第11話 俺は一覇の横に立ち助言する
俺は一覇の横に立ち助言する。
「一覇会長、もうすでにあの魔法陣から五〇匹以上の子鬼が這い出ている。多勢に無勢になる前にあの魔法陣を破壊した方がいい」
「なるほど、ヒーロー23号、あの魔法陣を焼き払いなさい!」
ヒーロー23号が魔法陣に向かってレーザービームを放ったが、その魔法陣から突如現れた人型の影が魔法陣を展開し、レーザービームを無効化する。
「なに、現代科学の粋を結集したレーザービームが効かない。ならロケットランチャーです!」
ヒーロー23号の胸が開き、ロケットが発射されるが、そのロケットも魔法陣の前で破裂し、人型の影には届かない。
あっけにとられる一覇。その影が濃度を増し、やがて角を生やした人型となる。
「やれやれ、久しぶりに現世に戻れたと思ったら、なんとも、手厚い歓迎を受けたものだ。それは光魔法や火魔法の類ですか?」
静かに問いかける人型は口元から牙を覗かせ、頭には角さえ生えているのに、それを差し引いても、金髪を靡かせるかなりのイケメンで、その身には貫頭衣と呪術に使われるような毒々しい色を放つ勾玉の装飾品を身に纏い手には大型の宝剣を携えている。
俺はその姿を見て、圧倒的な威圧から感じる人影の正体に気付き、全身から冷や汗が吹きだしている。
(……こいつは……。まずい)
「あなたは、何者なの?!」
この者の放つ邪悪な気配に怯え、目を見開いた一覇は、それでも気丈に人型に向かって問い返している。
「我が名を知らぬ者がいるのか? ふぁはははっ、面白い所に出たものよ。ならば、答えよう我が名は、坎鬼(かんき)!」
そう名乗ると、体から濃密な邪気を一気に放つ。
その邪気に当てられ、粉々に千切れ飛んでいく第一の結界に張り巡らされていたしめ縄。
その所業にいち早く動くことができた俺は、一覇を抱きかかえ、第二の結界まで必死に下がる。
もちろん、その撤退にヒーロー23号も、自らの主(あるじ)を守り、子鬼どもの盾になる。
「坎鬼(かんき)だって? 北から災いを為す八方鬼の一人、坎鬼か!!」
坎鬼は俺の問いには答えない。余裕の笑みさえ浮かべている。
「第二結界まで破壊するつもりで邪気を放ったはずなのだが、なるほどかなり強化されている。それに我が邪気をくらい生きている人間が三人もいるとは」
「もう、我慢できない、ヒーロー23号 坎鬼を殺(や)ってしまいなさい!」
一覇は、声を荒げてヒーロー23号に命令した。
ヒーロー23号が坎鬼に人外のスピードで肉薄する。しかし、その徒手空拳はことごとく躱され、あしらわれる。
「ほーぉ、下等な人間にもこのような動きができるものが居たとは。だが、我に触れるには、まだまだあらゆるものが足らん」
そう言うと、坎鬼は腰の宝剣を抜くと、軽く薙ぎ、一撃を放つ。ヒーロー23号は右足を切り飛ばされた。
「よく、避(よ)けたものだ。二本とも切り飛ばす予定だったが。だが、なぜ、血が流れん。肉が見えん。これでは我が眷属、子鬼のえさにならんではないか」
冷たく笑う坎鬼にとって、ヒーロー23号は、もはや興味を失ったおもちゃ以下だ。
「子鬼よ。そのごみ屑を喰らい尽くせ。その間に、我がじきじきに結界をこじ開けてやる」
ヒーロー23号は、抵抗するが右足を失ったうえ、数十匹の子鬼に飛びかかられ、抵抗むなしく引き倒され、超合金のバトルスーツには牙が食い込み、声や表情の無いはずのロボットの顔は苦悶に満ちているようだ。
すでに、結界の外は、パニックになっている。われ先に逃げ惑う人たち。第二の結界が破られるのは時間の問題だ。
「おい、一覇会長。とりあえず逃げるんだ!」
俺は、一覇の手を引くが訳の分からないことが目の前で起こって、恐怖に駆られた一覇は、それでも何が起こっているか知りたかったようだ。そして、その気持ちを心の底から発したのだ。
「なによ。これはどういう事よ? 説明できる人、出てきなさい!!」
「はあっ、そんなやつ、いるわけないだろう!」
俺の否定の言葉に反するように、一覇の頭上に、光が渦巻きそこに魔法陣が出現する。そして、魔法陣から現れたのは、銀髪に銀色の瞳を持つ貫頭衣を身に纏った、神々しいまでに美しい八歳ぐらいの幼女が現れたのだ。
「だれじゃ、わらわを呼び出したのは? それに、ここはどこなんじゃ? 」
やけに年寄くさい言葉を吐く幼女なのだが。それよりお前はいったい誰なんだ?
そう思った俺だったが、しかし一覇の放った言葉はさらにぶっ飛んでいる。
「あなたが、この状況を説明してくれる人なのかしら?」
突然、現れた幼女に詰め寄る一覇。すでにパニックの中、常識のねじも吹っ飛んでいた。
「なんじゃ」
状況と言われ、辺りを見回す幼女。
「あそこに居るのは、坎鬼ではないか? それにこの結界……」
「それがどうかしたのよ」
近くに立つ一覇と征哉をしげしげと見る幼女。結界の中では、すでに、ヒーロー23号は手足をもぎ取られ、頼みのビームを放つ目玉もくり抜かれ、活動を停止する寸前である。
「なるほどのう。ほれ、坎鬼に結界が破られるぞ。お前はこの剣を持って、坎鬼を止めてこい」
幼女は俺の方を見ながら、背中に携える剣を抜き剣を手渡す。
「あれを俺に止めろだって。なに言ってやがる。無理に決まってるだろ」
そう言葉を吐きながら、俺は手渡された剣をしげしげの眺めてみれば、その身に覚えのある装飾に、口角が徐々に上がっていく。
「やってやるぜ!」
征哉は宝剣を八双に構え、結界に近づいてくる坎鬼に向かって走り出した。
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