパクったった。ん? 結構ルート変わってるな?」


「余裕。2秒前ならルート変更見てから余裕」


「ま、そうやろな。まあ、せいぜい派手なダンクシュート決めてくれ」


「『バスケットボール』分離まで……10……9……8……」


 イヤホンから、オペレーターの音声が聞こえてくる。おっさんのオペレータの声は、務めて平静を装って戦闘開始までのカウントダウンを行う。


「……3……2……1……ミッションスタート!」


 オペレーターの声と同時に、ミサイルに搭載された核弾頭『バスケットボール』が、分離された。

 悪魔に導かれたちいちゃい戦車は、Side「かぐや姫」の軌道エレベーターに向かって、フルスロットルで飛び立った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る