第9話 ヒーロー23号?
「ヒーロー23号? そんなくだらない試作品が23体もあるのかよ!」
「開発費に百億円掛けて造った一〇万馬力の人工知能で動くロボットよ。やっと善悪の学習が終わって、まもなく実戦に投入する予定の悪を撃つ次世代型ピースメーカーよ。この文化祭が初のお披露目になるわ」
(だめだ、一覇会長、目が完全に自分に酔っている。こうなれば誰も彼女に反論することはできないだろう)俺はそう考えてだまり込むしかなかった。
しかし、一覇の発言はそこで留まることはなかった。
「いい、生徒会役員はこのイベントの準備をお願いします。茜書記、もうしばらく征哉庶務と仕事をすることになって申し訳ありません。お詫びに、今、二人が付き合っているという噂が在るみたいだけど、わたくしがそのような事実は一切ないと断言しますわ」
茜は、今、初めて自分の噂に気が付いたようで、耳まで真っ赤になって下を向いている。そして、ちらちらと俺の方を見ているのだが、俺は肯定も否定もせず、だんまりを決め込むしかない。
(そんな噂がたっていたなんて、征哉先輩に迷惑を掛けていたんだわ)
茜は俺に恐縮しているようだが、俺はもともと噂の空気を魔素として体内に取り込み、噂を事実にできる力(スキル)が自分に存在することにうすうす感じている。そうしなかったのは茜の学校での立場を考えてのことだ。
美少女に加えて庶民派で努力家の茜、好ましく思っているが、自分とは釣り合わないと考えて自重(じちょう)していたところなんだ。
俺は、ただ肯定も否定もしないことで、この関係をもうしばらく続けたかっただけなのに、一覇の断言ですっかり否定されてしまって少し肩を落としてしまう。
そして、会議は滞りなく終わり、俺は茜といつものように一緒に帰り道をいく。
「征哉先輩、私たちが付き合っているっていう噂、知ってたんですか?」
「まあ、うすうすは」
「征哉先輩、だったら迷惑じゃなかったんですか?」
「それはどうせ噂だから、いつかは消えてなくなるんじゃないか。人のうわさも七五日って言うし。
必死に否定したりして、他の奴らを面白がらせるのもしゃくだし。それに茜さんが気付いてなかったみたいだったから言わなかった。それを知って、ギクシャクしてしまって、茜さんの修行に支障がでても困るし。どちらにしろ一覇会長が否定したから、明日には消えているだろうけど」
「確かに、私がそれを知ったら、修行どころじゃなかったかもしれません」
(少しは、俺のこと気になってくれているんだ)俺は、俺に対して無関心でない茜に対して気持ちがざわついていた。
「そうなんだ。私の修行に気を使って噂を無視していたんだ。でも、一覇会長が否定したから噂は消えちゃったんだろうけど、真実だったとしても消えちゃうのかな?」
「うーん、どうなるかな? 一覇会長は一言で場の空気を従えるカリスマ性があるからな。どちらにしたって、その事実はなかったんだし、いままでと同じように振る舞えばいいのさ」
(あれ、俺は結論をあえて避けたんだけど、茜さん、がっかりしたみたいだな? 表情がくもっているぞ。俺に真実だとしたら、一覇会長を否定すると言って欲しかったのか? まさかな……)
「……はい……。それより、一覇会長が言っていたバトル企画、上手く行くんですか?」
「さあ、確かに鬼の小物の駆除の依頼は、時々、うちの神社にも来ているみたいだから、現実にいるんだろうけど……。実際に呼び出すとなるとな~。失敗する可能性の方が高いんじゃないか。まさか、一条院財閥が開発したロボットの武器商人に向けたPRじゃあないだろうな」
「そんなはずないです。それより先輩、生徒会イベントも頑張って準備しましょうね」
「いいな、茜さんは何事にも前向きでさ」
新たな仕事にやる気を出している茜を、俺はほほえましく見ている。
(色々ありそうだが、生徒会の役員を引き受けたことは正解だったかな)
そして、いつものように、電車から降りる茜を見送ると、バトルイベントに思いを馳せた瞬間、背筋に冷たい悪寒が走るのだ。
「なんだ、今のは? 茜さんになにか起こる前触れなのか? それとも……」
これから始まる文化祭に一抹の不安を感じるのだった。
それから、約一か月、貴都学園は文化祭の準備で、活気に溢れていた。
時々、行われる文化祭実行委員会でも、大きな遅れはなく、着々と準備が進んでいるようだ。
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