第30話 新たに仲間が増えたけど……
動けなくなっていたステイキを丞山とゼリアに運ばせ、気を失っているデニーズを俺が背負って行こうと思ったが……。
「こいつおもっ!」
着ている鎧がむちゃくちゃ重い。これでは背負えないので足を持って引きずって行き、時間をかけてようやくと拠点に戻ってくる。
デニーズは顔に痣があるだけの軽傷だ。自室のベッドに寝かせたのでじきに目覚めるだろう。ステイキも同様である。
……しかし疲れた。
人心地ついた俺は、食堂のイスにどっかりと座っていた。
「おいガスト。ゼリア様はどこに行った?」
「うん? そこにいるだろう」
パンを両手で持って食べている幼女を指差す。
「ふざけるな。あのちんちくりんのどこがゼリア様だ。全然違う」
「うんまあ……そうだな」
なぜかは知らないが、ゼリアの外見は初めて会ったときより二十歳は若返っていた。丞山が違うと憤るのもわからなくはない。
「ゼリア様はどこだーっ! 俺のエンジェルーっ!」
「サキュバスだよ」
うるさいヤリチン男は放っておき、俺は天井を見上げてボーっとする。その顔をデニーズが上から覗いた。
「あ、気がついたのか。身体のほうは大丈夫か?」
「大丈夫。それよりもあれなに?」
あれと言ってデニーズが睨んだのは、パンを頬張るゼリアである。
「さっきのサキュバスだよ」
「それはわかる。なんでここにいるの?」
「あ、わかるんだ。鋭いね」
「そんなことより、なんであいつがここにいるのか教えて」
「あ、いや、いろいろあって連れてくることになっちゃって……」
「追い出して」
「そうするわけにもいかなくてだな……」
「追い出して」
「だから……」
「うるさいぞ小娘。なにを騒いでおる」
こっちへ来たゼリアが俺の隣に立ってデニーズを見上げる。二人のあいだに火花が散っているのが見えたような気がした。
「出て行け淫売」
「人のことをいちいち売女だとか淫売だと罵りおって。わしは金などとっとらんぞ。ただで男に極楽を味合わせてやる天使のような女じゃ」
「黙れ出て行け。スケベ魔人の売女チビ」
「ほう。またわしに痛めつけられたいようじゃなぁ!」
拳を握り込んだゼリアがデニーズに突進していく。が、
「このこのこのこのこのっ!」
頭を押さえつけられ、腕を振り回すだけでデニーズには当たらない。あの地下で見せた強さが嘘のように、今は子供みたいに翻弄されていた。
「はあはあ……。疲れた……」
「なんか君、さっきより弱くなってない? かなり」
「う、うむ。そなたからたくさん精気をもらって若返ったのはいいが、若くなり過ぎて戦闘能力が落ちてしまったようじゃ。童の姿では本気が出せん」
そういうもんなのか。事実、さっきより弱いのでそうなのだろう。
デニーズはゼリアの頭から手を離し、なぜか俺を睨む。
「こいつにたくさん精気をあげたってどういうこと?」
「ど、どういうことって……そういうことだよ。わかるだろ」
「浮気者」
「浮気者って……あイタ。な、なぜ俺の頭を殴る?」
「この浮気者っ!」
「ぐえー苦しい!」
むっちゃ首を絞められる。
なんで俺がこんな目に……。
「こら! わしの男になんてことをするのじゃ!」
「お前の男じゃない! 出て行けこの淫売! 死ね!」
デニーズは大きな声を上げてゼリアを持ち上げ、食堂の端まで投げ飛ばす。
なんだかよくわからないがかなりご立腹だ。
とにもかくにも、サキュバス討伐の仕事は終わった。
結果的には解決したが、討伐はできておらず、これでは傭兵団の宣伝にはならないので団員は増えないだろう。精力でサキュバスを懐柔したなどと喧伝したところで俺の絶倫が有名になるだけである。
結局、苦労の末、スケベ魔人に付き纏われることになっただけで望みのまともな団員を入れることは叶わず仕舞い。俺はデニーズに首を絞められながら、仕事の結果をイーアルになんて伝えたらいいか考えていた。
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