覚悟
翌日、学校が始まったが、亮平は時差ボケの影響で頭が朦朧としていた。
また、悠衣がスーパーで殺されたこともあり、生徒たちの様子は暗かった。
朝の会で、校長が全生徒にアナウンスをして、悠衣を弔った。すすり泣きしている女子が何人も見受けられた。それほど悠衣の人気が凄まじかったことがうかがえる。
前山は、亮平に同情するように肩に手を置き、慰めるようにしてくれた。
しかし、亮平の中にもう悲しみはない。彼女の命を救うことだけを亮平は考えていた。
生徒たちの雰囲気が暗い中、授業は終わり、亮平はすぐにカバンを持って一人で学校の坂を下っていった。すると、校門前に悠衣が迎えに来てくれていた。
亮平は軽く手を上げ、車に乗る。
「時間を巻き戻そう」
途端に亮平が言った。悠衣は亮平を見つめ、
「それでいいの?」
亮平は真っ直ぐ悠衣を見つめて頷いた。すると悠衣は予めそうなることを予見していたのか、手際よくカバンから資料を取り出して、亮平に渡した。
「これは?」
「松木や犯人への手掛かりについて調べ上げたもの。明日最後の逆行を行う。それまでに目を通しておいて」
「分かった」
亮平は緊張しながらも、資料をぱらぱらとめくっていった。
家に帰ると亮平は疲れてベッドに仰向けになって寝てしまった。
一時間ほど経って亮平は目を覚ますと、まだ眠気が覚めないまま悠衣に貰った資料を注意深く読んでいった。
翌日、亮平は朝早くに起きた。普段は朝起きがつらい方だが、今日は不思議と頭が冴えている。適当にたんすから服を漁り、それを着ると、歯を磨いてリビングで朝ご飯を食べた。リビングには母と亮平の二人きりであった。まだ兄妹は起きていない。
母は、これから亮平が何をするのかは知っていたが、あえて何も言ってこなかった。
ただ、いつもより豪勢な朝ご飯が用意されていた。
亮平は黙って一口一口味わいながら食べる。やがて亮平は手を合わせて「ごちそうさま」と言った。そしてその足で亮平は玄関へ行き、靴ひもを結んだ。
「気をつけてね」
背後から母の声が聞こえた。だが、亮平は振り返らなかった。そうして、何も言わずに家を出て行った。
亮平は橿原神宮まで歩く。時々胸を押さえて深呼吸する。
この前の逆行とは違い、もう後がないのだ。失敗は許されない。
そうこう考えている間に、亮平は神宮に着いた。二十分ほど歩いたはずだが、ひどく短く感じられた。
すると、悠衣がセーターを着て待っているのを亮平は見つけた。
悠衣と合流すると、悠衣は「おはよう」と挨拶してまた亮平の腕時計を手に取り、いじりだした。すると、亮平はずっと気になっていたことを質問した。
「この俺の腕時計って何か仕掛けがあるの?」
「これは私があげたものじゃない。そしてこの腕時計もあなたと同じ型」
そう言って悠衣は自分の腕時計を亮平に見せた。
「つまり?」
「私がまだカウンセラーとしてあなたに接触していた時、隙を見計らってあなたの腕時計を盗んだの。逆行用の腕時計にすり替えた」
「は?何でそんなことを」
寝耳に水の話であった。
「私が持ってるより、あなたが持ってる方が安全だからよ」
亮平は文句をつけたが、悠衣はそれをさらりと躱し、本題に入る。
「昨日相談した通り、あなたと私が今から時間を巻き戻すのは二週間前。これで本当にいい?」
亮平は頷いた。
「でもちょっと待ってよ。巻き戻しじゃなくてタイムスリップは出来ないの?」
「タイムスリップはもう二度と出来ない」
「なんで?」
「破壊されたからよ」
悠衣は有無を言わさず亮平に黒い逆行用マスクを着けさせ、逆行に備えた。
悠衣は最後に、亮平の時計の針を回し、リセットボタンを押した。
すると、時間はまた急速に反転し始めた。
亮平は先ほど歩いた道を逆向きに歩いていく。段々とその速度が速くなっていった。
だが、亮平の意識は、依然と違ってはっきりとしていた。亮平は巻き戻しの気分をしばらく味わっていたが、やがて意識が薄れてきた。
亮平は心の中で舌打ちしつつも、流れには逆らえなかった。
亮平はベッドの上で目覚めた。
すぐに跳ね起きて、時計を確認する。
2020年 4月20日
再び、時間は巻き戻された。
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