第8話 翌日、学校に出かけた俺は
翌日、学校に出かけた俺は、精力的に各クラスや、部活を回る。
文化祭のスローガンを伝え、企画書の提出の依頼を各文化祭実行委員に伝えていくのだ。もちろん、使命に燃えて俺を連れまわす茜の影響が大きい。
今まで無関心であった俺への対応は、生徒会の腕章のおかげで、あからさまに変わっていた。
腕章は、否応なく注目を集め、羨望と妬みの視線をとらえる。俺は居心地の悪さを感じながらも職務をこなし、放課後は生徒会室へと足を運び、茜の錬金術スキルの開発にも協力している。
そういうわけで、校内では俺と茜が一緒にいるところを頻繁に目撃されるようになってきた。それで二人は付き合っているんじゃないかという噂が、静かに校内に流れるようになるのだが……。
そこは漂う空気を無視する俺に対して、まったく空気に気が付かない茜は、なおも錬金術スキルに磨きをかけていく。
俺は茜さんに鬼道の基本を教え、スキル開発の初歩のやり方を伝授してみた。紙に触れながら、頭の中で、紙を鉄板のような材質に変えていく。
「茜さん。凄いや。筋がいいな。物質強化のスキルはもう完璧じゃないか」
「征哉先輩、ありがとうございます。色々、内なる気の出し方とか大気に流れる魔素の取り込み方とか教えてもらって、私にもできるんだって」
「そうだよ。茜さんは俺より全然凄いよ。その通り、鬼道の極意は大気から魔素を取り込むことだからな。それにスキルて言うのはその魔素を使って自分のイメージ通りに具現化することなんだ」
「あっ、そういえば、わたしのイメージの中の分子たちが、わたしに教えてくれたの。大気や大地から物資を取り込めって」
「なに、茜さんのイメージって?」
「あのね、丸っこくてかわいらしい分子がね、強化したらたくさんの手を出して繋ぎ合っている感じなの。そのかわいらしい分子が、鉄なんかの金属を取り込んだらもっと強く鋭利になるよって」
「なるほど、なんとなく言いたいことはわかる。もっと分子の言葉に耳を澄ませば、なにを取り込めば強化されるか教えてもらえるんじゃないかな」
「そうか! わたし、もっとがんばる!」
「そうだ。頑張れ!」
(俺も、周りの空気に合わせて肉体が変化しているような気がする。周りの空気を意識して体内に取り込めば、あるいは俺にも鬼道を使いこなせるようになるのか?)
俺は、茜に鬼道を教えながら、自分の可能性についても目覚めて行くみたいだった。
そんな日常を過ごし、第一回目の文化祭実行委員会が開催された。
征哉は、無事、クラスや部活から企画書を集めて、茜も企画書の入力を済ませていた。
司会の一条院さんが会を進めていく。
「それでは、文化祭実行委員会を始めます。手元の企画書の一覧、予算割について何か意見はありますか?」
(野球部は、プロ野球の二軍を呼んで対抗試合か。サッカー部も、大体、運動部会系は、プロを呼んでエキシビジョンマッチか? おっ、テニス部は凄いな。世界ランク五位の選手を呼ぶのか。まあ、予算もあるが、鬼都学園OBが、この国のスポーツ分野ではかなり力をもっているからな。軽音は世界的バンドとジョインコンサートに、絵画部は国立美術館なみの画家の展覧会……。まったくどの部も確かに金に糸目を付けていない。
クラスの企画も、有名パテシェを呼んで、カフェをやったり、有名ホテルのシェフ監修のもとに喫茶店をやったり、宝石の即売会に、有名占い師の運命占いなどなど。まったく、鬼都学園のOBが活躍している裾野の広さに閉口する。この鬼都学園で万博が開けるんじゃないか? 校庭のど真ん中に太陽の塔とか創ちゃえばいいんじゃないか)
俺は、企画書に目を通しながらため息を吐(つ)く。一年の時は、空気に徹していため、クラスの出し物の協力もぜず、本来は休みの日に学校に出ていく面倒くささもあって、自主休校を決め込んでいたのだ。
「そうね。この一年二組のグラビアアイドルを呼んで、メイド喫茶は企画のやり直しね。「金持ちの本気」の意味が分かっていないみたいね」
「一覇会長、ちっと待て、なんでメイド喫茶がだめなんだ? (俺が唯一、バイト代をはたいて行こうと思っていたのに)」
俺は一覇に食ってかかった。もちろん後のセリフは心の声だ。
「メイド喫茶には、一般大衆娯楽の匂いがプンプンするわ。そうね。金持ちの娯楽といえば、ノーパンしゃぶしゃぶかしら?」
「なに、ノーパンしゃぶしゃぶならいいのか?」
「もちろん、却下よ。まあ、うちの学校には茶道部が無いから、茶道界から著名な先生を呼んで抹茶喫茶ね。それでいいわね。一年二組の代表者の方」
「はい」
一覇が提案して逆らえる空気はない。そんなふうに、二、三修正が入り、議事は進んでいく。
「それで、ほぼ議事は終わりましたね。最後にわたくしから生徒会企画として、校庭を使って一大スペクタクル、CG無し、スタント無し、ついでに筋書き無しの鬼都学園らしいバトル企画を提案します。
それは、この鬼都市の歴史にちなんで、鬼を呼び出し、呼び出した鬼を退治する企画です」
「一覇会長、質問いいですか?」
「はい、征哉庶務」
「どうやって鬼を呼び出すんですか? 生徒に危険はないんですか? その鬼と誰が戦うんですか?」
「いい質問ね。征哉庶務。鬼は一条院家に伝わる結界解呪の法を使って呼び出します。この鬼都市には鬼を封じ込めた二重の結界が張られているのはご存じですね。第一の結界は八鬼を封印しており、第二の結界は十二支の動物鬼を封印しています。その第二の結界の一部を破り、グランドに九鬼神が封印したという時空から子鬼(しき)や、卯鬼(うき)を呼び出します。グランドにはしめ縄を張りめぐらし、結界を作り、鬼たちはそこから出でることはできません。
そして、鬼と戦うのはわが一条院財閥の技術の結晶を集めた科学兵器、ヒーロー23号です」
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