第32話 数日が過ぎた大みそか午後二時
それから数日が過ぎた大みそか午後二時、俺は、今、一覇家の豪邸の前に立って、呼び鈴を押している。門から見える建物は敷地面積千坪以上、その上に立つ白亜の豪邸。まるで、西洋のお城を見ているようだ。
まったく、何部屋あるんだ? 金持ちの家って言うのは、無駄に広いな。
そんなことを考えながら、俺はこうなった経緯を回想している。
なぜ、こんなことになったのか? それは、鬼都湖で離鬼と兌鬼を倒した日の翌日の会話、とりわけ九鬼神の発言が原因だった。
「なんとか、八鬼のうち四鬼、坎鬼、震鬼、離鬼、兌鬼は倒したんじゃが、これから出てくる鬼は、今までのとは桁違いじゃ。北東の艮鬼(ごんき)、南東の巽鬼(そんき)、南西の坤鬼(こんき)そして、北西の乾鬼(けんき)。こいつらはおそらくレベル70以上、それぞれレベル20を超える二種類の十二支鬼を従えておる。
それに、特殊スキルも持っていて知能も高いんじゃ」
「特殊スキルだって?」
「そうじゃ、乾鬼は、9回打ち合うと、どんな神剣でも砕けてしまう魔剣を持っておるし、巽鬼は、淫鬼じゃ。こやつの淫夢からはいかにレベルが高かろうと逃れられん」
「じゃあ、その魔剣と打ち合えば、斬鬼丸も砕ける……」
俺は、あえて巽鬼については言及しない。大体想像は付くし、それを一覇や茜の前で言うのは憚られる。
「そうじゃな。そして斬鬼丸が砕かれれば、わらわたちに勝ち目はない。しかも、この斬鬼丸、すでに、四度打ち合っておる」
「あと、四回か……」
「それに、裏鬼門から災いを成す坤鬼は、未来を読む。さらに鬼門には、最強の艮鬼が控えておる。こやつのスキルは、これを言うとお前らは絶望するかもしれん。知らなくていいことじゃ……」
「そうか。で、俺たちは今後どうすればいい?」
「昨日、征哉と茜は、離鬼と兌鬼を倒したことで、レベルは48に達した。一覇も42じゃ。じゃが、お前たちには、早急にレベル50に達してもらわなければならん」
「なるほど、そうだろうな」
「それで、茜はこの斬鬼丸を渡しておくので、まったく同じ物を錬成して作り上げる修行をするのじゃ」
「はい、わかりました!」
茜は、九鬼神から斬鬼丸を手渡されている。
「それで、一番レベルの低いわたくしはどうやって、レベルをあげるのですか?」
「それじゃが、征哉のもっとも嫌がることを、場の空気で従わせやらせるのじゃ。そうすることで、一覇のレベルが上がる」
俺がもっとも嫌がること? なんかいやな予感がする。
「具体的には、わたくしは征哉に何をさせればいいんですか?」
一覇の問いに、九鬼神はにやりと笑って俺たちの方を銀の瞳を輝かせて見た。
「一覇の両親に、一覇とお付き合いさせてくださいとお願いしにいくのじゃ!」
「えっと、それは……」
一覇、完全に目が泳いでいる。どうするんだよ。この空気。俺はこの空気にあえて逆らう。
「……冗談じゃないんだよな」
「あたりまえじゃ。一覇のレベルを上げるには、これしかないじゃろう!」
なんちゃって、今のは冗談でしたという空気にしたかったのだが。あっ、ダメだ。真面目な一覇は、九鬼神の言葉をすっかり鵜呑みにしている。
「わかりました。征哉君、わたくしの両親に会ってもらえませんか?」
だめだ。言葉に出してしまった。一覇のレベルを上げるためには、俺はこの空気に従ってあげなければならない。でも、俺たち付き合っていたっけ? お互いの気持ちを確かめる前に、両親に挨拶っておかしいだろう。
なんか、茜も納得できないって顔をしているぞ。
「……いいのよ。だってお芝居なんだから……。それに、両親はわたくしのスキルで、記憶を操作して、なかったことにできるんだから……」
「まあ、そうだな。フリなんだからやるよ。俺たちの最優先事項は、レベルアップだ」
俺も勢いで九鬼神の企みに乗ってやることにする。
それで、一覇の家の前で、呼び鈴を押しているわけなんだが。
門が自動で開き、中から佐藤さんが出て来た。知った人が出てきて助かった。こっちは緊張で、心臓が口から飛び出しそうなぐらい胃もキリキリしているのだ。
そして、佐藤さんに広い応接室に案内されて、現在、ふかふかのソファーに腰掛けている。
「ああっ、やっぱり来るんじゃなかった……。なんで、俺が一覇の両親に挨拶しないといけないんだよ。一覇とはクラスメート、そして生徒会以外になんの接点があるんだよ」
お手伝いさんに出された紅茶には手も付けず待つこと五分。一覇と両親が応接室に入ってきた。俺は立ち上がって直立不動で迎える。紳士、淑女が、紋付袴、一覇も振袖で入ってくる。なんで娘の彼氏に会うのに正装なの? 俺は鬼都学園の制服なんだけど? もっとも、俺の持っている服の中では一番高い服であることは間違いない。
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