手がかり

それから3日、松木の手掛かりが見つけられないまま時が過ぎていった。

ウィルが仮説を立てたが、仮説が本当だとしても、動機については全く分からない。

結局のところ、松木がハワイに行ってからの消息が全くと言っていいほど掴めないのだ。

調べるにしても、情報源がない。だが、哲夫の執念が凄かった。

連日、ワイキキの路上を通りかける人々に松木の写真を見せ、聞き込みを行った。

だが、当然、手掛かりを見つけることはできず、無駄足に終わった。

そうして悲観に暮れていた頃、事態は急転直下を見せる。

朝、エミリーがいつものように家の郵便受けを開けると、白い封筒に包まれた1通の手紙が入っていたのだ。

宛名が「佐藤哲夫」だったので、警戒しながらも二人は慎重に封を切る。

すると、中から羊皮紙が出てきた。そこには、英語で手書きの文章が書かれている。

ブロック体で書かれていたので読みやすかった。


{親愛なるサトウテツオ様。


私は、あなたの娘さんを殺した男です。松木良純と人々に呼ばれていましたが、これは

私の本名ではありません。

また、あなたが、私を追ってハワイに来たと聞いて、しばらくあなたとその友人のことを見張っておりました。私は、見張っていくうちに、あなたの私を捕まえようという執念に心を打たれ、また、不憫にも思えてきたのです。

ですので、私はあなたが私に会えるチャンスを与えたいと思います。

IOLANI PALACE 8.7 13:00]


二人は手紙を読み終えた。

意外な展開に二人は肩がすくむ思いがしたが、哲夫は松木への手掛かりを掴めたとあってどこか嬉しそうな表情を浮かべていた。

その哲夫とは対照的にウィルの表情は暗い。

しかし哲夫もその一方で怒りもこみあげてきている。

「何なんだ、こいつは」

「完全にオレ達のことを挑発してやがるな。それに、まさか見張られてたとは思いもしなかった」

「だが、これで奴らの狙いは俺だということが分かったんじゃないか?」

「ああ。ふざけた手紙だが、これを逆に生かせばいい。だが、果たして行くべきなのかどうか。どうする?」

「どうするって?」

哲夫は手紙に目を向けながら怪訝そうに訊く。

「会うか会わないかだよ」

「もちろん会うさ」

哲夫はウィルに視線を移して言った。

「ワナかもしれないんだぞ。というか、十中八九、ワナに違いない」

そう言ってウィルは、哲夫によく考えるように促したが哲夫の中では腹は決まっている。

「ならそれを利用して奴らを捕まえればいい。さっき、ウィルが言った通り、これを生かすんだよ」

そう言うと、なおもウィルは哲夫に何かを言おうとしたが、ウィルを見つめる哲夫の真っすぐな瞳に根負けし、諦めたように言った。

「分かったよ。なら、マツキを捕まえるためにオレも最善を尽くそう」

「頼んだ」

 するとウィルは哲夫に提案した。

「だが、流石にオレ達二人で奴らを捕まえられるか心許ない。もしかしたら、マツキではない別の仲間が来るかもしれない。そうなれば、オレ達はまんまと嵌められ、殺される

可能性もある」

「つまり仲間を集めるということか?」

「そうだ」

ウィルは小さく頷いた。

「もちろんオレが信用できる相手をつける。最も、そいつらには、事情を説明しないといけないがな」

哲夫は俯いた。仲間を募るということは、その分、リスクも高まるからだ。正直、ウィル以外はだれも信用できなかった。

だが、ウィルが信用している者たちならば認めるほかない。

「いいだろう。よろしく頼む」

それを聞くとウィルは軽く笑って哲夫を安心させるように言った。

「後悔はさせない。とりあえず、3,4人に声をかけてみる」

そして、ウィルはノートを持ってリビングを出て行った。電話をかけるのだろう。



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