第11話 ステイキの行方
宿屋に着いた俺は、部屋から出たくないと言うステイキを置いてデニーズと共にいつもの酒場へと夕食を食べに出掛けた。
大金が入ったから豪勢に……とはいかず、俺はいつも通りの安い肉とスープを注文する。
宿に置いてきたあの金は傭兵団の活動資金だ。なるべく使いたくはない。
デニーズはトマトと大量の唐辛子を使ったパスタを食べていた。
「それ辛くないの?」
「赤いもん食べてると落ち着くから」
彼女にとって赤い食べ物はタバコみたいなものなんだろうか。
「それよりさ、あんなデブの面倒、本当にみるの?」
「引き受けちゃったんだし、しょうがないだろ」
「いくらか金を渡して追い出しちゃえばいいじゃん。あんなのいたってなんの役にも立たないだろうし、邪魔なだけだよ。夫人には逃げたって言えばいいし」
「そんな無責任なことはできないよ。預かるって言った以上、ちゃんと面倒見ないと」
「そう。まあ、団長がそう言うなら別にいいけど」
タバスコをトバドバかけ、デニーズはパスタをほうばる。
「本当に辛くないの? それ?」
「あひゃいほんひゃへるとほひふくはら……」
「舌に大ダメージ食らってるよ! 本当に大丈夫なの!?」
「ひあはの……らいひょう……はふはふはひーっ! はらいはらい!」
「やっぱ辛いんだ! ほら水!」
水をカブのみしたデニーズは、舌を出してひーひー言っていた。
これはまったくアホの子である……。
それから宿に戻ると、ステイキの姿は部屋になかった。
夫人からもらった金貨は少し減っており、彼が持って行ったことは想像に難くない。
「向こうから出て行ってくれるなんて、手間が省けたね」
「そんな冗談を言ってる場合か。探しに行かないと」
「どうして? 少しくらいの金貨ならあげたっていいじゃん」
「金貨じゃなくて、ステイキだよ。この町にはギャングだっているんだ。武器も持たないで夜に出歩いてたら襲われるかもしれないだろ」
「いいじゃない。夫人も戦って死ねって言ってたし」
「戦いにもならないよ。嬲り殺されるだけだ。それに、自分の子が死んでいいと本気で思う親なんていない。離れてたって元気に生きていてほしいと思っているはずだ」
「そうかな」
「そうだよ。俺は探しに行く。君は先に休め」
「あ……」
なにか言いかけたデニーズを残し、俺は急いで部屋を出た。
一体、どこへ行ったのか?
道行く人や巡回中の兵士などに訊ねて、ステイキの行方を追う。幸いにして、巨人族で身体の大きい彼は目立つので、目撃情報は多かった。
聞いた情報をもとに彼の足跡を追うと、やがてグリーンズが根城にしていた廃墟に辿り着く。どうやら誰もいなくなったのをいいことに、ここへ隠れたようだ。
……しかし本当にグリーンズは逃げた一人を残して壊滅したのか?
その確証はなかった。
「人の気配がする……」
俺が扉に近づくと、
「ぎゃーん! 助けてくれでござるーっ!」
悲鳴が聞こえた。ステイキのものだ。
俺は急いで中へ入り、悲鳴の聞こえる部屋を見つけて駆け込む。
そこに見えたのは、頭を抱えて蹲るステイキと、それを囲む武器を持った十数人の集団であった。
「あん? なんだてめえは?」
男たちが一斉にこちらを向く。
その中には、昨日ここから逃げた男の姿もあった。
「あ、そ、そいつだ! ここの奴らをやった女の仲間だよ!」
「こいつが? へえ……」
男たちが俺の前へ集まってくる。
「き、気をつけろ。そいつは用心棒の先生をあっさり倒したほどの奴だ」
「ふん、それでもデニーズほどじゃないだろ。これだけ人数がいればびびるこたねえ」
「お前ら、グリーンズの残りか?」
「残りじゃねぇ。ここにいた奴らは単なる留守番だよ。外に出て狩りをする俺らが、グリーンズの主力だぜ」
「子供を浚うだけでなにが主力だ。クズどもめ」
「吠えろよ。手足を斬り落として、そのクズに泣いて許しを請わせてやるぜぇ!」
男たちが襲い掛かってくる。俺は腰に差している刀の柄を握り、鞘ごと引き抜いた。
……そして三十秒後。
「すいませんごめんなさいもう許してください……」
俺の目下には這いつくばって許しを請う、グリーンズの男達の姿があった。
「失せろ。次に会ったら手足の骨を砕いてやるからな」
「ひ、ひえぇ! もう会いませんーっ!」
男たちが慌てて部屋から出て行く。
残ったのは俺と、今だ頭を抱えて蹲っているステイキだけであった。
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