第19話 仲間殺しの真相
俺は彼女に近づき、隣に座る。
「ようやく見つけたぞ」
そう声をかけるもデニーズはこちらを向かず、ただひたすらに俯いていた。
なにを考えているのか横顔に表情は無い。
やがてデニーズの口がかすかにゆっくりと開く。
「……どうして?」
「うん?」
「どうして捜しにきたの?」
聞かれて俺は微笑む。
「仲間だからだよ。帰ってこなかったら心配して捜すのは当然だろ」
「仲間って……。イーアルから聞いたんでしょ? わたしがなにをしたか。わたしは仲間の騎士を殺したんだよ。そんな人間はもう傭兵団の仲間じゃないでしょ」
「いや、仲間だ。俺はお前が悪意を持ってその騎士を殺したんじゃないと信じてる。事情があったんだろう」
「なんで……そう思うの? わたしが人殺しを楽しむ殺人狂だって知ってるでしょ」
「知ってるよ。けど、お前は善人を殺したりしない。それも知ってる」
「どうしてそんな……信用できるの? わたしたち会ってからそんなに経ってないのに」
「俺は傭兵団の団長だ。仲間の部下を信じられないなんて最低だろ」
「ガスト……」
「なにがあったか話してみろ。お前の名誉を回復する手助けをしてやるから」
「うん……」
デニーズは半年前に仲間の騎士を殺した理由をポツポツと語り始める。それは実に真っ当な理由で、デニーズが攻められることはなかった。
「その騎士がファウド帝国に通じていて、情報を流していたのか」
「そう。だから斬り殺したの」
「今さら言ってもしかたないけど、殺す前になんで上役に相談をしなかったんだ? 逮捕して裁判にかければこんなことにはならなかったろうに」
「あの騎士は騎士団内でもすごく信頼されてて、次期騎士団長候補って言われてたの。だけどわたしはちょっと変人だから」
「ちょっと、ね」
はは……と俺は苦笑う。
「信頼されてないから、上役に相談しても無駄って思ったのか」
デニーズは頷く。
「いっぱい弁解はしたけど、ファウドの密偵に国の情報を流しているところに偶然、居合わせて話を聞いただけだったから証拠もなかったし、わたしあんま頭良くないから、あの騎士がファウド帝国と通じてたってこともうまく伝えられなかったの」
「それで騎士団を除名されて、家も追い出されてひとり傭兵をやっていたわけか」
「うん。パパに言われた通り国を出ようとも思ってたんだけど、やっぱり生まれ故郷を出て行くのは寂しいし、いつかはわかってくれると思ってたから」
「そうか」
辛そうに言葉を吐くデニーズの頭を俺は撫でてやる。
「とりあえず、俺だけはお前を信用する。家族との仲も、そのうちなんとかしてやるさ」
「うん。ありがとう。ガスト」
表情は無いが、声音の感じからデニーズの嬉しそうな感情は伝わってきた。
「さて、これでお前を連れ帰って一件落着としたいところなんだが、実は厄介なことをもうひとつ解決しなきゃいけないんだ」
「えっ? それって、なに?」
「実はな」
前王妃殺害があったこと。その容疑者にデニーズがされていることを彼女に話す。イーアルの話は傷つけるかもと思い、言わなかった。
「それは大変」
「もっと焦れ。捕まったら死刑だぞ」
「うん。だけど、どうしよう?」
「真犯人を捜さないとな」
「うん。……ガストってわたしのこと全然、疑わないんだね」
「当たり前だ」
「う、うん」
なぜかデニーズは俯き、もじもじしだす。
「お前が前王妃の邸宅に招かれたってことになってるみたいだけど、どうなんだ? 昨夜、前王妃の邸宅には行ったのか?」
「えっと、行ったよ。道を歩いてたら、隣に馬車が止まってね、話がしたいから来てほしいって前王妃様に誘われて馬車に乗って行ったの」
「その話って?」
「国王様を殺してほしいって」
なるほど。デニーズの腕を知っていて、暗殺を頼んだか。誰に殺されたかは知らないが、まさか自分が暗殺されるとは思ってもみなかったろう。
「お前はなんて答えたんだ」
「嫌だって言って帰った」
「殺されたのはそのあとか……」
俺は立ち上がる。
「お前はしばらくここで身を隠せ。そのあいだに俺が真犯人を見つける」
「ここから出ちゃダメなの?」
「国の連中がお前を探し回ってるんだ。少なくとも町には戻れない」
「でも一日にひとりは殺さないと落ち着かないよ」
「悪いがしばらく我慢してくれ。なるべく早くなんとかするから」
「わかった」
「ん、うん」
いやに素直だな。前は震えが止まらなくなるとか言って騒いでたのに。
「わたしもガストを信用するから」
「ああ」
不気味でない普通の女の子らしい笑顔を見せたような……。
一瞬だけデニーズの顔にそんな表情が見れた気がしつつ歩き出し、俺は洞窟を出た。
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