第25話 団員を増やしたい
俺がこの町に来てからおよそ一ヶ月は経ったか。予定では五十人ほどの団員を抱えたそこそこの傭兵団になっているはずだったんだが……。
「今日は盗賊をいっぱい殺せてスッキリしたねー。ビチャブシュ」
「拙者は死ぬかと思ったでござるよ。ああもう嫌だ。ママンの膝枕が恋しいでござる」
今だに団員はたった二人。しかも一人はトマトの汁を飛ばす殺人狂で、もう一人はマザコンのデブだ。せめてまともな団員がほしい。例えば戦いの経験が豊富なベテラン傭兵とか。
「ガスト、お腹減った」
食堂のイスにちょこんと座っているデニーズが空腹を訴えてくる。
「今、トマト食べてるでしょ」
「食べてない、かじってるだけ」
「ああ、そうだったね。でもまだ夕飯には早いからもう少し我慢しなさい」
そう言うとデニーズはシュンとうな垂れ、トマトをかじった。
「麗しいご婦人に我慢を強いるとは貴様、男の風上にも置けん愚か者だな」
「そりゃ悪かったね……って、なんでお前がいるんだよ!」
デニーズの隣にはなぜか丞山が座っていた。
グリーンズの件で逮捕されたと思っていたのに、なぜここにいるのか?
「俺がどこにいようと勝手だろう」
「ここは俺が買った拠点でお前は部外者だろ! てか逮捕されたんじゃねーのか!?」
「俺様はイケメンだから逮捕されないのだ」
「わけわからん。どうせ、とっ捕まる前に目を覚まして、あの廃墟から逃げ出したんだろ。それよりなんでここにいるんだよ。早く出て行けよ」
しかし丞山は出て行こうとしない。むしろ偉そうな態度でイスにふんぞり返っている始末だ。
「ふっ、団員の少ない傭兵団だからと聞いて、助っ人に来てやったのだぞ。感謝しろ」
「本当は?」
「女に騙されて全財産を盗られて行き場がないからここに来たんだって、なにを言わせるんだ! また恥をかかせやがって! それより飯の用意をしろ! 腹が減ったぞ!」
「なんで俺がお前を食わせなきゃなんねんだよ! 出てけこの甲斐性なしの女好きが!」
「甲斐性なしとはなんだ! それに男はみんな女が好きなんだよ! 女好きでなにが悪い! この粗チン野郎が!」
「誰が粗チンだ! このヤリチンノッポ!」
お互いに襟首をつかんで取っ組み合う。
こんな奴いらん。女性問題とか傭兵団に持ってこられたら迷惑だし。
「ああもういい! お前はあとだ! 今日はみんなに話すことがあるから」
俺は丞山の襟首を手放し、手近なイスに座る。
「知ってると思うが、このレスティアント王国と隣国のファウド帝国の戦争が近いと言われている。戦争は傭兵団が名を上げる絶好のチャンスだ。そのため、わがスカイアーク傭兵団ももちろん活躍したいところだが、いかんせん人数不足で目立った戦果は難しい」
「ガスト」
「はい。なにかなデニーズ」
「お腹減った」
「……あとで食べに連れて行くから待っててね」
「ガスト、俺様も腹が減ってるんだぞ。早く飯に連れて行け」
「あとで絞め殺してやるから待ってろよ」
俺は咳払いをして、話を続ける。
「団員を集めなければいけないわけだが、なにか良い案はないか? 誰か知り合いを連れて来たりとかさ」
「生憎、拙者の知り合いには傭兵をやりたがる人間はいないでござるな」
「そうか。デニーズは?」
「わたしは友達いない」
「あ、うん。そうなんだ。なんかごめん」
聞いちゃいけないことを聞いてしまって謝るも、デニーズは気にしてない様子だった。
「そんなに団員を増やしたいの? わたしは今のままでいいと思うけど」
「俺を含めても三人だぞ。いくらなんでも少なすぎるだろ」
「そっか。うーん……じゃあ女は入れちゃダメね」
「どうして?」
「どうしても。これは副団長命令だよ」
「俺は団長なんだが……」
なんで女はダメなんだろ? 女嫌いなのかな。
「ガスト殿は鈍いでござるな。デニーズ殿は……」
「それ以上、言ったら殺す」
「……あい。拙者、黙るでござる」
「?」
結局この日はこれで話は終わり、団員を増やす案は出ずにみんなで飯を食いに行った。
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