エピローグ
エピローグ
子供達は静かにそれを聞いていた。
誰も茶々を入れようとはしなかった。
やがて老人が話し終え、フーと息を吐いて椅子の背もたれにもたれかかった。
そして「少し難しかったかな?」と挑戦的な笑みを浮かべて訊いた。
南コウキは首を傾げた。
「結局その悠衣って人はどうなったの?また始めに戻ったってことだよね?また彼女は死んじゃうの?」
老人は答えなかった。すると、コーヒーと子供たちにジュースを持って一人の美しい老婆が部屋に入ってきた。
「ありがと」
老人がカップを手に取る。子供たちも老婆に礼を言った。
老婆は、温かく微笑して老人の方を振り向き、二人にしか分からないように笑いあった。
すると西山カズシが言った。
「でもよかったね。その本に書いてあるような未来にならなくて」
松宮ユウキも、うんうんと頷いた。
「AIは私たちの友達だからね」
南コウキは不服そうな顔を浮かべる。
「うるさいだけじゃん」
「でもそれは私たちの為を想って言ってくれてるんだよ。それにプログラミングは私たちのお母さんがやってるんだからうるさくなるのも当然でしょ」
老人は笑みを浮かべる。
「五十年前までは考えられなかった未来が現在だ。世の中、何が起こるか分からないものだよ。この未来も、この二人の主人公が作ったものだ」
子供たちは老人を見つめる。
「未来は自分たちの行動によって決まるということさ。はじめから、運命というものなど存在しない。あの後、逆行装置やタイムマシンは主人公によって完成されたが、多くの人間がそれを潰そうと声を上げた。人類は、それほど愚かでもなかったんだ。彼らもそれを悟っただろう」
子供たちは怪訝な顔をしている。
「さあ、そろそろ帰らないとお父さんとお母さんと、それにモーリーに怒られるぞ」
そう言って子供たちを送り出した。子供たちはカバンを持って玄関に行く。
老人も車いすを走らせて老婆と見送った。
子供たちは木製のドアを開け「さようなら」と挨拶をして出て行った。
その隙間から、車が空を優雅に飛んでいるのが見える。
家の外で、人型ロボットが子供たちを迎えに来ていた。
「コウキくん。早く帰らないとお母さまに怒られますよ」
「わかってるよー」
老人はそれを見ながら老婆と見つめあい、手を繋ぎあった。
部屋の机に、開いたまま置かれていた本が窓からの風によって閉じられた。
本の表紙には、五文字の英語が書かれている。
LOCUS
完
LOCUS @satoyaukita
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