23.「かぐや姫」は卜術頼みだからだ。by イルカ

 こんにちは、葛城かつらぎイルカです。

 私がしゃべるのは久しぶりなので、ちょっとドキドキしています。


「えへ!」


 うーん、やっぱり敬語はちょっと苦手だな……やっぱり素の自分で語らせてもらいます。ぶっちゃけ、ちょっと気持ちが悪くなるかもだけど、どうか許してください。こんな私を許してください。


「えへへ!!」


 ・

 ・

 ・


 私がしゃべるのが苦手だ。とても苦手だ。理由は、私があがり症だからだ。

 言いたいことが、全く上手に言えないからだ。あがり症だから、とりあえず「えへ」っと、愛想笑いをしてしまうクセがあるからだ。


 今日は、2027年6月1日。もう、こっちの地球にきて二年以上経つ。

 私は、もうすっかり僕私になった。すっかり女の子になった。身長も2センチ伸びて、150センチになった。

 でも相変わらず、驚異的に胸囲がない。「永遠の0」だ。でも、そのことにはどうか触れないで欲しい。理由はちょっと、いや、にキズつくからだ。


 人が傷つくことを聞くのは、良く無い事だと思います!


「えへ!」


 さてと……今の状況を説明したい。私は今ゆっくり歩きながら、駅前に向かって歩いている。駅前の甘味処かんみどころで、遊梨ゆうり↓と待ち合わせをしている。大抵、10分前には目的地に着くように心がけている。理由は……


「君、ちょっといいかい?」


 大抵つかまるからだ。男の人につかまるからだ。


「君、芸能界に興味ない?」


 そう言って、男の人は名刺を差し出した。つい三日前に、同じ芸能事務所の名刺をらったばっかりだ。


「君なら絶対、すぐにでもスターになれるよ。女優、モデル、タレント、なんだってイケるよ!」


「えへ、ありがとうございます」


「じゃあ! すぐに事務所に! あ、もちろん親御さんの了承を得てからだよ! ウチはそこんとこキッチリしてるから。まずは親御さんにご挨拶に……」


 150センチの小柄な私には、、モデルは難しいんじゃないのかな?

 そう思いながら、私は遊梨ゆうり↓に教えてもらった断り方を切り出す。

 ナンパとか、スカウトとか、要するに、遊梨ゆうり↓曰く、悪い虫を撃退する為には、これが一番良いらしい。これが一番効くらしい。


「でも、私、やりたいことがあるから……」


「大丈夫、大丈夫、ウチはタレントの希望を尊重するから、ところで、やりたいことって?」


「えへ、お勉強です」


「そうなんだ! すごいね!」


「えへへ、【単一世界線上たんいつせかいせんじょうにおける相対性理論そうたいせいりろん】についてちょっとお勉強しているんです」


「……は?」


「えへへへ、【単一世界線上たんいつせかいせんじょうにおける相対性理論そうたいせいりろん】の実証実験としてまず真っ先に行うべきことは人工衛星を作ることなんだよね。人工衛星の調査結果をエビデンスとして発表する事で【単一世界線上たんいつせかいせんじょうにおける相対性理論そうたいせいりろん】の有用性をもっとわかりやすく世間の人たちに理解してもらう必要がある。相対論効果を調べるには、軌道の計算も相対論的にしなければならないのでは? と心 配する方もいるかもしれないけどそこは大丈夫! そこはニュートン力学でも十分精度あるし……」


「そ、それじゃあ、もし興味あったら、名刺の番号に電話して! 無理しなくても、本当に無理しなくても良いから! 興味あったらで良いから! ……それじゃ!!」


「えへ、ありがとうございます」


 スカウトマンは、大慌てで去っていった。

 便利だ。【単一世界線上たんいつせかいせんじょうにおける相対性理論そうたいせいりろん】はとても便利だ。


 さて、遊梨ゆうり↓との待ち合わせ場所の甘味処かんみどころにいかなければ。

 遊梨ゆうり↓との、デートの待ち合わせ場所に行かなければ。なんだかんだで、時間ピッタリになってしまいそうだ。


 今日は、遊梨ゆうり↓とデートだ。


 デートコースはいつも通り。まず最初に甘味処かんみどころでお茶をする。

 遊梨ゆうり↓は必ず豆かんを食べる。必ず黒糖を半分入れて食べる。私は、ところてんか磯辺揚げ。気分でどっちか選んで食べる。


 そしてショッピングに行く。ロリータ服の専門店に行く。そして遊梨ゆうり↓にセットアップで私の服を一式買ってもらう。

 私は、いつも本当に申し訳なく思っているんだけど、私が、「遊梨ゆうり↓が行きたい所に行こうよ! 私は合わせるから」と言うと、遊梨ゆうり↓は必ずロリータ服の専門店に行く。そして、私は、セットアップで服一式買ってもらう。それが、遊梨ゆうり↓にとって、最高のらしい。


 ちょっとなにいってるか、わからない。


 でも、遊梨ゆうり↓は、私がロリータ服を着ると、めっちゃ喜んでくれるし、私は、遊梨ゆうり↓が喜んでくれると、めっちゃ嬉しい。

 だから、私はロリータ服を着る。私にとって遊梨ゆうり↓は絶対だ。遊梨ゆうり↓は私がこっちの地球に来て、途方に暮れていたときに手を差し伸べてくれた恩人だ。そして大親友だ。


 だから、私はロリータ服を着る。遊梨ゆうり↓のためにロリータ服を着る。


 さて、今日のデートの予定の続きを話そう。今日、私は遊梨ゆうり↓にロリータ服を買ってもらったあと、私の家に来てもらう。遊梨ゆうり↓に折り入ってお願いがあるからだ。


 私は、遊梨ゆうり↓とひとつになる必要があるからだ。


 私はモチロンはじめてだし、当然、遊梨ゆうり↓もはじめてだと思う。

 でも、経験しなければならない。私と遊梨ゆうり↓はひとつにならなければならない。


 私は遊梨ゆうり↓に頼ってばかりだ。私は一体、いつになったら、遊梨ゆうり↓に恩返しができるのだろう……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る