一か月後

一か月後


亮平は普段通り、電車でバスの駐停所まで行き、学校へ向かった。

今日は、彼女は車で両親に学校まで送ってもらうらしい。

終業式の日である。

生徒たちは、制カバンだけを持ち、年度の終わりとあって、活き活きとした表情で楽しそうにおしゃべりしている。

しかし、亮平にとっては、終業式での校長のスピーチが待っていると思うだけで、だるさを感じる。校長のスピーチと言えば、もう学校内では有名な話で、内容が薄いわりに話す時間が長いのだ。教頭にも注意されるほどである。

毎回毎回、生徒たちの間で、今日の校長のスピーチ時間の予想合戦が繰り広げられ、ぴったし賞の人は皆でジュースをおごるというのが定番だった。

亮平は、バスの窓にもたれかかって、朝が弱いだけに目をゆっくりと閉じて眠りに入ろうとした。しかし、中々寝付けなかった。

あれから、佐々木とは会っていない。

電話番号は貰っているが、特段、連絡するようなことは起きなかった。

佐々木が、どこで何をしてるかのかさえも分からなかった。

もしかしたら、佐々木は亮平が作り出した偶像なのではないかとさえ、最近思い始めている。

電話をしてみれば、それは分かることなのだが、亮平は、5月4日の清水寺の事件さえも時々忘れることがあった。というか、忘れようとしたというのが正解なのかもしれない。

亮平の使命は、ただ彼女を京都にデートへ行こうと誘いさえしなければいいのだ。それだけで、亮平がここに来た目的は達成される。

なるべく考えたくはない。自分はある意味、犯罪者なのだろう。他の人の命を見捨てることを妥協したのだから。

だが、そんなことはもうどうでもいい。彼女さえ助かればいいのだ。自分は正しいことをしている。そうやって、心に蓋をして、自分を正当化させた。

亮平は、頭の中の話題をそらそうと、必死で春休みの計画について考え始めた。

そうこうしている間に学校に着く。バスから降りると、友達と一緒に坂を上り始めた。

下駄箱に行き、靴を履き替え、教室へと階段を上る。

亮平たちが教室に着くと、来ていた生徒の数はまだまばらだった。

亮平は、自分の席にカバンを置くと、友達の輪の中に入っていった。





「今日の校長の話、めっちゃ短かったじゃん!くっそー!」

前山が悔しがっている。亮平も同調した。

「俺も31分って予想してたのに誤差ありすぎやった」

「まあ、ぴったし賞がいなかったのが不幸中の幸いやな」

今日の校長のスピーチは5分で終わったのだ。いつもの6分の1の時間である。

この春休みを有意義に過ごそう、というようなことを言って終わったのだ。

生徒たちは、予想は外れたものの、歓喜した。

校長のスピーチほど眠いものはない。姿勢を少しでも崩せば、すぐに教師がその生徒のもとへ駆けつけ、矯正されるのだ。

何とか姿勢を崩さないように眠気と戦うので精一杯だった。

だが、喜んだのも束の間、生活部主任の伏見が壇上に上がり、野太い声で40分にも渡る生徒の心がけについて語りだしたのだ。伏見は四十代ほどの女性で、怒ったときの表情がまるで仁王のようになるので生徒たちから特に恐れられていた。亮平も幾度となくこの教師に怒られ、明らかに理不尽であるということにも怒鳴られる。反抗しようと思えばできるが、後々面倒なことになると言うことは容易に想像できるので、いつも素直に従っていた。

というわけで亮平は伏居を敬遠した。なるべく話したくないし近寄りたくもない。時間の巻き戻しをして嫌だったことに一年ぶりに伏見の顔を見たことが入った。

生徒たちの表情は、徐々にこわばっていった。校長の話が短かったのはこのためか、と

全員が悟った。伏見の話を要約するとこうだ。


まずは、春休みだからと言って、ゲームやスマホばかりいじって、夜遅くまで起きていたり、起床の時間は12時だったりというようなことはあってはならない。

生活習慣の乱れは、健康を害することにもつながります。くれぐれも、そんなことがないように日々心掛けてください。

そして、生徒たちはどんな時もこの学校の生徒であるという誇りと自覚を持って行動してください。ゲームセンターに入り浸ったりするようなことは避けるように。

また、思いやりを持って人と接するように。毎回、春休み期間中に、学校への苦情電話が殺到しています。今回はそういうことはないように。

他人を傷つければそれは自分に返ってきますよ。嫌いと言えば嫌いと帰ってくる。好きと言えば好きと帰ってくるんです。


というような話が延々と続いていく。

そして、やっとこの長丁場にも終わりが見えてきた。


最後に、最近、不審者情報が多発しています。奈良方面の電車の方々です。

ほとんどは、生徒たちに危害は加えず、ただじっと生徒たちの方を意味ありげに見ている、ということです。会社員ということも考えられましたが、あまりにも生徒たちの下校時間と重なっているので警察にも、そのことで連絡しています。

警察によれば、同一人物の可能性が高いとみられています。怪しい人物を見かければ、すぐに学校か警察に連絡してください。それでは良い春休みを。


こんな感じで、過酷な40分が終わった。

亮平たちは教室に戻り、ホームルームが始まった。三学期の成績表が返されるのだ。

出席番号順に、どんどん通知表が返されていく。

「佐藤」

担任教師の山原が名前を呼ぶと、亮平は席を立ち、通知表を受け取った。


学年45位


亮平は苦笑いをする。過去に戻った五日後に学年末テストがあったのだ。その前の授業も実質受けていなかったし、準備のしようがなかった。

一度全く同じテストを受けたことがあると言っても、一年前。

当然と言ったら、当然の結果である。前山が「何位だった?」としつこく訊いてきたが、笑って誤魔化した。

全員に通知表が返され、山原は教卓に手をついて言った。

「春休み中は伏見先生が仰っていたことをちゃんと守るようにな。学年が一つ上に上がるんだからその分、責任感も持つこと。後輩に良いお手本になるようにしよう」

生徒たちは上の空である。一応、話を聞いている鄭を装っているが、生徒たちの頭にはこれから始まる春休みの予定しかない。

山原の話が終わり、学級委員の福村が号令をかけ、全員で挨拶した。

「次の担任は山原じゃありませんように」と亮平の隣の席で祈っている木下の声が聞こえてくる。

そして、亮平の、短い、一か月間の高一生活が終わった。





「成績どうだった?」

帰りの電車で彼女が訊くと、亮平は苦い顔で通知表を見せた。

「えー、珍しい」

彼女は、素直に驚いていた。

毎回、成績で亮平は学年10位には入っていたからだ。

亮平も、彼女の成績を訊くと、彼女は通知表を見せる。

「あともうちょっとで一位だったんだけどね」

通知表には、全教科学年2位と書いてあった。亮平は感嘆する。

「めっちゃいいじゃん!」

 「でも松田さんに負けちゃったのはショック。めっちゃ頑張った自信があったのに」

 松田さん、というのは亮平と同じクラスの女性で、テニスも勉強もできる、まさに秀才を絵に描いたような人物だった。それに、優しく温和な性格であることもあり、男子からの人気は絶大であった。本人は自分が陰で頑張っていることも話さず、謙遜ばかりしているので亮平も松田の事がどことなく好きだった。あくまで友達としてという意味だが。

 「まあ松田さんは安定だからなー。それでも二位は凄いやん」

 「そうだよね。ポジティブに考えるわ」

「それにしても、ホント物理がマジ意味不明だったんだよなー」

「あ、分かる分かる!」

「もう先生が意味不明なんだよ。声小さいから、聞き取りづらいし」

「ほんとそう思う!もはや授業聞かない方が良い点数取れそうな気するし」

 「この前、福村が先生にもっと大きい声で話してください、って注意したけど、一向に治らないしな。やっぱり物理もタッキーにやってほしいわー」

と化学基礎の担当である滝沢優香のあだ名を言う。

「タッキーだったら10点は点数上がりそう」

 亮平も同調した。

「それな!タッキーだったら難しい単元とかでも聞く気になるもん。ま、宿題は多いけど」

すると、彼女はずっと言おうと思っていたのか、話題を変え、「春休みどっかいかない?」と訊いてきた。

亮平の表情は少し強張った。彼女は気づいていない。

「いいね」

事件が起こるのは春休みじゃない。問題ないはずだ。彼女はガッツポーズをして見せた。

「やった!どこ行く?」

「どこでもいいよ」

亮平が言うと、悠衣は少し考えるような仕草を見せ、やがて亮平に提案した。

「京都とかどう?」

亮平の表情は、今度こそ完全に、彼女が気付くぐらい険しくなった。顔に動揺の色が走っている。

「気に入らなかった?」

彼女が心配そうに訊いてきた。

亮平は、必死に表情を和らげようとした。しかし、首筋から冷や汗が出てくる。亮平は慌てて「いや、そんなことないよ!でもそれは別の機会にしてもうちょっと違うところにしない?」と動揺を押し殺して亮平が提案した。

彼女は少し戸惑った表情を浮かべたが、笑顔を作って言った。

「そうだね。そうしよ!」

「じゃ、安定にユニバとかどう?」

 亮平は彼女に申し訳ない思いがしたが、京都には不吉なものを感じる。ましてや、彼女を死なせてしまった地に、のこのこと本人とデートするのも気が引けたのだ。 





亮平は家に着くと、部屋に戻り、机の引き出しを開けて、メモ用紙ぐらいの紙を取りだした。そこには、電話番号が書かれている。

亮平はスマホを取りだし、しばらく迷ったが、やがて紙に書いている番号に電話をかけた。3,4度コール音が流れる。

そして、しばらくして、声が聞こえてきた。

「もしもし?」

「もしもし。佐々木先生?」

「ええ」

亮平はしばしの沈黙の後、「久しぶり」と返した。


「母さーん。ちょっと出かけてくるわ」

亮平はドアから顔だけ出し、リビングで野球中継を見ている母に言うと、母は亮平の方を振り返った。

「どこ行くの?」

「競技場」

亮平は伝えると、急いで家を飛び出し、自転車で橿原神宮の隣にある陸上競技場へと向かった。

競技場前の駐輪場に自転車を停めると、走って橿原公苑に入った。

すると、競技場の門の前に、グレーのコートを着た佐々木が立っているのを亮平は見つけた。

亮平はそれを遠目で確認すると、ゆっくりとその女性の方まで歩いていった。あの口論

のあと以来の再会のため、少し気まずい思いがしたが、彼女の為である。

  すると、佐々木も亮平を見つけると、無言で競技場の周りを歩きだしだ。

亮平も佐々木の隣を並んで歩く。

「今までどこに?」

亮平が歩きながら訊いた。佐々木は短く答える。

「仕事をしてたの」

「どういう?」

「教えない」

佐々木は笑ってはぐらかした。

「なんでだよ」

亮平が訊くと、佐々木がしゃべる前に自分から答えた。

「どうせそのとき、じゃないから、だろ?」

佐々木は微笑する。

「そうね」

そして、佐々木は無駄話はおしまいというように手を軽く叩き、本題に入った。

「それで、今日はどうしたの?」

亮平は、思い出したように言った。

「ああ。悠衣がさ、春休みにユニバに行こうって、誘ってきたんだよ」

佐々木は、それを聞くと目の色を変え、ほおを緩ませて羨ましそうに眼を輝かせながら言った。

「へー!いいじゃない!」

亮平は軽く笑うと、心配事を吐露した。

「でも、大丈夫なんかな?」

「いいんじゃない?事件はゴールデンウィークに起きるんだから。それに大阪だし、大丈夫でしょ」

しかし、亮平の一言で、佐々木の表情は一変した。

「でも、この前は行かなかったんだよ」

すると、佐々木は立ち止まり、ゆっくりと亮平に視線を向けた。

「一年前は、つまりは前の時間では、彼女はあなたをユニバに誘わなかったの?」

「ああ。悠衣とは春休み、どこにも遊びに行ってないはずだ」

佐々木は人差し指を亮平に向け、首をひねると、思いつめた顔をしてしばらく考えていた。亮平も、佐々木のただならぬ雰囲気に表情を強張らせた。

「先生、これって何か問題が?」

佐々木は、ゆっくりと口を開く。

「分からない。問題があるかどうかはまだ分からないわ。何せこんなことは初めてだから。もう一度訊くけど、この前の時間では、春休み彼女と一度も遊んだことはないの?」

「誘ったけど、おじいちゃんが亡くなったから、って言って結局行けなかったんだよ」

佐々木の顔はどんどん険しくなっていく。

「そうよ。確かにそうだったわ。おじいちゃんが。それは春休み前のことよね?」

亮平は、記憶を呼び起こしながら言った。

「確か、春休みが始まる2日前だったと思う」

すると佐々木は、いきなり亮平の肩を激しくゆすって「今すぐ彼女に電話して!」と声を荒げて言った。

亮平は、佐々木のあまりの動揺ぶりに驚いたが、言われたとおりにポケットからスマホを取り出し、電話をかけた。

2,3コールで彼女に繋がった。

「もしもし」と明るい声が聞こえてきた。

亮平は「ごめん、いきなり」と謝った。

「ううん。どうしたの?」

彼女が聞いてきた。亮平は佐々木の方を見る。

佐々木はゆっくりと頷いて合図した。

 「いや、特に用事はないんだけどさ、悠衣のおじいちゃん元気してる?」

唐突な質問に悠衣は困惑したのか、

「え?」

と思わず訊き返された。

亮平は慌てて、しどろもどろになりながらも「いや、特に深い意味はないんだけどさ、元気かなー、って思って」言うと、悠衣の返事を待った。

すると、彼女は答えた。

「どっちのおじいちゃんもピンピンしてるよ」

「そ、そうなんだ!何より何より!家族全員大丈夫なの?」

「うん、別に何も」

スピーカーでそれを聞いていた佐々木の表情は何か恐ろしいものを見たときのように凍り付いている。

「そっか!ごめん、急にこんなこと聞いちゃって。じゃあまたね」

彼女に理由を聞かれる間を与えずに、お礼を言って亮平は電話を切った。

そして、佐々木の方を困惑したように見つめる。

「どういうこと?」

佐々木は後ろにあったコンクリートの石畳に勢いよく座った。

「分からない。彼女が遊びに誘ったか誘ってないかは、あなたが時間をリスタートしたことによって変わるかもしれない。あなたの態度によって彼女の気分も変わるかもしれないしね。でも、少なくとも、あなたが時間を逆行したことと彼女のおじいさんの生死は無関係のはずよ」

亮平は、何かを言おうとしたが、何から訊けばいいのかわからない。

ただ、亮平も何かとんでもないことが起きているということだけは察していた。

「おじいさんの死因は病死って訊いた?」

「うん。確か心不全で倒れたって悠衣が言ってた」

佐々木は冷静な様子で言った。

「彼女のおじいさんは殺されたのかもしれない」

「殺された?」

亮平の眉間に皺が寄る。

「誰が?」

佐々木は首を横に振った。

「それは分からないけど、殺された可能性が高いのは確かよ。事故死や殺人なら、タイミングが少しズレることによって運命が変わるかもしれない。でも、病死なら、どれだけ時間を巻き戻したところで運命は変わらないはず」

亮平は、状況を整理しようとした。

 「本当なら、悠衣のおじいさんは昨日死んだってことだよな。だが、まだ生きている。でも、一日の誤差ならまだ変わるかもしれないんじゃないか?」

 「近いうちに心不全で倒れるかもしれないってこと?」

 亮平は頷いた。

 「そうだといいんだけど。っていうのも不謹慎な話ね。でも、今までの逆行でおじいちゃんはいつも同じタイミングで死んでいた。こんなことは初めて。それに、通常心不全で一日も変わるはずがない・・・・・・」

 「今までの逆行?」

 「いや、何もないわ」

 佐々木ははぐらかすと、「とにかく、偶然なのか、またはそうでないのか、調べる必要があるわね」

「つまりさ、もし偶然、死ぬタイミングがズレたのでないならば、悠衣のおじいさんがこの時間に生きてるってことは、おじいさんの病気は単なる寿命じゃなくて・・・」

「人為的な何かによるものね。」

そう言って、佐々木はうなだれた。亮平の顔も曇る。しばらく沈黙が流れた。

「もし、仮に殺されたのなら、この時間では犯人がおじいさんを殺さなかったことになる。

それは俺たちが時間を巻き戻したからってことになるよな」

佐々木は、うなだれていた顔を上げ、「おそらく」と頷いた。

亮平は思わず後ずさりする。

「私たちが過去に戻ったおかげで、彼女のおじいさんが死なずに済んだと考えることもできる。でも、その犯人になろうとした人は、私たちにとって重大な何かを握っている。事態は、我々が考えているよりもマズいのかもしれない」

亮平は、ごくりと唾を飲み込んだ。

「俺はどうすれば?」

「とりあえず、適当に理由をつけてデートはキャンセルして」

亮平は頷く。しかし、不安を隠せない。

彼女の祖父が死ななかったのはもしかしたら亮平たちのおかげかもしれない。

だが、裏を返せば・・・

佐々木は不安な表情をしている亮平を見て、立ち上がり、

「でも、私たちとその犯人が関係があるかは分からない。これはあくまでも仮説よ」

「その仮説が本当だったら?」

すると、佐々木は躊躇いながらも話した。

「清水寺の事件と彼女の死は結び付いているのかもしれない」

亮平は目がくらんだ。頭を押さえ、危うく倒れそうになった。

だが、佐々木は慌てて念を押した。

「あくまでも、仮説の場合の最悪の事態よ。そこまで気にする必要はないわ」

しかし、もちろん亮平の不安が消えることはない。佐々木もそれは分かっている。

亮平も、佐々木も不安の色を浮かべているのを気付いていた。

しかし、それは亮平とはまた違う不安であったのだ。亮平はそれには気づいていない。

「とりあえず、私は彼女の身辺について調べてみる」

佐々木はそう言うと、軽く何回か頷き、微笑した。

「大丈夫。何も問題ない」

だが、佐々木の目は明らかに暗かった。

亮平は、自転車を引いて家に戻った。

その足で重々しく階段を上り、自分の部屋に入ると、彼女に再び電話をかけた。今度はすぐ繋がった。

「もしもし?悠衣、さっきはごめん」

まずは謝った。

「いいよ!」

さっきのはどういう意味だったの、とは彼女は訊かない。

亮平がそのまま事情を話してくれると思ったのか、彼女はそのまま口を開かなかった。

電話越しに少しの沈黙が流れる。お互い、どちらかが話し始めるのを待っていた。

しかし、亮平は痺れを切らして言った。

「ユニバの件なんだけどさ」

「ん?」

彼女にとっては想像だにしない、意表を突かれた話だった。

だが亮平はそのまま続ける。

「用事が出来てさ。だからいけないんだ」

彼女は急な亮平の話に困惑しつつも言った。

「オッケー!じゃあ別の日にしよっか!いつにする?」

「ごめん。どの日もいけない」

亮平は申し訳なさそうに彼女に言った。電話越しに彼女の表情を見られないのが気がかりでならない。もしかしたら、彼女の事を傷つけてしまったかもしれない。

だが彼女は「わかった!じゃあまた今度あそぼ!」と明るい声で言った。

理由を訊かない彼女に亮平は心から感謝した。

しかし、彼女の本心に気付かないほど亮平は男として鈍感ではない。

が、かける言葉も見つからず、「ありがとう。じゃあ」と言って電話を切った。

亮平は、大きくため息をつくと、スマホをベッドに投げ、そのままベッドに仰向きに寝転がった。

そして、亮平の春休みは、何事もなく、あっという間に過ぎていった。





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