第13話 それを見ていた坎鬼にとって

 それを見ていた坎鬼にとって、在りえない光景が目の前に広がっている。単なる餌であるはずの人間に、坎鬼の眷属である子鬼が身動きできずに殴り殺されている。

 その状態を作り出している空気を読む坎鬼。

「おのれ、今こいつに止めを刺そうとしたところで! 最初に殺すべきはその女であったか!」


 しかし、一瞬、一覇に気を取られた隙を、勝てるまでは死ねない呪い(場の空気)を受けて超人となった俺が見逃すはずはなかった。

 かみ合っていた宝剣を弾き飛ばすと、矢を放つような動作から剣を坎鬼の右胸に根元まで突き刺す。

「よそ見をするな。お前の相手はこの正義の味方だ!!」

「ぐはっ!!こ、この剣は?! なるほど、我の身体を貫き我が命を断てるわけだ。九鬼、貴様もこの世界に蘇っていたのか……」

 最後に霧散しかかった坎鬼が呟いた言葉を征哉は、聞き取ることは出来なかった。代わりに聞こえてくるのは、「正義(せ・い・ぎ)。正義(せ・い・ぎ)」の拳を振り上げた観客たちのシュプレヒコールと、子鬼を撲滅し、勝どきを上げる生徒たちの声であった。

「力を出し切って悪を倒したヒーローは、ヒロインに介抱されながらエンドロールを迎えるんじゃなかったけ?」

 俺が、目の端でぼんやり捉えた映像は、一覇と茜が自分に駆け寄って来るものだった。それに安堵して、意識を手放してしまったようだった。


 次に俺が目を覚ましたのは、美少女の膝の上ではなく、学校の保健室のベッドの上であった。

 俺を心配そうに覗きこむ茜の瞳と目が合ってしまう。なぜか、茜の瞳には涙が一杯たまっているのだ。その涙が一筋流れると、俺のほほに掛かった。どうやら、俺は茜の涙で目を覚ましたようだった。

「征哉先輩、大丈夫なんですか?」

「ああっ、大丈夫。それよりあの騒ぎは?」

 どうなったと俺が尋ねる前に、一覇が答えた。

「一応、すべてが演出という事で納得してもらったわ。と言うか、わたくしが言えば、すべての人は納得せざる負えないらしいんですが……」

「そういう事じゃな。九鬼征哉」

「あっ、お前は、訳の分からない空間魔法陣から出て来た女!」

「こら、失礼な口をきくんじゃない。わらわは神様であるぞ」

「神様?」

 俺の疑問に一覇が代わって答えた。

「あの、征哉会長秘書。こちらの方は一万数千年前に人類滅亡を企てた八方位から災いを為す鬼を、封印して世界を救った九鬼神様です。あなたが気絶していた間、いろんなことを聞くことが出来ました」

「九鬼神? こんな子供が?」

「やかましい。わらわとて、数千年の時を超えたと思ったらこんな姿になっておったんじゃ。たぶん、時空の狭間で漂ううちに、魔素を放出し、レベルダウンしたために、容姿や能力が退行したのじゃろう」

「ふーん。レベルダウンね。それでガキが年寄じみた話し方をしているわけだ」

「この話し方は大昔からじゃ。それにお前が倒した坎鬼も、大分レベルダウンしておったぞ。わらわが封印したころとは比べものにならんぐらいじゃ」

「おい、あれでか?」

「そうじゃな、わらわと戦ったのがレベル70ぐらいとすると、今のあやつはその半分のレベル35ぐらいじゃ」

「じゃあ、それを倒した俺って、レベル40ぐらいなのか」

 内心、レベルが八方鬼より高いのかと、レベル自慢をしたい俺。しかし、返された言葉は、予想に反していた。

「そう簡単にいく話でもないんじゃが……。まあ、今のお前さんのレベルは20ぐらいじゃな」

 そして、幼女の容姿をした九鬼神は、赤い古代文字で書かれている一枚の紙を見せる。


「これは?」

「これはね。私たちのスキルとレベルが書かれてあるの。九鬼神様が、紙に魔法陣を書き、その上にその人の血を一滴垂らすと、その人のスキルとレベルが浮かび上がる。九鬼神様のスキルの一つ、その者のスキルとレベルを見通すスキル、現在のレベルは5だっていうの」

「はっ、レベル5!」

「まあ、そう言う事じゃ、子鬼とどっこいどっこいじゃな」

「そんなんでよく、八方鬼どもを封印出来たな?」

「まあ、さっきゆうたように、わらわの飛ばされた時空は、この世界と魔素で繋がっておるようでな。わらわたちがいなくなって、この世界の急激に枯渇した魔素を時空から供給しておっての、わらわの魔素を吸い取りこの世界の鬼都市に供給していたようなのじゃ。一万数千年の間、吸い取られ続けたのじゃぞ。このように干からびて当然じゃ」

「ふーん。それよりその紙に書いてあることを教えてくれよ。俺にはさっぱり読めない字なんだ」

「いいか、お主のレベルは20。そしてスキルは、場の空気と化した魔素を読みその魔素を体内に取り込み一時的にレベルアップできるスキルじゃ。このスキルは空気を作った相手のレベルを超えることが出来るんじゃ。レベルブレーカーといえるじゃろうな。自分の意志で発動させることができ、場の空気が堅固であればあるほど、大きくレベルアップする。まあ、場の空気が曖昧であればレベルアップも厳しいということじゃ」

「なるほど、重い当たるふしは昔からよくある。誰からも相手にされない空気というその場の空気を取り込んでいたため、本当の空気になっていたんだ」

「まあ、そう言うことじゃな。周りの場の空気を魔素として取り込むことで、レベルを上げておった訳じゃ」

「その空気を敢えて読まなかった場合は?」

「その場合は、レベルはあがらんな」

「なるほど、なら、そこにいる一覇会長と茜書記も一定のレベルとスキルがあるんだろう。茜書記のは大体わかるんだが」

「そうじゃのう。茜のスキルは物質変換スキルじゃ。昔は、錬金術師ならみんな持っておったのう。それにレベルも凄いぞ。大分自分で修行した様じゃ。それに、わらわも魔素を取り込むやり方を教えてやったでのう」

「征哉先輩そうなんです。今のレベルは先輩と同じ20なんです」

「そうじゃ、ただし残念ながら、レベルブレークがお主のようにない。だから、茜が物質変換した物は、今のところレベル20までにしか通用せん」

 そういうことか。だったら一覇会長のスキルは?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る