第37話 今日から、三学期が始まる

 今日から、三学期が始まる。

 始業式を仕切った生徒会も、無事、一覇が挨拶を終えて終了した。

 俺や茜は髪の毛を黒に染め、目には黒のカラコンを入れている。実際これには参ってしまう。変身する時だけ、髪や瞳の色が変わるとばかり思っていたのだが、そういう訳にはいかなかった。もちろん、一覇の誰も気に留めない空気で誤魔化せば簡単なんだが、一覇のいないところではそうもいかない。


 そして、クラスに戻れば、担任からの連絡事項のみで今日は終わりとなる。俺は一覇から声を掛けられ、並んで生徒会室に向かっている。

「征哉庶務、ごめんね。元旦しか手伝えなくて」

「大丈夫だよ。二日以降は、参拝者も減るし、それに九鬼神も手伝ってくれたし」

「九鬼神様が?」

「そう、あいつ、子どものなりして口調は古臭い。それに世間話や相談ごとにも乗ったりして、ひとりにお守りやお札を何枚も買わせて、なかなか商売上手だったんだ」

「まあ、経験だけはあるんでな」

 俺と一覇には見えているが、学校内では空気になっている九鬼神が答える。

「まあ、九鬼神様は、お守りとかお札とかを売ったこともあるんですか?」

「まあ、はるか昔じゃがな」

「そんな昔から、神社ってあったんですか?」

「そりゃあ、信者獲得のためじゃ」

「ふーん」俺と一覇はなんとなく、九鬼神の言葉に納得して返事を返す。


「ところで征哉庶務、お父様が征哉君は休みの間は来ないのかって、電話してみろって、ちょっとうるさくて」

 そうか、正月中は忙しくて、最初は一覇や茜からの電話に出ていたが、そのうち面倒臭くなって電話の電源は切っていた。

「ははっ、上手く誤魔化しておいてくれよ。一覇さんのスキルを使えば楽勝だろ」

「まあ、そうなんだけどね。あっ、それから校内では、わたくしのこと、ちゃんと一覇会長って呼んでよね。別に校内以外なら呼び捨てでも構わないから……」

 一覇、お前、なんで付き合っているんなら、名前呼びして当然よねっていう空気を流がしているんだ。俺が気恥ずかしいだろ。しかし、有りがちに助け舟と言うか、肝心なことが言えなくなってしまうタイミングで、一年生の教室から、茜が俺たちを見つけて駆けてくる。


「征哉先輩、お疲れ様でした。今日から生徒会、頑張りましょう!」

 おう、おう、新学期そうそう元気なことだ。それに可愛い下級生に、校内で先輩と呼ばれ慕われるのは、高校生男子の憧れのシュチュエーション第三位だ。もちろん、第一位は誰もいない放課後の教室で、憧れの同級生に愛の告白を受けることだろう。ただし、これは個人の感想なんだが。


「茜書記、校内では、征哉のことは、征哉会長秘書と呼びなさい」

 一覇、お前、校内なのに俺のこと呼び捨てにしているし、それに庶務じゃなくて、いかにも私の所有物って感じで、会長秘書と確定させているし。

 俺がそのことを指摘する前に、茜が可愛らしく言い訳している。

「はい、わかりました。でも一覇会長と征哉庶務が付き合っているのは、あくまでフリですからね」

 茜のやつ、わざと会長秘書ではなく庶務と呼びやがった。案の定、隣で一覇の舌打ちが聞こえる。

「まあ、まあ、ほら生徒会室に着いたから」

 俺は、二人をエスコートして、生徒会室入っていった。


 真治副会長と麗奈会計は、すでに部屋の中に居て、書類に目を通している。

 一覇は会長と書かれたデスクに座ると、真治副会長に一月二月の予定を確認している。

 そして、二月に節分祭があるのを聞いて、眉を寄せている。


 節分、これは結界解呪の法だ。この日に結界が緩み、時空の亀裂が現れる。そしてそこには八鬼がいるのだ。


「真治副会長。この節分祭の豆まき、今年は中止にできませんか?」

「それは難しいです。この行事は毎年行われていて、各界の著名人が、豆まきに来られます。特に今年は年男年女として、我が校を卒業したアイドルが来られます。在校中は凄い人気だったと聞いています」

 そこで、真治を見ていた一覇の目が細まったのを見逃さなかった。

「いえ、一覇会長に比べれば月とすっぽんなんですが。もちろん、一覇会長が月です」

 真治も一覇の目が鋭くなったのに気が付いていたのか、さすが太鼓持ちだ。

「そう。中止は出来ないのね。ならば万全の体勢で臨みましょう」

 一覇が静かに言い、俺と茜の方を見る。そうか、学園で八鬼を迎え討つことになりそうだ。俺と一覇はため息を吐いた。なるべく他の人を巻き込みたくない気持ちは当然だ。

 その様子に麗奈会計が不思議そうな顔をする。

「なにかあるんですか?」

「いや、何も……」

「そうですよね。なにもありませんよね……」

 その言い方、麗奈会計さん、すでにフラグが立っています。きっと容赦なく回収されることになると思いますので、ご愁傷様です。

 俺は心の中で合唱する。

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