第34話 バーガング傭兵団
――ファウド帝国首都コークに本拠地を置くバーガング傭兵団。その作戦会議室に団長のディアルマ以下すべての幹部が招集されていた。
部屋の中央奥、長机の先に座る左腕の無い三十台半ばくらいの男。盛り上がる筋肉と長身を黒い鎧で覆った、短い黒髪のいかにも歴戦の猛者と言った風貌のこの男こそ、バーガング傭兵団団長のディアルマである。
ディアルマは集まった全員の顔を見回し、そして言った。
「三日後、ファウド帝国がレスティアントに宣戦布告することが決まった」
誰も声を発しない。全員、ただ黙ってディアルマの言葉を聞いていた。
「開戦してまもなくのあと、俺たちは国境にあるレスティアントのホルコヒという町を攻める。ほしいものは戦利品として持っていけ。女でも金でもガキでも好きにしろ」
「デュルッフフフ。つまりいつも通り、ということですな」
巨大な体躯の巨人族の若い男が言う。
副団長のひとり、キングだ。
「ひゃひゃひゃっ! ホルコヒには良い女がたくさんいるって聞いたぜぇ。楽しみだなぁ。百人は犯してやるぜ。ひゃははっ!」
次に発言したのは金髪を肩まで伸ばし、あごひげをたくわえたチャラそうな外見の若い男である。
名はウェイブ。
彼もまた副団長のひとりである。
「ウェイブ君は本当に女性が大好きですねぇ。私は女よりもやっぱりお金がですよ。山のように積まれたお金を見るとわくわくしちゃいますね。デュルフフフフ」
「金が好きなくせにおめえって着てるもんとか貧乏くさくね?」
「貯金が趣味なのです。衣服に使うなんてとんでもない」
「身体がでかいくせにやることちいせえな、おめえ。男ならよぉ、良い女を大量に囲って好きなときにやりたい放題できるようになりてぇとかでかい夢を持てよな」
「興味ないですね。お金が一番です」
金がいい、女がいいと言い合う二人の男。
それをひとりの女が冷めた目で見ていた。
真紅の瞳に燃えるような赤い髪を伸ばした若い女。恐ろしいほどに美人だが、近寄りがたい鋭利な刃物のような気配を持った女である。
「金だ女だくだらねぇことで盛り上がんなよてめえら。つまんねんだよ」
「そりゃケルキィの姉さんからすりゃくだらないことかもしれねーけどよぉ」
「ヴァンパイアのケルキィ姉さんは血にしか興味ありませんからな。我々とは根本からして価値観が違うのですよ」
「ふん、だとしてもお前らは下品だと思うがな」
ケルキィはつまらなそうに言葉を吐き捨てた。
「ん、ん、わたしはほしい首がある。ん、ん」
そう発言したのはこの中でもっとも背が低い女剣士、ウェンディである。サイドテールのオレンジ髪を弄りながら、彼女はディアルマに見開いた目を向けていた。
「その首が俺たちの前に出張ってくるかまでは俺にもわからんな」
「来る。ん、ん、来たらウェンディが殺す。あれはウェンディの獲物。絶対に自分達の手で殺す。横取りした奴は殺す。ん、ん」
「その獲物がどんな外見をしてるかわからないと先に殺しちゃいそうですよ」
「ん、ん、金髪に白い鎧。ん、ん」
「いっぱいいそうですね……」
「そいつってあれだろ? おめえがレスティアントに潜入してたときに戦ったっていう、女剣士。えらい美人らしいじゃねぇか。会うのが楽しみだね」
ウェイヴは好色そうな顔で笑う。
「ん、ん、あれはウェンディの獲物。ん、ん」
「わかってるって。ちょっと楽しんだらお前にくれてやるよ」
「しかしウェンディが仕損じるなんてたいした奴がいるじゃねーか。楽な戦争かと思ってたけど、これはなかなか楽しめそうだな」
楽しそうにケルキィがキキキと笑う。
それからディアルマが咳払いをすると、皆が彼に注目した。
「向こうの王都に近づくにつれ、敵の抵抗も激しくなっていく。三日後は国境の町を落とすだけの楽な仕事だ。気楽にやってその日以降に気を引き締めろ。解散だ」
それを聞いた全員が立ち上がる。
副団長の四人は各々、様々な思惑を持って笑いながら作戦会議室を出て行く。ひとり残ったディアルマは先の無い左肩を押さえる。
「さて、今回の戦争は俺を楽しませるだけの奴がいるかどうか。これを使う機会がそろそろほしいところだしな」
蠢く左肩を撫でつつ、ディアルマは不敵に笑った。
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