守護者
やがて警察がやってきて、時間の巻き戻しなどは伏せながらウィルは事情を話した。
それで納得しなかった警察は、ウィルを連行しようとしたが、上層部からの一本の電話によって松木とその仲間を捕まえておとなしく引き下がった。
その後、爆発処理班が到着して、仕掛けられていた爆弾をすべて回収した。
幸い、死者やけが人は十人にも満たなかった。また、亮平の同級生も無事であった。
塩見は心に大きな傷を負ったが。
そして、清水はまた甚大な損壊を受けた。
亮平や彼女は警察に保護され、事情を聴かれたが、黙秘を貫いた。
やがて二人はウィルに面会する。
ウィルは今までの事情をすべて如実に語ってくれた。
未来の悠衣がウィルたちを呼んでくれたこと、そしてウィルは日本にあらかじめ待機していたこと、しかし他にもいた松木の仲間を捕まえるのに手間取って到着が遅れたことなどを話した。
話を聞き終わり、最後に亮平は訊いた。
「どうして清水の舞台から飛び降りれば時間が巻き戻されるということを知ってたの?」
するとウィルは意味ありげに笑った。
「私は松木と同じく、遠いところから来た」
それを聞いて亮平は驚きながら呆然とウィルを見た。
ウィルは椅子から立ち上がって言った。
「松木が破壊者ならば、私は陰でこれからの未来を見守る守護神と言うべきだろう。そのせいで、テツオには本当に申し訳ないことをした。時が来るまでは、部外者は動くべきではなかったんだ。だが、それでも必死にテツオを助けようとしたが、結局テツオは死んでしまった。悔やむにも悔やみきれない」
「十五年前から時間の巻き戻しの事を知ってたの?」
「すべてを知っていた」
亮平はそれを聞いて衝撃を受けた。
「だが、ここは君たちの時間だ。未来を知っている人間がそう易々と踏み入れるべきではないんだ。いずれ、君もそれを理解する時が来るだろう。君たちの思うがままに進めばいい。運命などで未来は決まらない。君たち次第だ」
ウィルは亮平と彼女の背中を力強く叩き、肩の荷が下りたような顔をした。
「そろそろ、よそ者は舞台から降りるとするかな」
そう言ってウィルは部屋から出て行った。
亮平も部屋を出て、歩き去っていくウィルの後ろ姿を食い入るように見つめた。
亮平は何となくウィルとはもう会えないような気がしたのだ。
しばらく経って、お互いの両親が二人を迎えに来た。
山原は二人のもとでずっと付き添っていたが、突然の見知らぬ外国人の登場、そして事情を聴いても答えてくれない二人に困り果てていた。
彼女の母は泣き叫んで彼女を抱きしめる。
すると、亮平の母もそれをまねようとした。
亮平はそれを軽く払い「お疲れ」と一言言った。
理恵は笑みを浮かべて「長かったわね」と返した。
亮平は彼女と別れて、母の車で家に帰った。
兄や妹がニュースを見て亮平を心配していたが、いざ亮平の無事を確認すると、犯人はどんな感じだったと質問攻めにされた。
亮平はそれを軽く受け流してシャワーをして、自分の部屋に戻った。
スマホをいじって、ニュースを確認する。どれもこれも、清水寺の事件でもちきりだった。亮平はそれを不満げに見て、やがて諦めたように電源を切り、スマホを充電器につないだ。
そしてベッドに仰向けに飛び込んだ。
天井を見上げ、やがてふーと息を吐き、心底ほっとしたような顔を浮かべた。
今までの巻き戻しで何人もの人々が松木によって殺されていったのだろう。
亮平のように、大勢の人たちが大切な何かを失った。
その運命を変えることはできた。
だが、この先、また同じようなことが起きるかもしれない。
松木のような人々がこの世界には何人もいる。
何かに絶望して、憎しみを抱き、非行に走る人々。
その憎しみは必ず、他者から生まれるものである。
だが、逆に言えば、その憎しみを解き放つことが出来るのも人間なのである。
その憎しみの連鎖を断ち切るために亮平はこの先の未来を歩む。
運命など元から決まってはいない。
この先の未来を変えていけるのは、自分たち自身なのだ。
やがて、亮平の意識は段々と薄れ、長い眠りに落ちた。
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