第4話 最初の団員が怖い
関わっちゃダメなタイプの人だこれ。絶対に振り返らないぞ。無視するんだ。
「わたし、人殺し大好きなの」
「ひえ……」
声が近くなり、視線だけ横に向けると、透き通るように肌の白い女の顔があった。
端正で育ちの良さそうな顔立ちだ。
それゆえか、先ほどの発言が一層に怖く感じた。
「人を殺すとね、ものすごい興奮するの。快楽を感じちゃうの」
なにこの人、シリアルキラーかなにか? 俺、狙われちゃってるの?
早くどっか行ってくんないかな。
俺は目線を女から遠ざける。
「あのーえっと……その人だよ」
サラダが俺の横を指差す。
「その人って?」
「あなたの出した募集を見てたのがその人なの」
俺は完全に横を向いて女の顔を見る。
女は獲物でも見つけたようにニヤッと笑った。
怖い怖い怖い。これもう殺人鬼の顔じゃん。やべーよやべーよ……。
「おいあれ、デニーズじゃねぇのか?」
「デニーズって『血塗れのスマイリーデニーズ』か? まじかよあの女が……」
騒がしく飲み食いしていた客らがおとなしくなり、ひそひそ静かにこの女を見て言っている。
なにこの殺人鬼。有名人なの? てか血塗れって、あだ名が物騒すぎませんかね。
「戦場に出ると笑いながら敵兵を殺しまくって、白い鎧が真っ赤になるらしい」
「なにそれ怖い」
俺も怖い。
視線をはずして前を向くも、女の目は俺を視界に捉えて凝視している。
ほんと怖い。
「団員を募集してるんでしょ? そろそろひとりは飽きたし、入ってあげるよ」
「えっ? あーえっと……実はもういっぱいで」
「なんで嘘つくの?」
「ひえ……」
カウンターへ身を乗り出した女が俺の顔を真横から覗いてくる。
むっちゃ真顔。
人形みたいにまったく表情の無い顔が俺の間近に迫っていた。
「募集の張り紙、今朝はなかったよね? 昼ごろに張ったんでしょ? だったらもういっぱいってのはおかしいよね。なんで嘘つくの? ねえなんで? ねえ?」
「ひえ……ごめんなさいあなたがあまりに美人なので緊張して言葉を間違えましたどうぞ我が傭兵団にお入りください大歓迎いたしますです」
自分の顔から血の気が引いているのを感じながら、心にも無い言葉がつらつらと早口で吐き出されていく。
めっちゃ目んたま剥いてこっちを睨んでる顔を見たら、もう断れなかった。
怖すぎる。
「あ、そっか。そうなんだ。じゃあしかたないね」
女の表情が落ち着き、俺は胸を撫で下ろす。
「わたしはデニーズ。見ての通り剣士だよ。よろしくね」
「あ、うん。俺はガスト。よろしく」
隣に座った女、デニーズを見る。
長い金髪の綺麗な女だ。さっき言った歓迎の言葉はほとんど嘘だが、美人という部分だけは真実であった。
綺麗な金髪に純白の鎧がよく生える。腰には長剣を差していた。
外見だけ見れば、天界から舞い降りた戦乙女のようだ。とても『血塗れのスマイリーデニーズ』なんて物騒なあだ名で呼ばれている女には見えない。
「ガストって言ったっけ。君は今まで何人くらい殺したの?」
「初対面で聞くことそれ?」
「他になにを聞くのさ?」
「……うん、そうだね。なにを聞くんだろうね」
少なくとも殺した人間の数は聞かないと思う。
「私は……ごめん数えてないからわかんないや。けど、十歳からいままでの七年間は一日ひとりは必ず殺してるよ。私の日課なの」
「へえ……」
「安心して。殺してるのは盗賊とか町のギャングとか、あと敵国の兵士ね。だから合法。人を殺してお金もらって、快楽まで得られちゃうなんて素敵だよね。そう思うでしょ?」
「いや、俺にそういう性癖は……」
「素敵だよね」
「……はい。素敵です。真顔ですごむのやめて。怖いから」
とんでもなくやべー女を団員にしてしまった。俺は今後を不安に思いながら飯を食い終え、団員募集の張り紙に『殺し好きお断り』と書いてから店を出た。
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