41.FinalRound Side「蘇我テンジ」

 こんにちは。蘇我ソガテンジだ。

 いろいろ面倒くさいので、いきなりタメ口だけど気にしないで欲しい。


 今日は、2027年11月1日。日本時間、午後7時45分だ。

 月面戦争:Round6、開始15分前だ。


 オレは今、月面に軍事物資を運ぶ輸送船の中にいる。この輸送船は月面の衛星軌道上にある。

 輸送船は、ついさっき積荷を下したところだ。

 Side「アルテミス」の「開発エリア」と月面基地に、四足歩行兵器を搭載したコンテナを落下させたところだ。

 退屈な退屈な「開発エリア」の任務に従事する、四足歩行兵器を投下したところだ。


 でもって、今オレは、ガチギレている。

 トルく↑に忍び込んでもらった、シャチのぬいぐるみ越しに見えたユウリの苦しむ姿を見てガチキレている。

 務めて普通ふつうにガチキレている。


 アホアホ言っている場合では無い。ふざけている場合では無い。

 オレは、秒でトルく↑にプランCへの移行を指示した。


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 さて、どこから話せばいいんだろう。

 やっぱりここからだ。ここからだよな……2027年9月1日からだよな。


 2027年9月1日、退屈な退屈な月面戦争;Round3が終了して、退屈な退屈な退屈なブリーフィングが終了して、ナチュラル自然派ドリンクを飲み干して、空き缶を「ガシャコン」とゴミ箱にダンクシュートをかました後、オレはNASAに退所願いを出した。ついでにトル九↑も退所願いを出した。


 でもってオレは高校に復学した。ついでにトルく↑も復学した。


 実は、出席日数が微妙に足りなかったんだけど、10月の国民体育大会バスケットボール競技で優勝すれば免除してくれる事になったんで、オレは普通ふつうに優勝した。

 ついでに言うと、トルく↑は、学年トップで免除してくれる事になったらしい。トルく↑は、中間テストで普通ふつうに一位を獲った。あと、ついでに模試も全国1位だった。


 まあ、そんなことはどうでもいいとして、NASAを退所してから3ヶ月の出来事を話そうと思う。

 オレとトルく↑は金が必要だった。とにかく金が必要だった。


 だから、とにかく金を稼いだ。秒でYouTubeチャンネルを再開させて、毎日オモシロ動画や、オモシロ生配信をしまくって、あとドローンレースにも参加しまくって、ついでにe-Sportsの大会にも出まくった。

 賞金が出る大会には、普通ふつうに出場して、普通ふつうに賞金をもらった。特に面白くはなかったけど、オレとトルく↑はとにかく金が必要だったから、金を稼ぎまくった。


 厳密には、オレが金を稼ぎまくって、トルく↑は金を使いまくった。


 トル九↑はもろもろ金が必要だった。

 オレを輸送船に忍び込ませるために、いろいろ金をばらまいたし、いろいろな医療機器を横流ししてもらうために、いろいろ金をばらまいた。

 でもって、自分がお勉強するために、湯水のごとく金を使いまくった。

 あっちの地球の殺戮兵器、重爆じゅうばく? を作るために、湯水のごとく金を使いまくった。


 さて、さっきオレは、「トルく↑にプランCへの移行を指示した」と言った。


 プランCがあると言うことは、プランAもあるし、プランBもある。

 厳密にはさらにケース分けされて、プランBには全部で16パターンあるらしいけど、トルく↑に聞いても、ちょっとなにいってるか、わからなかったから、簡単に説明する。概要だけざっくりと説明する。



【プランA:葛城イルマの、あっちの地球への侵入を止める】


 いきなりなんだけど、オレとトルく↑の大チョンボを説明する。

 そう大チョンボだ。


 オレたちが大チョンボを犯したのは、2027年6月2日。


 オレが、あっちの地球の占術せんじゅつ卜術ぼくじゅつについて、トルく↑に説明していた時だ。NASA、そんでもって国連の上層部に提出するレポートを、まとめてもらっていた時だ。


 あのとき、あの部屋にはガッツリ盗聴器をしこまれていた。

 NASAのフィールドセンターのひとつ、アメリカのフロリダ州の「ケネディ宇宙センター」の一室には、ガッツリ盗聴器をしこまれていた。


 おかげで、Side「かぐや姫」の戦術が、完全にユウリの卜術ぼくじゅつだよりだったのがバレてしまった。

 こっちの地球の葛城かつらぎイルカの父親、葛城かつらぎイルマにバレてしまった。


 葛城かつらぎイルマは、その情報を、こっちの地球と、あっちの地球、同名の2つの会社に売った。

 そんでもって、同名の2つの会社は、ユウリの暗殺を企てた。


 ユウリを暗殺することで、Side「アルテミス」に勝利させ、こっちの地球と、あっちの地球、同名の2つの会社で「利権」を独占する手はずを整えた。


 あとついでにこれも話しておく。せっかくだからオレはについても話すことを選んでおく。

 あっちの地球とこっちの地球が、同じ並行世界線上に発露する事を予言した人物は、2人いる。


 ひとりは、あっちの地球にいるわたしのパパ。

 もうひとりは、こっちの地球にいる葛城かつらぎイルマ。


 つまり、どっちの名前も葛城かつらぎイルマ。


 わたしのパパは、2025年4月5日に、地球が2つになる事実を国連に報告した。

 こっちの地球にいる葛城かつらぎイルマは、とある世界的企業にその情報を売りつけた。ITから医療まで、幅広い事業を手掛ける大会社に情報を売りつけた。


 そう。さっき話した会社に売りつけたんだ。


 こっちの地球にいる葛城かつらぎイルマは、とんでもない強欲人間のようだ。「利権」はできるだけ、自分に集中させたいようだ。

 なもんで、ユウリの殺害計画の詳細なプランを計画して、実行犯まで買って出た。でも、葛城かつらぎイルマにとって、ユウリを殺すのはついでだ。


 葛城かつらぎイルマは、あっちの地球との契約交渉の席に立ついでに、ユウリを殺すことにしたんだ。

 ペスト菌? を使って殺そうとしたんだ。

 あとついでに、なんだかわかんないけどウイルス性の病気? をあっちの地球にばらまくことにしたんだ。

 ワクチンをあっちの地球に提供するという「利権」のためだけに、ウイルス性の病気? をばらまくことにしたんだ。


 くるってる。

 こっちの地球の葛城かつらぎイルマは、くるってる。

 人の命をなんだと思ってるんだ!!


 パパとは大違いだ!


 オレがワタシだった頃に、どうすればワタシと自然に会話できるのか、ウジウジと悶々もんもんと悩んでいた、ワタシのパパと同じ名前なのが信じられない。顔も声も、ソックリなのに、なんでこんなにも違うんだ!

 

 パパと話すのは、ちょっと気恥ずかしい。に会話ができない。だって……本当はパパのことが大好きだから。

 子供のころに、クリスマスに、サンタさんに変装してくれた……パパのことが大好きだから。


 でも、こっちの地球の葛城かつらぎイルマとは、に会話ができる! 平然と会話ができる!!

 にぶん殴って、に蹴っ飛ばして、アホほど悪口を並べ立てることができる!!!



 あ! しまった! ごめんなさい。


 こっちの地球の葛城かつらぎイルマがあんまりにもゴミクズすぎるんで、めっちゃ説明が長くなりました。ごめんなさい。

 こっからは、もっとシンプルに説明します。


 要するにプランAは、こっちの地球の葛城かつらぎイルマの悪事を、あっちの地球に行く前にあばいて止める作戦だ。

 大人気イケメンYouTuberコンビ「TENJIKU」が、葛城かつらぎイルマに突撃生取材かまして、こっちの地球でさらし上げてアホほど大炎上させる計画だった。


 でも、計画は失敗に終わった。


 2027年11月1日、葛城かつらぎイルマは、あっちの地球に旅立った。



【プランB:葛城イルマとユウリの接触阻止、またはペスト発症を食い止める】


 長々と語ったプランAと比べると、プランBはシンプルだ。とにかくシンプルだ。

 目的はただひとつ! ユウリの身の安全を、なんとしてでも確保する!!


 でもって、あっちの地球に行きやがった葛城かつらぎイルマに、イケメン人気YouTuberコンビの「TENJIKU」の片割れ、蘇我そがテンジがあっちの地球に乗り込んで、葛城かつらぎイルマに突撃生取材かまして、2つの地球でさらし上げてアホほど大炎上させる計画だった。


 でも、計画は失敗に終わった。


 いま、ユウリはめっちゃ苦しんでいる。

 許せない!! 絶対に許せない!!!



【プランC:月面戦争を終わらせる】


 そして最後のプランC、これはもう私怨しえんに近い。

 オレの大事な大事な大事な大事な大事な大事な大事な大事な大事な大事な大好きなユウリを危険な目に合わせた、ゴミクズ野郎、こっちの地球の葛城かつらぎイルマ!!


 そんでもって、くだらない「利権」のために、オレの大事な大事な大事な大事な大事な大事な大事な大事な大事な大事な大好きな大事な大事な大事な大事な大事な大事な大事な大事な大事な大事な愛している大事なユウリを危険な目に合わせた、ゴミクズ会社の思惑をめちゃくちゃにするためだ!!


 でもって、そのためには、あっちの地球の葛城かつらぎイルカの協力が、どうしても必要だった。絶対に必要だった。

 月面戦争に勝敗なんかがついたら、またくだらない大人がくだらない「利権」をグチグチねちょねちょ言い出す。


 だからどっちも泣かす。どっちも負けさせる。


 両者ノックアウトで、月面戦争をいっさいがっさいパーにする。

 そのためには、葛城かつらぎイルカの協力が、どうしても必要だった。


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 オレは、イヤホン越しに、トルく↑の話を聞いていた。

 ちょっと、なにいってるか、わからない話を聞いていた。

 トルく↑と、葛城かつらぎイルカにしかわからない、ちょっと、なにいってるか、わからない話を聞いていた。


「……てな訳や。兵器を使うってことは、お前のモラルを、ちょっとだけ手放してもらう必要があるんやけど……平気か?」


 トルく↑が、ちょっと、なにいってるか、わからない話を終えると、しばらく経って、葛城かつらぎイルカの声が聞こえてきた。ポツリと聞こえてきた。


「ウン、わかった……悪く無いだろう」


 でもって今度は、なんだかわからない無機質な声が聞こえてきた。


「……3……2……1……ゲームスタート!」


 

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