第13話 拠点の購入

 ウェルダン夫人からもらった大量の金貨でさっそく俺は傭兵団の拠点を購入した。


 五十人は不自由なく寝泊りできる石造りの頑丈な建物だ。

 かつては城に勤める騎士団の宿舎だったそうだが、新たな宿舎が別の場所に新築され、ここは売りに出したとか。


 場所は城門に近い一等地。

 国王から呼び出されれば、いち早く参じることができる。


 俺は二人の団員を連れ、拠点内を見て回った。


 まったく立派だ。中は広いし、庭も広い。団員が増えたとき外で朝礼とか調練することもできるだろう。

 しかしデニーズが入り、ステイキが入ってから幾日か経ったが、新規入団の応募は無い。いまだにたった三人の傭兵団であり、三人にここは広すぎた。


「わたしの部屋どこ? むしゃむしゃ。どこでもいい? ぽたぽたびちゃびちゃ」

「買ったばかりなんだから、トマトの汁とか実をたらして汚さないで!」

「わかった。ぼたびちゃぶしゃ。あ、わたしの部屋ここでいいや。ぶぢゃびしゃ」

「わかってない!」


 もうしょーがねーなこの子は! ……まあいい。あんまり言うと真顔で睨んできて怖いし、あとで掃除しとけばいいや。


「拙者は一番、広い部屋がいいでござる。なにぶん拙者、育ちが良いゆえ、部屋が狭いと寝つきが悪いんでござる。できればママンの子守唄も所望したいでござるな」


「うん、そうだな。じゃあお前は庭で寝ろ」

「拙者に辛辣すぎない!? くそうっ、拙者、キレやすい性格でござるからね! 邪険にするとなにをするかわからないでござるよ!」

「わかったわかった、好きにしなよ。うるさいな」

「ふんっ、わかればいいでござる」


 まったく、面倒な奴ばっかりだ。そろそろ普通の団員がほしい。


 全体を見て回ったあと、俺たちは拠点の中でもっとも広いスペースである食堂へ来て、各々、そこに置いてあるイスに座ってしばらくくつろいだ。


「そういえばガスト殿、国に傭兵団結成の届けは出したでござるか?」

「いや、出してないけど、そんなのあるのか?」

「うむ。拠点を持たない数人の傭兵団なら必要ないでござるが、三十人以上が寝泊りできる拠点を持つか、十人以上の団員が所属している傭兵団は国へ届けを出す必要がござる」

「ふーん、それって国家公認傭兵団のことか?」

「それは実績のある傭兵団でござる。届けは単に、武装集団の存在を国が把握したいだけで、国家公認とは違うのでござる」

「なんだそうなのか」

「届けは早く出したほうがいいでござるよ。届けを出さない傭兵団はギャング団とみなされてしまうこともあるでござるからね」

「それは困るな。じゃあ今から行ってくるか」


 俺はイスから立ち上がり、二人を交互に見る。


「どっちか一緒に来てくれないか? 城に行ったことがないから案内してほしいんだけど」

「せ、拙者はダメでござる。城に行ったらパパンと鉢合わせて、先日のことを叱られるかもしれないでござるし」

「そうか。じゃあデニーズは?」

「わ、わたしも城はちょっと……」

「ダメなのか?」


 コクリと頷く。

 いつも無表情かもしくは不気味なゲラゲラ笑顔のデニーズが、珍しく表情を暗くかげらせていた。


 なにか城に嫌な思い出でもあるのだろうか?

 

 まあそれがなんにせよ無理強いする気はないので、しかたなく一人で行くことにした。

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