誕生日

「はい!これ、誕プレ!」

学校からの帰りの電車で、彼女はカバンから小さな包みを取り出し、亮平に手渡した。

「え!マジで!ありがと!」

亮平は歓喜の表情を浮かべた。もしかしたら何も貰えないんじゃないか、と不安に思っていた。

朝、二人で電車に乗っていたのにも関わらず、彼女からは「おめでとう!」の一言だけだったので、亮平はどぎまぎしていたのだ。

別に物欲というわけではなく、彼女が自分の誕生日に何かをあげようという、彼女の意思がほしかった。正直、誕生日プレゼントをもし貰えなかったら、自分への愛は冷めたんじゃないかという被害妄想まで持つところだった。

そういうわけで、関門をくぐり抜け、亮平の17歳の誕生日は無事に終われそうだ。

「開けていい?」

「うん!」

彼女が頷くと、亮平は包みを慎重にめくり始めた。

中身が気になってたまらなかった。

包みをめくり、白い箱を取り出して、箱のふたを取ると、そこには、黒い腕時計が入っていた。

「おー!これ欲しかったやつ!」

「腕時計失くしたって言ってたから、これを選んだの。プレゼント被らなかった?」

彼女が心配そうに聞くと、亮平は首を大きく縦に振って言った。

「大丈夫!マジでありがたいです!ホンマにありがとう!」

彼女は少し照れながら、「これからもよろしくね」と言った。

亮平はこちらこそと軽く頭を下げると、彼女はスマホを取り出した。

「記念に写真撮ろ!一生で一回の17歳の誕生日だし」

「いいねー!」

亮平は微笑んで、彼女からスマホを受け取り、貰った時計を腕に着けた。亮平が広告でこの腕時計を見たとき、確か価格は2,3000円ほどだった。

しかし、それでもいい。誰かから貰うどんなに高級な腕時計よりも、彼女から貰ったこの安い腕時計が嬉しかった。そして、亮平はこれを一生大切にすると心に誓った。

亮平はスマホのシャッターを切る。

「じゃあ撮りまーす。はい、チーズ!」







亮平は、現実に引き戻された。彼女のいない場所に。

亮平は、軽い発作をおこして、うまく息が出来なくなっていた。息遣いが荒い。

はーはー、と必死で息をする。胸が締め付けられる感覚。

亮平は、胸を手で押さえて、急いでベッドの下から松崎に貰った白い袋を取り出した。

そして、中から注射針を手に取る。亮平はそれを腕に挿そうとして、躊躇した。

中に入っている説明書きを慎重に読んだ。

それを読み終わった亮平は、ゆっくりと注射針を腕に差し込んだ。

すると、亮平の呼吸は次第にゆっくりになる。そして、しばらくして満足気に亮平は

笑った。いや、泣いているのか。どちらにせよ、そのヒステリックな声には狂気が垣間見えた。


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