37.Round5 Side「???」

 現在の年月日及び時刻は、2027年10月1日。日本時間、午後7時25分。

 月面戦争:Round5、開始35分前だ。


 私は、今から家を出るところだ。ちょっと遠い出張に出るところだ。

 さて、家を出る前に月面戦争の状況を説明しよう。


 現在の月面の「獲得エリア」数は、Side「かぐや姫」128、Side「アルテミス」96。

 しかし、開発可能面積で考えると、その比率は「7:3」。

 戦況は、Side「アルテミス」が圧倒している。


 理由は、その兵器の特徴による。

 

 先月行われた月面戦争:Round4で、Side「かぐや姫」の自立移動機能をもつ兵器はわずか2体しかなかった。

 オルカMarcIIIの、ウンディーネ、シルフィードの2体しかなかった。


 対して、Side「かぐや姫」の車両型兵器、四足歩行型兵器は、いずれも自立移動機能をもつ兵器だ。

 自立移動機能をもつ兵器は、したたかに、しややかに、のびやかに、戦局の重要ポイントを手中に収めていた。

 「開発エリア」として獲得していた。

 当初は、32人で構成されていた月面パイロットも、いまや128人いる。

 来月からは、パイロットの外部委託も予定されている。これによる、人件費の大幅なコストカットも予定されている。


 Side「アルテミス」は、いち早く月面戦争に適応したのだ。

 極限まで、資本主義に適応していたSide「アルテミス」の方が、いち早く月面戦争に適応したのだ。

 統一規格、大量生産。効率重視の資本主義にも適応したのだ。


 だが、Side「かぐや姫」も負けてはいない。


 今回、みごとにオルカMarcⅢは完全復元を果たした。

 月面戦争:Round4で、蘇我テンジが操縦した『バスケットボール』で、3体を失ったMarcⅢは、見事、完全復元を果たした。


 ウンディーネ、シルフィードを使用し、輸送されたサラマンダーとノームのパーツを組み上げ、オルカMarcⅢは、見事、完全復元を果たした。

 オルカMarcⅢは、本来はサステナブルな兵器だ。持続可能な兵器だ。

 本来は、月面開拓を行うための汎用リモート作業用ロボットだ。


 だが、その性能は、完全に戦闘に使われることになった。完全に軍事目的に使われることになった。

 自分で自分の分身を組み上げて、増殖、増産するシステムが組み込まれた。

 バラバラに輸送されたオルカMarcIIIのパーツを、月面基地のオルカMarcIIIが組み上げる、拡張プログラムが実装されたのだ。

 今後は、オルカMarcIII一体につき、毎月1体のペースで、オルカMarcIIIを増産できる。

 理論上は、毎月、倍々にオルカMarcIIIを増産できるシステムを構築できていた。


 Side「かぐや姫」も、ようやく、統一規格、大量生産。効率重視の資本主義に適応したのだ。


 良い。とても良いことだ。


 2つの地球に住む、極々わずかな狂った人たち、ただひたすらに「利権」に群がる狂った人たちには、とても良いことだ。

 月面戦争が物量戦に転じることは、とても良いことだった。

 物量戦に転じて、かつ、なかなか決着がつかないことは、とても良いことだった。

 資本主義の観点からすると、とても都合の良いことだった。


 しかし。


 世の中にはもっともっと、ただひたすらに「利権」を独占したがる人物がいる。


 そう、私の事だ。


 そのために私は、これから家を出るところだ。ちょっと遠い出張に出るところだ。


「お父さん!」


 愛娘まなむすめが見送りに来てくれた。


「どうしたんだい? 私の可愛いイルカ」


「戻ってくるの、どれくらいになるの?」


「そうだな、私の可愛いイルカ。

 ちょっと時間がかかると思うよ。来月の頭には帰ってこれると思うけど」


「えへ! わかった」


「それまで、こっちのことはよろしく頼むよ。私の可愛いイルカ」


「えへへ! 私、頑張っちゃう!」


 私は、愛娘まなむすめと、熱い抱擁をかわすと家を出た。


 現在の年月日及び時刻は、2027年10月1日。日本時間時間、午後7時30分。

 月面戦争:Round5、開始30分前だ。

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