第7話 まあ、当然だな
「まあ、当然だな。この鬼都市の歴史は古い。支配者階級であったこの学園の生徒たちの先祖は魔素を使いこなす鬼道を用いて人々を導いてきた。鬼道の中には農産物にしろ工業製品にしろ付加価値の高い製品を作り出すスキルもある。それで大きな権力を得ていたんだ。
その遺伝子を代々引き継いだ子孫たちが各々のスキルを使い、世界に冠たる企業や芸術家やスポーツ選手になったんだ。
その鬼道の創始者である九鬼神社の跡取りが、なんの才能もない君っていう事実が僕には信じられないんだ」
「真治副会長、解説係をありがとう。まあ、俺には死んでいるご先祖さまになんの興味もないな。それに生きている俺自身が何者かは、俺にもよく分からないし」
「真治副会長。それを言うなら、私だって初音家とは血の繋がっていない連れ子ですし」
「ああっ、失礼。そんな意味で言ったんじゃなかったんだが。気を悪くしたなら謝るよ。茜書記」
「真治副会長、俺への謝罪は?」
「君の場合は真実だから、名誉棄損には当たらない」
俺は真治を睨みつけるのだが、反論できずに拳を握り締めている。
「はい、あなたたちそこまでよ。征哉会長秘書は私の秘書としての才はあるわ。もし、路頭に迷ったら、わたくしを訪ねてくればいいわ。征哉会長秘書には特別に仕事を用意してあげる。自暴自棄になって、更衣室に潜り込んだり痴漢をしたりしないようにね。
さすがに、刑務所にはいったら、一条院財閥の力をもってしても救えないわ」
「一覇会長、なんで、そこに話を戻すのか!」
「そうよ。話が戻ったところで、文化祭の件、皆様お願いしますわ。それから、征哉庶務に茜書記、書記と庶務の腕章を渡しておくわ。あなた達ではこれが無ければ誰も話を聞いて貰えないわ。学校に居る時は常にして付けておくこと。
それから、一応、連絡事項とかもあるから、毎日、放課後に生徒会室に顔を出すようにお願いするわ」
「生徒会の腕章か……。俺、目立つこと嫌いなんだよな」
「がまんしなさい。これも生徒会の伝統ですから」
「それに、毎日、ここに来ないとダメなのか。面倒臭いな。何か利点でもないと。一覇会長、あそこのドリンクバーは勝手に飲んでいいのか?」
「一杯、百円よ」
「金を取るのかよ!」
「当たり前よ。産地から空輸のフルーツの果汁100%のジュースに、セイロンから取り寄せた最高級茶葉を使った紅茶、それからブラジルから取り寄せた最高級豆を使ったコーヒーよ。百円ならタダみたいなものよ」
「もう、何を聞かされても驚かねえ。やっと、この学校に自動販売機が無い理由や、この学校の実態がわかったよ」
「そう、それはよかったわ」
「ところで、もう帰ってもいいのか? 俺、電車の時間が在るし」
「あっ、私もです」
「ええ、構わないわ。気を付けて帰ってね。茜書記」
「はい」
「じゃあな」
俺と茜は連れだって生徒会室を後にする。
「あの……、征哉庶務。大変なことになりましたね。この学園の生徒会役員になるなんて。私、なんの取柄もないのに」
「ああっ、茜さん。征哉でいいよ。役職はいらない。だって、そんな肩書きで自分が変われるわけじゃあないだろ」
「そうですよね。征哉先輩」
「それに、茜さんにだって、きっと何か優れた取り柄が在るよ。絶対」
「あの、そうでしょうか?」
「なにか、得意な事ってないのか?」
「うーん。勉強は普通だし、運動はどちらかと言えばどんくさい方だし。あっ、そう言えば、幼い頃から物にさわると、その物がどんな材質かわかったり、イメージですけど分子レベルでの結合状態がわかったりします」
「へえー、茜さんって、先祖は錬金術師だったのかもな。それって、強化したり形や材質を変えたりしたりできるの?」
「さあ、やったことはないから……。今度やってみます」
「そうだな。やってみる価値はあるかな。それが自信に繋がれば……。それに、一覇会長の口ぶりじゃあ、俺や茜さんをこの学校に馴染める意図があって、生徒会の役員に任命したみたいだし」
「そんな……。無理ですよ」
「茜さんは大丈夫さ。素質は十分あるから。問題は俺だよ。俺、中等部から通っているんだけど、今日初めて、あの学園の生徒たちの生活水準を知ってしまった。俺、よくこんなブルジョア学校に通っていると自分でもビビっちまった」
「だって、ここの学校の入学金や授業料すごく高いのに……。征哉先輩だって、ブルジョアじゃないんですか」
「さあ、親は俺に金を使おうなんて、これっポッチも考えていないし、俺も親の経済状況なんてよく知らない。俺の場合、九鬼神社の跡取りってだけで入学金や授業料が免除、制服もろもろ付与って言われて、普通の高校に入るより安くつくからって、親に言われて入っただけだし」
「それは鬼道の創設者で、八方位から災いを撒く八方鬼を封印した直系ですもの。優遇されて当然ですよ」
「その鬼道、うちに伝わっているのはほとんど今や禁忌の呪術で、俺もどんなものかさっぱり分らんからな」
「そうなんですか……。でも鬼道について、征哉先輩は色々知っているんですよね」
「まあ、多少は知っているけど、俺は才能無いみたいで、実践はからっきしだな」
「だったら、わたしの錬金術の練習に付き合ってください。お願いします」
「うーん。わかった。役に立てるかどうかわからないけど」
「ありがとうございます。征哉先輩」
そんな話をしながら、校門を出て、電車に乗り、俺は先に駅を降りる茜を見送る。
(まったく、安い請け合いをしたものだ。それにしても、美人二人に頼まれれば断れないか)
普段は、楽なので、わざと空気に流されることが当たり前の征哉にとって、珍しく、自分の意志で協力することに責任感を感じているのだ。
(まずは、明日からだな)
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