第14話 なるほどな。それで一覇会長のスキルって

「なるほどな。それで一覇会長のスキルって、やっぱり、相手を洗脳するような精神系のスキルなんじゃないか?」

「いや、それ以上じゃ。この一覇とかいうおなごのスキル、場の空気を変えるスキルじゃ。

 場の空気を自分の思い通りに変える能力を持っておる」

「いや、それって精神系じゃないのか?」

「いや、直接、空間の魔素に作用しておる。空間系というやつじゃな。

例えば、「割れ窓理論」という言葉を知っておるか。まあ、簡単に言えば、窓ガラスの割れた空き家は、一か月もしないうちに、すべての窓ガラスが割られているという理論じゃ。割れたガラスという無機物が、犯罪を起こしやすい空気を作るという意味では、空間系のスキルじゃろう。

だから、わらわがこやつに呼びだされたのじゃ」

「ああっ、あの、説明できる人間、出てこいというやつ」

「そうじゃ、わらわ以外にあの状況を説明できる適任者はおらんじゃろうからな。空間を捻じ曲げ、わらわをこの世界に召喚しよった。聞けば一条院の子孫という、わらわを八方の鬼とともに時空に飛ばしよった、あの一条院宙(いちじょういんそら)の子孫と言われれば納得じゃわい」

「あの、九鬼神様、もうその辺で」

 一覇がなんで、そこで必死に、話を終わらせようとしているんだ。

「それでのう、こやつ特殊スキルがまたすごいのじゃ。レベルブレーカーじゃな。こやつ、たかだかレベル10なのじゃ。

しかし、どれほど高レベル相手でも巻き込こんで空気を変えてしまえるのが、唯一、正義を願う心なんじゃよ。特に口癖となっている「最後には必ず正義が勝つ!!」はすごいぞ。これだけは、文字でも伝わるほど強力じゃな。だから、お前が坎鬼に勝ったのは、この場の空気の影響が大きいぞ。

なにせ、空気中の魔素が致命傷を避けさせ、傷を癒し、お主は何度やられようが、立ち上がり、負けるわけにはいかん不死の身体になるようじゃ。そのおかげで、あれだけの傷を負っても、その回復力で死ななかったんじゃ。それに、悪は最後と感じるわけにはいかんからのう。最後には正義が勝つわけじゃからな」

「なんだ、その信念? 笑えるぞ」

「いや、ほんとに面白いぞ。一覇は、筋金入りのヒーローマニアなんじゃ。日曜日のヒーロータイムスとかいう番組を一度も見逃したことがないらしい。古いヒーロー物も、ビデオで見ていて、本棚には、その手の本やマンガがぎっしりならび、コレクションボードには、フィギュアとか言う物が、並んでいるのじゃ」

「もう、なんで知っているんですか……、九鬼神様は。千里眼のスキルも持っていらしゃるんですか……、お願いします。覗き見は厳禁です」

「まあ、よいではないか」

 一覇をからかう九鬼神の話に、俺も割り込む。

「今の話を聞くと、あの坎鬼の騒動は、上手く一覇会長のスキルでごまかしたでいいんだな」

「その通りです。征哉がボコられたのも、正義の味方がピンチになる演出。そして生徒たちがヒーローを助けに入り、子鬼どもを撲滅したのも、征哉が大逆転の勝利を収めたのも、すべて、わたくしの演出ということにしています。

坎鬼も子鬼もやられたあと、霧散しましたし、何も本物だという証拠も残りません」

「そうか、ならよかった」

「ですね」

 俺の言葉に、茜が同意している。


「ところで、さっきから話に出ている魔素ってなんなんだ」

「えーっとそれは……」

「それはわらわから説明してやろう。魔素とは、空気中に漂うガイヤエネルギーじゃ。鬼道でも魔素と表現しているようじゃが、実は、人が出す気なんかより、圧倒的に高純度で高濃度のエネルギーじゃ。それを取り込むことで、驚異的な力が発揮できる。そして、魔素を取り込む力をレベルと言うのじゃ。

 しかし、絶対にやってはいかん禁忌があってな……、人の体内にある魔素にスキルと使っていかん。何が起こるか分からんのでな。

まあ、人は元々魔素を取り込むことが出来ないのでスキルも使えずレベル1じゃ。

 ところが、この鬼都に住む人間たちは、わらわを信仰しておったおかげで、わらわの眷属となり、魔素を取り込む術を得ることができたのじゃ。そうして一万数千年前、この世界に八方鬼たちが現れた。

しかし、その時代は他の地域では、もう神への信仰を無くしていたため、優勢を誇っていたアトランタやムー王国が八方鬼に滅ぼされ、さらにこの鬼都に攻め込んできたのじゃ。

 そこで、人類滅亡の危機に、わらわは一計を案じ、二重の結界を張り、鬼たちが逃げられぬように閉じ込め、鬼都に住まう眷属と最終決戦に臨んだのじゃ」

「へーっ、アトランタやムーって本当にあったんだ」

「そうじゃな。レベル1の人間は、火を吐く棒や、機械仕掛けで動く巨大な像などで対抗したようじゃが、瞬く間に人の町は蹂躙されたのじゃ」

「それにしても、この鬼都の結界が鬼を入れないためではなく、鬼を出さないためだったなんて驚きね」

「こらこら、何をゆうておる。そのお主の祖先、一条院宙が隙をついて、八鬼に苦戦するわらわごと、時空の彼方に吹っ飛ばしたんじゃ

 まあ、そのおかげで結界が残り、その中に魔素も取り残され、魔素はわらわからも、結界維持のためにこの地に供給され続けておったみたいじゃし」

「そのおかげで、スキルを持った先祖たちは、魔素を上手に取り込み、それを鬼道と称し、子孫たちに受け継いだ。今では、昔のような魔法じみたものではなく、才能という形でね。それで、今の貴都の繁栄があるというわけね」

 そう九鬼神の話を継いで、一覇は、鬼都市の歴史を紐解いて見せるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る