第10話 新たな団員加入?
「こ、これは?」
「金貨ですわ。息子の面倒を見てくださるならぜんぶ差し上げます」
中を開くと、キラキラ輝く黄金がわんさか。拠点を買ってもだいぶ余る金額だ。
俺はゴクリと唾を飲み込み、夫人を見上げる。
「いかがいたしますか?」
「お引き受けいたします。いやもうぜひ」
考えを一変させ、二つ返事でOKする。
拠点の購入資金プラス今後の活動資金ゲットのためなら、デブのひとりやふたり受け入れるのなんて安いものであろう。
「それはよかった。それじゃあステイキちゃん、これからお世話になるガスト様にちゃんとごあいさつをなさい」
「うう……ママン、本気でござるか? 拙者、傭兵になるなんて嫌でござる。こんなことをするなんて、ママンは拙者を愛していないでござるか?」
「愛してるわ。息子を愛さない母親がどこにいますか。愛しているからこそ、ステイキちゃんにはウェルダン家の立派な跡継ぎになってもらいたいのです」
「でも拙者、愛するママンと離れるのは寂しいでござる、ママンも寂しいでござろう?」
「ママンは寂しくないわ。ステイキちゃんの代わりをいっぱい預かったから」
「は? ママン、それはどういう……」
「こういうことです。みんな、いらっしゃい」
夫人が声をかける。すると、隣の部屋からたくさんの子供が一斉に駆け込んできた。皆、夫人に寄り添い、嬉しそうに笑っている。
「この子供たちは……」
服は綺麗なものを着ているが、痩せて顔色が悪いこの子らは確か……。
「グリーンズの廃墟に監禁されていた子供たちだね」
トマトをかじりながらデニーズが言う。
「そうだ。あのときの子供らだ。でもなんでここに……」
「行き場の無い子供をお役所でたくさん保護して、どうしたらいいか困っていると主人から聞きまして、だったらうちで預かりましょうと提案したところこのようになりまして」
「ママン! 拙者、そんなの聞いてないでござるよ!」
「あなたは昨日、いなかったでしょう。誘拐をされてて」
「う、うう……さいでござる」
「ママンは寂しくないから安心なさい。あなたもママンから離れてそろそろ大人になるべきです。いつまでもママンママンでは男として格好悪いですよ」
「でもママン! 傭兵になったら拙者、死ぬかもしれないでござるよ! 盗賊とか敵国の兵士とかに殺されるでござる! ママンはそれでもいいでござるか!」
「結構です」
「ひょえー!」
ステイキは驚愕の声を上げる。
「なにもせずただ老いて家の恥として死ぬよりも、盗賊相手でもなんでも、戦って死ぬほうがよっぽど格好良く、後世にも誇れるでしょう。ですから安心して死になさい。戦って死んだのなら、ママンはステイキちゃんを誇りに思いますわよ」
「そ、そんな……ママン」
「せめて脂肪の筋肉化ができるまで帰ってきてはなりません。いいですね」
「あうう……」
シクシク泣く二十六歳の男。
今後、彼をどう扱ったらいいかを考えつつ夫人に別れのあいさつをし、俺は金貨の入った袋を背負ってウェルダンの屋敷を出た。
門の外に出てもステイキはまだ泣いていた。
「いいかげん泣き止めよ」
「だって……だって拙者。これからどうしたらいいか……」
「とりあえず飯と寝床くらいは用意してやるよ」
「食事は最高級の牛肉で、寝床は大きなふかふかのベッドじゃないと嫌でござるよ」
「贅沢言うな。飯は安い鳥肉、寝床は安い宿で十分だろ」
「ママーン! 拙者、死んでしまうでござるーっ!」
屋敷に向かって叫ぶステイキ。
俺は今後を憂いて嘆息した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます