26.Round1−2 Side「かぐや姫」

 さて、この月面戦争のルールを新たにひとつで紹介しよう。


〜 条約じょうやく3:月面での交戦は、ロンドン時間で、毎月1日、12:00〜13:00のみとする。 〜


 2つの地球は、まだ月面開発に乗り出したばかりだ。とても四六時中、戦争ができるような状況ではない。月面に輸送できる物資は、とても限られる。

 なので、当面は、月1回、毎月1日に、1時間だけの戦闘が許された。


 続いて、誠に簡単ではあるが、戦力説明をしよう。

 最初に、2つの地球のひとつめ、ややこしいので、互いの地球の月面開発のプロジェクト名で呼ぶことにしよう。


 最初に説明するのはSide「かぐや姫」。

 重力波を自在に操るテクノロジーを有した地球の戦力説明だ。

 すなわち、物理法則が「風の精霊エレメント」「火の精霊エレメント」「水の精霊エレメント」そして「土の精霊エレメント」で構成されている地球の戦力説明だ。


 月面戦争に投入された兵器は1機のみ。

 いや、この説明は正しくない。正式には、4機のロボットと、12機のビット機関で構築された、全16機体の兵器だ。


 現在、ロボット、並びにビット機関のストックは存在しない。軌道エレベーターからの輸送を待つしかない。つまり、いきなりの背水の陣だった。


 だが、自信があった。Side「かぐや姫」のパイロット、葛城かつらぎイルカは絶対の自信があった。開始3分で勝利する、絶対の自信があった。


 さて、この月面戦争のルールを、新たにもうひとつ紹介しよう。


〜 条約じょうやく6:月面での戦闘が困難となった場合、速やかに降伏する。 〜


 そう、葛城かつらぎイルカの思惑は電撃作戦だ。開始3分で本拠地に壊滅的なダメージを与えて、一気に勝負をつける算段だ。

 そして、その大胆極まる作成を可能にするのが、卜術家ぼくじゅつか、兼オペレーターの遊梨ゆうりユウリの存在だ。


 現在の年月日及び時刻は、2027年7月1日。日本時間、午後7時59分。開戦1分前だ。


 この段階で、パイロットである葛城かつらぎイルカは勝利を確信している。なぜらなら、敵の布陣は、遊梨ゆうりユウリの予測と完全に一致していたからだ。


 葛城かつらぎイルカはパイロットだが、実際にロボットの操作はしない。ノートパソコンでのキーボード入力、または、スマート家電機能を有した、シャチのぬいぐるみ「オルカ」への口頭指示だった。


 なお、彼女たちは月面への戦局を、机の上に置かれた巨大タブレットで把握する。

 そう、彼女たちは、まるでストラテジゲームをするかの如く、鳥瞰ちょうかんの神の視点で、戦局を操作しているのだ。


 電撃作戦を実行するためには、遊梨ゆうりユウリがあと1枚タロットカードを引くだけで良い。敵の狙撃ポイントを、遊梨ゆうりユウリの卜術ぼくじゅつで、確実に完璧に予測するだけで良い。


 それで詰みだ。月面戦争は終了だ。


「セントウカイシマデ……10……9……8……」


 宙に浮いたシャチのロボットが、無機質な声で戦闘開始までのカウントダウンを行う。


「……3……2……1……ゲームスタート!」


 シャチが戦闘の開始を告げるとともに、遊梨ゆうりユウリはおもむろにタロットカードを1枚めくった。


 ぺしん!


 〜  『聖杯カップの2』 正位置  〜


「イルカちゃん! 2時方向や! そこにすっとびぃ!」


「了解!

 Hey!オルカ! 

 Mark-IIIに変形指示、ウンディーネ及び柔軟宮じゅうなんきゅうビットをパージ!」

 

「カシコマリマシタ」


 巨大なタブレットに映し出されたロボット……オルカMark-IIIは、すぐさま変形して、淡くて青い1体のロボットと、甘くて淡いパステルカラーの黄・青・紫・緑色の、4体ビット機関を分離した。保険として、この区域の防衛を行うためだ。


「Hey!オルカ! 

 インスタント発動! 活動宮四角形セカンドドーター、2時に展開する!

 詳細ポイントはマニュアルで指定!」


「カシコマリマシタ ショリヲ ジッコウ シマス」


 ロボット……オルカMark-IIIは、4体のビット機関を分離した。

 カラフルなネオンカラーの黄・青・紫・緑色の、4体ビット機関を分離した。

 そしてその4体のビット機関は、ロボットの目の前に移動して四角形を描いた。ロボットがちょうど通り抜けられるくらいの、一辺70メートルの四角形を描いた。

 機体の2時方向に向かって、一辺70メートルの四角形を描いた。

 四角形中に、複雑な魔法陣が描かれた。


 ロボット……オルカMark-IIIがそこを通り抜けると、機体は瞬時にワープした。いや、ワープではない。高速移動だ。魔法陣は加速装置だった。

 ロボット……オルカMark-IIIは、敵の本拠地の200キロ目の前で止まった。


「Hey!オルカ! 

 インスタント発動! 固着宮四角形シックスドーター、目標は、敵本拠地に格納されたバスケットボール!

 エネルギー出力はアナログで指定!」


「カシコマリマシタ」


 ロボット……オルカMark-IIIから、4体のビット機関、つまり、全てのビット機関が分離した。

 シンプルな原色の黄・青・紫・緑色の、4体ビット機関を分離した。

 そしてそのビットは、ロボットの目の前に移動して四角形を描いた。一辺10メートルの四角形を描いた。


 敵の本拠地に向かって、一辺10メートルの四角形を描いた。


 ビットは、ロボットの前で四角形を描いた。そして、四角形の中に魔法陣が描かれた。


「ハッシャマデ ……5……4……3……2……1……ファイア」


 ロボット……オルカMark-IIIは魔法陣に向かってビームを発射した。

 魔法陣を潜り抜けたビームは、その太さを、何十倍にも増幅させた。四角形いっぱいに拡大増幅した。ビーム砲は、敵の本拠地めがけてすっ飛んで行った。


 勝った! 葛城かつらぎイルカは、勝利を確信した。


 だが……ビーム砲は、敵の一体の機体に阻まれた。

 バスケットボールのような、全長50センチの真っ赤な機体に阻まれた。


 真っ赤な機体は、ビーム砲に衝突すると、直径5キロメートルの大爆発を起こした。

 敵の本拠地のわずか1キロメートル手前で、全長50センチの真っ赤な機体に阻まれた。ビーム砲は、直径5キロメートルの大爆発を起こした。


 遊梨ユウリユウリは、震える手で、タロットを1枚めくった。先ほどとは違う束の、先ほどとは半分くらいしかない、タロットカードの束から、一切の迷いもなく、タロットカードを1枚めくった。


 ぺしん!


  〜  9『戦車せんしゃ』 の位置  〜


 遊梨ユウリユウリは、叫んだ!


「イルカちゃんがおる! あのバスケットボール? をビーム砲にぶち当てたんは、あっちの地球にいってもうたイルカちゃんや!!」

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