絶望
あの事件の後、亮平は警察の事情聴取を受けた。しかし、警察は、この途方もない事件の対応に追われていたので、亮平から目を離した隙に逃げ出した。
どこに行こうと言うわけでもない。まるで戦争でもあったかのような清水寺を抜け、二年坂を下りていく。周りは取材記者が列をなしていっぱいだった。
亮平は、ゆっくりと歩を進め、清水寺の参道を抜けた。そして、大通りに出て左に真っすぐ進むと、行きしなに彼女と歩いた大谷本廟が見える。
亮平はそれを見て、嗚咽が出そうになった。呼吸が荒くなり、親指を口の方まで持っていって思い切り歯で噛んだ。
そして、背を向けて走り出す。先ほどまで彼女が歩いた道を。
涙が自然と出てくる。しかし、それを気にせず、亮平はただただ走った。
全力で、全力で。
息が荒れ、意識を失いかけるほど疲れたが、どうでもいい。彼女は、それよりももっと苦しい痛みを味わったのだ。
しばらくして、亮平は塩小路橋に差し掛かった。この橋の下の川辺で、彼女と座っていた。亮平は、呼吸を整えながら、坂を下りていき、川辺の石畳に座った。
そして、ぼんやりと考える。もう、彼女はこの世にいないのだ。
胸が痛み、何とも虚しい。何時間か前にここに座っていた彼女は、いない。
亮平は立ちあがり、川の中へとどんどん入っていった。
水は亮平の胸の辺りまで来る。そして亮平は勢いよく川の中に顔をつけた。
そして、また顔を上げる。通りかかった人々が、不審そうに亮平の事を見ていた。
だが、そんな人々の視線はもう亮平の気にするところではなかった。
橋の向かいにある線路から、電車の音が聞こえ、亮平の寂しさを一層掻き立てた。
彼女はもういない。その事実に対し今、亮平が出来たことというのは、現実から逃れることだけだった。
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