第17話 殺人事件の犯人はデニーズ?

 二時間ほど捜したがデニーズは見つからない。俺はずぶ濡れになりながら、夜闇のなかデニーズの姿を捜した。


「どこに行ったんだあいつ……うん? なんだ?」


 急いでいる様子の兵士数人が目の前を通り過ぎて行く。


 こんな夜中になにかあったのか?


 気になるが、今はやるべきことがあるので兵隊のあとは追わなかった。


「ひどい嵐だな」


 どしゃ降りだ。目も開けていられない。


 走り出した俺は軒先を見つけて飛び込み、少しのあいだそこで雨宿りすることにした。


「雨足が弱まってくれればいいんだけど」


 持っていた手ぬぐいで顔を拭きながら、俺はどんよりと真っ暗な空を見上げた。

 その前を、白銀の立派な鎧の上に雨避けのマントを被った集団が通る。騎士団だ。やはりなにかあったのだろう。


「イーアルさん」


 見知った顔を見つけた俺は声をかける。


「えっ? ああ、あなたは昼間の」

「ガストです。なにかあったんですか?」


 集団を離れてこちらへ来たイーアルに訊ねる。


「ええ、ちょっと……」


 言いづらそうにイーアルは口ごもり、俯く。


「姉さんは帰ってきましたか?」

「いや、あれから戻って来なくて、いま捜しているところなんです」

「帰ってきていない……。もしや」

「行き先に当てでも?」

「いえ……それじゃあわたしは急ぎますので」


 背を向けてイーアルは集団に戻る。

 その直後、嵐は一気に収まり、空に輝く星まで綺麗に見えるほど雲は消え去った。俺は軒先から出て、デニーズの捜索を再開した。


 ……結局、日が昇ってもデニーズは見つからず、俺は拠点へと戻る。やはりデニーズは戻ってきていないようで、食堂にも部屋にも姿はなかった。


「ほんと、どこ行ったんだあいつは……」


 一眠りしたらまた捜しに行くか。


 そう決めて俺が自室に向かおうとしたとき、


「あ、ガ、ガスト殿! 大変でござるよ!」


 大きな身体を揺らしてステイキがこちらへ駆けてくる。


「どうしたんだ? そんな血相変えて」

「ぜえはあ……た、大変なんでござる」

「それはわかったよ。なにが大変なんだ?」

 

息切れして四つん這いになるステイキを落ち着かせ、俺はもう一度、問う。


「せ、拙者、情報収集のため、今朝がた馴染みの情報屋から最新の情報を買ったんでござるが、どうやら昨夜に前王様の正妻様が自宅で何者かに殺されたようなのでござる!」

「そうなのか」


 昨夜に兵士や騎士団を見かけた理由はこれか。


「そりゃまあ大変だけど、俺らにはあまり関係ないことじゃないか。それより早くデニーズを見つけないと……」

「この殺人事件の容疑者にデニーズ殿がされているんでござる!」

「な、なんだって!? どういうことだ!?」


 俺はステイキの胸ぐらを掴んで問い詰める。


「ぜ、前王妃様の邸宅に昨夜、白い鎧を着た金髪の女が来客していたとメイドが証言したそうでござる。デニーズ殿は昨夜のアリバイがないゆえ、騎士団が疑っているとか……」

「そんな程度の理由でなんてっ!」

「トラン様を担ぐ一派は、邪魔な前王妃様を始末するために国王様が刺客を送ったと疑っているそうでござる。このままでは国内で争いが起きるかもしれないでござるよ」

「そんなことはどうだっていい! デニーズの疑いを晴らさなきゃ! 俺は騎士団に行って話を聞いてくるから、引き続き留守番を頼む!」

「ちょっ! 一晩中、デニーズ殿を捜し回って一睡もしていないのでござろう!? 少し休んでからのほうがいいでござるよ!」

「仲間が王族殺人の容疑で疑われてるんだ! 下手をすれば死刑になるんだぞ! おとなしく寝てなんかいられるかよ!」


 そう言い放ち、俺は大急ぎで城へ走った。

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