第12話 今度は、一覇の方をまっすぐに見つめる
今度は、一覇の方をまっすぐに見つめる。
「さて、今度はお主の番じゃ。お主、心から望んでいる望みが在ろうが、その望みを心の底から叫ぶのじゃ」
「望みを叫ぶ?」
「そうじゃ。その叫びが、あの男を助けるのじゃ」
「征哉を助ける? わたくしやるわ。だってこんなのわたくしが望む結末じゃない」
一覇は大きく息を吸い込む。そして、あらんかぎりの声で心からの望みをぶちまける。
「正義は、最後には必ず勝つのよ!」
それは、一覇が小さいころから、理不尽な場面に遭遇するたびに、呟くように唱えていて、今では口癖になっている言葉だ。
その言葉が、吐かれた途端にその場を取り巻く空気が大きく変わる。絶望の淵に立ちながら、最後は必ず正義が勝つ。この状況で、すべての人の意識をポジティブシンキングにかえる一覇の能力。
今まさに、坎鬼が宝剣を第二結界のしめ縄に振り下ろそうとした瞬間、人知を超える速度で坎鬼に肉薄し、俺は与えられた剣で宝剣を受け止めた。
「「なんだ!!」」
坎鬼と征哉、二人同時に驚きの声を上げた。
超合金でさえ切り裂く宝剣、そして人の何十倍もの腕力、そして人知れず宝剣に纏(まと)わせた魔素。それでも、俺の持つ剣は宝剣を受け止めた。つばぜり合いをしながら、お互いの剣越しににらみ合い、そして、そのまま俺は力任せに押し切った。
周りの場の空気を魔素として取り込み、自らをその空気が望む超人と化す征哉の能力(スキル)。
一覇と征哉はいまだに自分の能力に気が付いていないが、いち早くその能力に気が付いたナゾの幼女。
坎鬼と征哉の戦いは、音速を超え、剣と剣がかみ合い散らす火花とソニックウェーブが巻き起こす衝撃波のみが目に捕えられ体に感じることができるのみなのだ。
坎鬼と絡み合う俺は、もう一つの敵、子鬼に煩わされていた。一瞬も気の抜けない坎鬼との攻防、そこには子鬼の攻撃を割(さ)く余裕がない。
瞬く間に、牙と爪で引き裂かれていく制服、そして体中に痛みが走る。
「くそ、あの魔法陣を何とかしなければ」
いまだに、子鬼が湧き出でいる魔法陣に向かって、宝剣に魔素を通して振り下ろす。すると斬撃が飛び出し魔法陣を切り刻んでいる。
「なんだ、この剣は? めちゃくちゃすげえ!」
魔法陣が切り刻まれ赤い光を発すると、無限地獄に繋がる様な漆黒の穴が消え、グラウンドの地面に戻っている。
その動作は拮抗していた戦いに、決定的な隙を作ったようだった。
俺の左胸に坎鬼の宝剣が迫る。だめだ間に合わない。その時、場の空気に押されるように体と剣がわずかにズレる。宝剣が俺の左肩を貫き、激痛に気が遠くに持っていかれる。
止めを刺さしたはずなのに、急所を外された坎鬼は、信じられないといった顔をしているのだ。
「なぜ、剣がずれたのだ? まあいい、死ぬ時間が少し伸びただけのことだ。これで最後だ! 死ねー!!!」
再び、上段から振り下ろされた宝剣に、俺は死に物狂いで剣を合わせ、肩の痛みに歯を食いしばる。
一方、幼女は茜にも声を掛けていた。
「お主、錬金術師か? 魔素を使った錬金術をわしが伝授してやろう」
そういうと、茜の手を両手で包みこんだ幼女。茜の手はその神経を焼かれるような痛み、脳に流れ込んでくる情報に激しい頭痛を覚えながらも、必死で両足を踏ん張っていた。
「どれ、その辺にある武器になりそうなものに、魔素を付与して、破邪の剣に換えるのじゃ」
幼女は足元に転がっているバットを拾いあげ、茜に持たせる。
「わたしにできるかな?」
「大丈夫じゃ。この能力、もともとお主からわらわが貰ったものじゃ」
「わたしから貰った?」
「そんなことはどうでもよい。早く練成せんか! あの男が生きているうちにじゃ!」
「あっ、はい!」
茜の頭の中には、バットを構成している分子がイメージされ始めるが、その姿はいつもの丸い愛嬌のある姿ではなく、スライムのようにアメーバ―状に蠢き、周りの銀の靄(もや)を貪欲に取り込んでいく。
「あの……、出来ました」
そのバットを手に取った幼女。
「なかなか筋が良い。上出来じゃ。さあもっと、錬成するんじゃ」
次から次へと、その辺に転がっているバット、竹刀、バトン、そして槍投げの槍まで、魔素を取り入れ強化していく。
幼女は一覇に話しかける。
「やれやれ、最後の仕上げはお主がやるのじゃ」
「わたくしが?」
「そうじゃ、動きを止めよと言葉に発するのじゃ」
「わかったわ。みんな動きを止めて!」
まるで、だるまさんが転んだのように、そこに居た生き物は一覇の大号令の元、時間が止まったように、その動きを止めた。
もっとも、その中で、坎鬼と征哉、そして茜だけは動きを止めることはない。
「ばかもの、子鬼の動きだけ止めるんじゃい」
動けなくなった幼女は、大声で一覇をののしっている。
「そうか。わかったわ。子鬼ども、動きを止めろ! 生徒たち、武器を取り子鬼を叩きのめせ!」
そうまさに呪いのような言葉を発する一覇。やっと、わらわの思いが通じたと安堵の表情を浮かべる幼女。
一覇の言葉に、武器を取る屈強な運動部員たち。そして結界の中へとなだれ込み、動きを止めた子鬼を霧散するまで、叩きのめすのだ。
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