第40話 潜入、敵地
ガストがバーガング傭兵団に拘束されてから三日目の朝。デニーズとステイキは馬を急がせてようやくホルコヒへ到着していた。
しかしまだ町へは入らない。まずは近隣にある丘へ上り、高い位置から町の様子を観察することにした。
「今さら言うことでもないでござるけど、ゼリア殿は捜して連れてくるべきだったでござるよ。丞山殿はともかく、ゼリア殿はかなりの戦力でござったし」
「捜す時間はなかったし、あんな売女なんかと組むのは絶対に嫌」
「とほほでござる……」
ため息を吐くステイキを背後に、デニーズは遠眼鏡でレンズの先にある光景を覗く。
武装した連中が大量に町を歩いている。あれが敵の傭兵団だろう。町人らしき人間はほとんど見ない。民家の扉は完全に締め切られ、商店だけがいくつか営業している状態だ。
「ホルコヒの兵隊を倒して町を占拠したのはファウド最強、いや、それどころか世界最強の傭兵団とも言われるバーガング傭兵団でござる。団員はおよそ三千ほどでござるが、ひとりひとりが精強な上、恐ろしく統率されているので、その戦力は一万の兵に匹敵すると言われているでござる。ここにいた五千で町を守りきれなかったのは当然でござるよ」
情報を語るステイキの声を耳にしながら、デニーズは遠眼鏡で町を見回す。
ガストはどこに捕らわれているのか? それらしき場所を探した。
「ガストがどこに捕らわれているかわかる?」
「断定はできないでござるが、捕らえた人間を投獄しておくなら町の中心にある王国軍の基地でござろう。あそこには地下牢があったはずでござるから」
「ならすぐにそこへ行こう」
デニーズは乱暴に遠眼鏡を畳む。
ガストが捕らわれて今日で三日目だ。いつ殺されてもおかしくないどころか、すでに殺されているかもしれないという焦りが、デニーズをはやらせた。
「まあ落ち着くでござる。そんな、剣を腰に差した鎧姿のまま町へ降りれば、敵の傭兵連中が警戒して襲ってくるかもしれんでござる。そうなったら連中をいちいち相手にしながら進むことになって、基地へ辿り着くまで時間をかけてしまうでござるよ」
「ならどうするの?」
「鎧を隠すでござる」
ステイキは馬に乗せている鞄を降ろす。
その中からは茶色の大きな布と、サイズの大きい旅人風の衣服が出てきた。ステイキはその服を着て、布はこっちに渡してくる。
「この布を頭から被るでござる」
言われて布を頭から被る。
なるほど。これなら鎧は見えないが……。
「顔まで隠したら怪しくない?」
「敵はガスト殿が捕まっている情報をデニーズ殿に知らせてここへ呼ぼうとしたでござる。つまり顔見知りの可能性があるゆえ、顔は隠したほうがいいでござるよ」
「顔見知り……」
バーガング傭兵団に知ってる奴なんかいたか?
デニーズに覚えはなかった。
「これで準備はOKでござる。さあ行くでござるよ」
「……なんか、ずいぶん肝が据わったね。あんなに怖がってたのに」
「今だって怖いでござるし、逃げたいでござる。けど、ここで逃げたら拙者はママンの恥になってしまうでござる。それは嫌でござるからな」
「ふーん」
母親の言葉だけでここまで変われるとは。
さすがマザコンだと、デニーズは思う。
「それに拙者だってガスト殿を助けたいでござるしな。思慮の浅いデニーズ殿のうしろでぶるぶる震えてただついて行くより、肝を据えて知恵でサポートしたほうがガスト殿救出の可能性が高まると思ったでござるよ」
「なるほどね。あれ? それわたしのこと馬鹿って言ってない?」
「言ってないでござるよ。思慮が浅いと言っただけでござる」
「あ、そっか。そうなのかな? まあいいか。行くよ」
デニーズは気を引き締め、町へ急いだ。
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