第15話 長く信じられない話であった
長く信じられない話であった。その長さのおかげで、俺の傷口が塞がっているぐらいだ。
「さて、文化祭が終わったんなら、俺は帰るわ。それに電車の時間もあるし」
「あっ、わたしも帰ります」
「あなたたち、今の話を聞いて、たったそれだけなの」
「あのさ、空間を操る一覇会長が、ばかなことをしなければもうこんなことは起こらないんだろう。こっちは死にかけたんだぞ。もう、一覇会長にはかかわりたくない」
「いや、それは……」
一覇の言葉に、俺はきつい言葉で返してしまった。俺は、一覇が申し訳なさそうに今まで俺が寝ていたベッドを目を伏せてじっと見ているので、気まずく感じていた。
そこで、助け船を出してくれたのが九鬼神だ。
「なんじゃ、お前ら、これで終わりじゃないぞ。時空の亀裂がほころび始めておる。だから、わらわも、簡単に召喚に応じることができたのじゃし、時空に飛ばされた鬼どもも、虎視眈々とこの世界を狙っておるはずじゃ」
「まさか! そんな!」
九鬼神の言葉に、表情を失う茜。
「そうじゃ、そこの征哉と一覇。お主らは、協力してレベルを上げ、時空を超えてくる鬼どもにそなえなければならん。ゆうておくが、お前らが倒した坎鬼、八方鬼の中では、最弱じゃぞ」
「あいつが最弱だって」
「ああ、そうじゃ。弱いがゆえに、閉じられた時空の結界も弱い。これからも、結界の弱い時空から綻び始め、次から次へと鬼がでる。これぞ、わらわが一条院宙にさせた、時空時差結界。
一対一なら屠ることもできたのじゃが、わらわがこの体たらくではな……」
「しかし、鬼はこの世界のどこに出るかわからないんだろう」
「さっき、ゆうたであろう。結界は、わらわの魔素を吸ってあり続けた。そして、鬼たちを飛ばした次元を超えた時空も、実は見えんがこの結界内に繋がっているのじゃ。だから、鬼どもはこの世界のこの場所にしか現れんし、わらわが死なん限り、この結界の外にはでれん」
「この鬼都を目がけて、鬼どもが蘇るのか……」
想像するだけで気が滅入る予言をしてくれる九鬼神。そして、思いついたように手を打って発言をしてくれる。
「うむ……。おおっそうじゃ、お前ら、征哉は場の空気に従うことでレベルを上げる。そして一覇は、自分よりレベルの高い者を場の空気に従わせることでレベルを上げる。
なら、お前らのやるべきことは一つ。征哉、そして一覇、お主ら付きあえば良いのじゃ!
文句は無かろう。わらわが、仲人となろう。それこそ、鬼どもに備える最良の方法じゃ!」
俺は、九鬼神の言葉に遠い目で茜色の空を眺めていた。それは、一覇も同様のようだった。
「コホン、コホン。征哉庶務、それから茜書記、電車の時間が有ったんじゃなかったかしら?」
「おおっ、そうだった。じゃあ、俺たち帰るわ。また明日な」
一覇が思い出したように、予定を確かめ、それに俺もあわてて答えている。すなわち二人して、九鬼神の話はなかったことにしたかったのだ。
「待て、待たんか!!」
必死になる九鬼神を無視して、歩みを進める俺、一緒に行こうとした茜が、突然、足を止めた。
「征哉庶務、あの、そんなボロボロの制服で帰るんですか?」
茜の言葉に、俺は自分の身体を見回した。なるほど、自分の着ている服は坎鬼の持っていた宝剣や子鬼の牙にかかり、あちこちが切り裂かれたり、引き裂かれたりしてボロボロである。しかも、俺の血で染まって紺の制服はどす黒く汚れている。
「あれ、どうすんだよ、これ。俺この一着しか制服持ってないのに……。それに支給品だから金払ってないけど、買えば目ん玉が飛び出るぐらい高いんだろ?」
そこに澄まし顔で、一覇が口を挟んだ。
「そんな、上下で三十万ほどよ。あなたみたいにオーダーメイドじゃない既製品なら、二十万ぐらいじゃない」
「なにが、三十万だよ。その辺のおっさんが来ているスーツが一〇着は買えるぞ。まいったな、俺のアルバイト代の半年分だ……」
「なに、あなたアルバイトしているの? 確かに規則では、貴都学園では副業は禁止されていないけれど……。それにしても、征哉庶務の年収って、わたくしの分給以下ね。ぷぷっ!」
「分給ってなんだよ! せめて時給って言ってくれよ!」
「さて、冗談はさておき、わたくしが征哉庶務に制服をプレゼンとするわ。そうなったのは、わたくしの責任ですし」
「まあ、それは助かるんだが……。だがな……」
「まあ、よいではないか? わらわもついでに買ってもらうのじゃ。この格好では、この世界をうろうろ出来んのでな」
「えっ、九鬼神様、元の世界に帰るんじゃないのか?」
「それもそうなんじゃが。そもそも帰り方もわからんしの、お前らの行く末も気にかかるのじゃ」
「あの……、九鬼神様がいらっしゃる方が心強いです」
「なるほど、茜の言うことももっともだ。じゃあ、一覇会長、俺と九鬼神様の制服をお願いする」
「ええ、いいわよ。早速、購買にいきましょう」
案内された購買部も、まるで高級ストアの趣だ。入店するのに、学生証を提示して、決済も学生証の持つクレジット機能で決済するらしい。店舗内には、世界中の高級品が並び、万年筆一つとっても、ウン十万する商品が並んでいる。
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